MTもATも変幻自在で変更可能!? そこそこ売れた後付オートマ装置【旧車雑誌オールドタイマーより】

業界唯一の?サビ取り旧車雑誌「オールドタイマー」の過去記事からおもしろネタを厳選して再掲載!

◇◇◇下記、当時原文ママ(2005年8月号)◇◇◇

後付けオートマ「カズマティック」 1965年編

昨今、乗用車のオートマ普及率は限りなく100%に近い。自衛隊にもAT車が増えたというから、日本人も不器用になったもの。しかし、ラクをしたいのは誰も同じ。で、昔の人も考えた。なんとかMTをATにできないか。そこで登場、後付けオートマ装置。 これが結構、よくできてる。今、作ったらイケるかも?

文/錆田正一(解体部品幻想家)

今や免許は「オートマ限定」が普通。ヘタにマニュアル車乗れるとオッサン扱いされ、ややもすればオタクのレッテル貼られます。獄門打ち首覚悟で言えば、「オバさん」と「おネエさん」の境界線もここにあり。苦もなくマニュアル車が運転できるのはオバさんの証ですから、日頃、若作りに必死のご婦人方はご注意を(間違ってもコラムシフトを鼻歌で操っちゃいけません)。

わが邦のAT技術、もはや世界一。ニッポンは押しも押されぬオートマ大国。じゃあいつからオートマ車が普及したのか? ラインアップで先鞭付けたのはトヨタのクラウン。同社は終戦翌年にオートマ開発を始め、英リゾルムスミス型を研究。’54年にトルコンを試作し、’59年、マスターラインバンに積み「トヨグライド」の名で売り出した。これはD-Lレンジをいちいち手動操作する 半自動式 でしたが、’63年からは全自動2段式に進化。

’65年のクラウンにおけるオートマ装備率は24%、「デラックス」に限れば3割を超えた。クラウンだけじゃない、’65年はちょっとした 2ペダルブーム 。試しにオートマ設定のあった’65年車とその商標をざっと並べてみます(カッコ内はオートマの機構方式)。

軽ではR360クーペの「トルクドライブ」(流体トルコン+プラネタリーギヤ)、スバル360「オートクラッチ」(電磁粉クラッチ)。小型車はパブリカ/コロナが「トヨグライド」(流体トルコン+プラネタリーギヤ)、ファミリア「スーパードライブ」(同前)、スカイライン1500「スペースフロー」(同)、ベレット「ボルグワーナー」(同)など。変わりダネにコルト1000「スキャット」(電磁粉クラッチ)、ブル1300「オートクラッチ」(サキソマット)なんてのもあった。もちろん、セドリック、グロリア、デボネア、プレジデント、クラウンエイトにもトルコンのオプションがギンギンにありました。

ちなみにMT車との価格差はR360クーペで2万円、パブリカ4万円、ベレット7万円、セドリック8万円とおよそ本体の1割。マア、新車が買える御身分にはそう痛くはない。ただ当時のマイカー族の大半は中古車乗りだから、オートマが欲しくてもそうそう乗り替えられない。「2ペダル車は故障するとカネがかかる」との風評もあったからラクチン(死語)と知っていても躊躇した。

そんなスキマ市場を狙って開発されたのが、今回ご紹介する大金製作所の「カズマティック」。発想大胆なる後付けオートマです。

マニュアルミッションにくっつけるATユニットは古今東西に例がある。その大半はシフト時に一瞬スイッチが入り電気的もしくは機械的にクラッチを切る「タイム制御方式」。だがこれでは半クラを使ったスムーズなスタートができない。そこで同社が考えたのが「ストローク制御方式」。簡単に言えばクラッチの「キレ」と「ツナギ」の微妙な間合いを、シフトレバーの操作とアクセルペダルの踏み込みシロ(ストローク量)でコントロールしようというもの。

基本原理は意外や簡単。エンジンのインマニから得た負圧をタンクに溜め、そいつでクラッチマスターシリンダー直結のピストンを動かしクラッチを切る。シフトが済んだらタンクに逆向きの負圧をかけてピストンを引っ込めクラッチをつなぐ。負圧バルブセンサーはシフトリンケージに、その制御バルブセンサーはキャブレターベンチュリーに付き、シフトレバーにさわるとクラッチが切れ、アクセルをビミョーに踏み込むとクラッチがつながるワケ(図参照)。

では運転してみますか。まずニュートラル位置を確認してセルを回す。エンジンが掛かり負圧タンクに力がみなぎる。シフトレバーに触れると負圧バルブのスイッチが入りクラッチが切れる。ローにシフト。アクセルを少し踏み込むと、今度はキャブレターベンチュリー側の負圧がクラッチマスターを押していたピストンを引き戻す。ジワリとクラッチがつながり、優雅にスタート。走行中の変速も同じ要領。渋滞路や坂道発進も御心配なく。アイドリングリレーがあるからエンジン回転数が一定以下になると自動的にクラッチが切れる。とにかく貴殿はビミョーにアクセルを踏んでいただくだけ。しかも、オートマに飽きたら従来のマニュアル式に切り替え可能。これを革命的発明と言わずして何をかをいわんや。

実際、この商品はそこそこ売れたらしい。小生も5、6年前、コスモスポーツの不動車に付いているのを見ました。ではなぜ消えたか。

やはり耐久性でしょう。何せクラッチの断続が、左手と右足のビミョーな動きに呼応しちゃうんだから。同社のデータによれば毎分6回のクラッチ作動テストを1日6時間、これを3.5年分行って問題なかったと言うが……小生のような貧乏ユスリの鬼にかかりゃ赤子の手をひねるようなもんですね。

●エンジン始動とともに1❶インマニの吸い込み負圧が❷メインバルブを通じて❸負圧タンクにたまる。このタンクは❹ダイヤフラムの右室(押し側)と左室(引き側)に一定の負圧をかける。チェンジレバーをニュートラルからローに入れるとチェンジレバー接続の❺メインバブルリレーが作動、メインバルブを動かして負圧タンクとダイヤフラムの「押し側」がつながる。これにより❻クラッチマスターシリンダーの❼ピストンが押し出されて❽スレーブシリンダーを動かし、❾クラッチを切る。シフトを終えたらアクセルを軽く踏み込む。するとキャブレターベンチュリー接続の負圧パイプが❿コントロールバルブを通じてダイヤフラム右室に負圧をかけマスターシリンダーピストンを引き戻す。これでクラッチは接続。⓫急発進バルブはその名のとおりロケットスタート用。アクセルを強く踏み込んで作動させるとダイヤフラム右室とメインバルブのインマニ通路が直結、強い負圧でクラッチが瞬時につながる

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