世帯年収の高い共働き家庭を指す「パワーカップル」。しかし、教育支援の対象外になるなど、一部のパワーカップルからは「むしろ損している」といった声を聞くことがあります。また、パワーカップルには世帯年収の明確な定義はなく、ひと口にパワーカップルといっても収入によってその暮らしぶりはさまざまです。

そこで今回は、世帯年収別のパワーカップルの生活や、支援金などで損しやすい世帯年収について解説します。

  • 世帯年収別パワーカップルの暮らしぶりは?

■パワーカップルの世帯年収はいくら?

パワーカップルとは、夫婦ともに高い収入を得ている共働き家庭を指す言葉ですが、明確な定義があるわけではなく、各メディアや研究機関がそれぞれ独自の定義を設定しています。たとえば、三菱総合研究所では「夫の収入が600万円以上、妻の収入が400万円以上で、世帯年収が1,000万円以上の夫婦」、ニッセイ基礎研究所では「夫婦とも年収700万円超の世帯」と定義されています。

このように、パワーカップルと定義する世帯年収はまちまちですし、収入が変われば使えるお金にも違いが生じます。また、収入が上がると所得要件に引っ掛かり、国からの支援金などが支給されなくなる収入ラインもあります。

パワーカップルといっても、それぞれの世帯年収ごとに経済的な事情は異なりますが、では、世帯年収が800万円、1,000万円、1,200万円、そして1,400万円で、特に子どもがいる家庭では、どのような生活を送っているのでしょうか。

  • 世帯年収別手取り目安額

■世帯年収800万円、1,000万円の暮らしぶりとは

厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、世帯年収800万円~1,000万円の世帯は全体の8.5%となっています。世帯年収800万円、1,000万円の暮らしぶりはどのようなものなのでしょうか。

<世帯年収800万円の場合>

国税庁の「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均給与は男性が563万円、女性が314万円ですので、共働きであれば、世帯年収877万円ということになります。そのため、パワーカップルの定義にもよりますが、世帯年収800万円はパワーカップルというより、一般的な共働き家庭に近い世帯年収と言えそうです。

また、世帯年収としては800万円あっても、税金や社会保険料などが引かれることを考えると、共働きで400万円ずつ稼いだ時の手取りは630万円ほどになります。ボーナスを考慮せず単純に12カ月で割ると1カ月の手取りは約52万円ですので、生活にはゆとりがありそうですが、子どもがいると教育費がかさみ、「余裕がない」と感じるご家庭も多いようです。

<世帯年収1,000万円の場合>

世帯年収1,000万円の大台に乗ってくると、家計にはかなりゆとりがありそうに感じます。共働きで500万円ずつ稼ぐ場合、手取り年収は780万円ほどあり、単純に12カ月で割ると1カ月の手取りは約65万円になります。

ただし、年収1,000万円を少し超えると、「高等学校等就学支援金」の対象から外れ、国から受けられる支援がなくなってしまうというデメリットがあります。

高等学校等就学支援金とは、高校進学を希望する子どもを対象に、国が授業料の全額または一部を支援する制度です。この支援金には所得要件があり、共働きの場合、対象となる世帯年収の目安は1,030万円以下です(子2人(高校生・中学生以下)扶養控除対象者が1人の場合)。

高等学校等就学支援金の対象から外れると、年額11万8,800円の支給がなくなるため、教育費の負担は増えてしまいます(東京都では、都内在住の生徒に限り2024年度から所得制限を撤廃)。

なお、共働きの場合は当てはまらないものもありますが、年収900〜1,000万円付近には、このほかにも、配偶者(特別)控除などボーダーラインが設定されている制度が多くあります。共働き世帯に限らず、支援などがなくなることでかえって生活に余裕がなくなるケースもあるでしょう。

■世帯年収1,200万円、1,400万円はどんな生活?

前出の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、年収1,200万円以上の世帯は全体の7.4%です。一般的な家庭と比べて高収入となるこれらの家庭は、どのような暮らしぶりなのでしょうか。

<世帯年収1,200万円の場合>

世帯年収1,200万円の場合、共働きなら、手取り収入は930万円ほどになる計算です。単純に12カ月で割ると、1カ月の手取りは約77万円になりますので、一般的な家庭と比べて経済的にかなり余裕があるでしょう。

なお、パワーカップルには、同じ世帯年収の片働き世帯より手取りが多くなるという強みがあります。所得税の税率は、収入に伴って上がる「累進課税」が採用されており、たとえば、所得金額900万円未満の場合は税率23%ですが、900万円以上になると税率は33%に跳ね上がります。

そのため、一人で年収1,200万円を稼ぐ場合の手取り収入は約865万円となり、共働きで600万円ずつ稼ぐ場合は片働きより年収が65万円も多くなります。

ただし、世帯年収1,200万円のパワーカップルであっても、子どもが3人、4人といたり、中学受験など教育に大きなお金がかかったりすれば、必ずしも家計に余裕はありません。また、収入が多いからこそ、支出も膨らみがちになる点には注意が必要です。

<世帯年収1,400万円の場合>

さらに年収が上がり、夫婦がそれぞれ700万円ずつ稼ぐ場合は、手取りが1,055万円ほどになります。これを単純に12カ月で割ると、1カ月の手取りは約88万円にものぼり、片働きで1,400万円稼ぐ場合と比べると、手取り年収は約85万円も多くなります。

世帯年収1,400万円のパワーカップルであれば、住宅を購入する際も高額物件が視野に入るでしょう。パワーカップルは、ペアローンを組み、それぞれが住宅ローン控除を受けられる点も強みです。住宅ローン控除とは、年末における住宅ローン残高の0.7%が、所得税と住民税から控除される仕組みです。

住宅ローン控除は、年収が高くなければ住宅ローン残高の0.7%を控除できないケースもあり、片働きの場合、1人分の税額からしか控除されません。そのため、共働きのパワーカップルはそれぞれの所得税・住民税から控除されお得なのです。

世帯年収が1,400万円あれば、住まいや教育などの選択肢も広がり、生活のあらゆるシーンにおいて、ある程度自由にお金をかけられるようになります。その反面、夫婦ともに多忙なため、時短のための家電や家事代行サービス、外食などにお金がかかり、全体的な生活コストが膨らんでいる家庭が多い印象です。

もちろん、片働きよりお得といっても、収入が上がれば税金や社会保険料も上がって負担は大きくなります。iDeCo(個人型確定拠出年金)やふるさと納税などを積極的に活用し、少しでも手元に残るお金を増やしましょう。

■パワーカップルも家計を守る工夫を

「パワーカップル」というと裕福な暮らしぶりを想像しますが、収入や家族構成によっては意外と家計に余裕はない、というケースは少なくありません。また、収入が高くなるほど、税金や社会保険料の負担は重くなるため、収入に比例してどんどん手取りが多くなるわけではありません。

「勝ち組」の線引きをするのは難しいですが、制度の所得制限に引っ掛かってしまいがちな世帯年収1,000万円付近のご家庭は、共働きかどうかに関わらず、家計への負担を感じることがあるのではないでしょうか。収入が多くても、支出にメリハリをつける、税制優遇制度を活用するなど、家計を守るための工夫は忘れたくないものです。