昨今話題の「FIRE」という言葉。経済的に自立して早期退職をする意味の言葉ですが、どのくらいの資産があればFIREできるのか気になるでしょう。そこで、50歳でFIREするケースを想定して、どのくらいの資産があれば実現できるのか、具体的な数字を用いて試算してみたいと思います。

  • いくらあれば「FIRE」できる?

    いくらあれば「FIRE」できる?

FIREとは?

FIREとは、「Financial Independence, Retire Early (経済的な自立と早期退職)」の頭文字をとった言葉です。通常の早期退職(アーリーリタイア)と違うところは、早期退職したあとの資金の確保です。一般的に早期退職したあとは、これまで貯めた貯金や退職金、年金を生活資金として、取り崩して生活していきますが、FIREの場合は、投資元本を用意して、その運用益で生活していくスタイルになります。そのため完全なFIREであれば、元本を減らすことなく生涯を終えることができます。

FIREには「4%ルール」というものがあります。これは、年間の生活費を投資元本の4%未満に収めれば、資産を減らすことなく生活できるという考え方です。なぜ4%なのかというと、米国株式市場の成長率7%から同期間の物価上昇率3%を引いた値が4%であることによります。米国株式を中心に資産運用を行なえば、年間4%程度の利益を見込むことができるので、生活費がこの範囲に収まれば、元本は減らずに、翌年以降も同程度の利益が得られると仮定できます。

この4%が基になって、FIREを実現するためには、1年間の生活費の25倍の資金を用意できれば達成できると言われています。つまり4%は1/25なので、25倍というわけです。

たとえば、年間の生活費が300万円だった場合は、その25倍である7,500万円が投資元本として必要になるということです。1年間の生活費は人それぞれなので、年間200万円で生活できれば、投資元本は5,000万円となり、年間500万円支出するなら、投資元本は1億2,500万円になります。ただ、これらは理論上の話であり、実際には4%の運用益を毎年確保できるとは限りません。4%ルールはあくまでも目安として考えましょう。

50歳でFIREするには資産はいくら必要?

前出の例から、年間300万円で暮らす場合は、7,500万円用意できればFIREが可能ということがわかっているので、7,500万円あれば、いつでもリタイアできることになります。しかし実際問題として7,500万円の資金を用意できる人は限られてくるでしょう。そこでもう少し現実的に考えて、将来もらえる年金額を引いて生活費を出し、年金を受け取るまでは、元本を運用しながら足りない分は取り崩して生活費に充てることにします。この条件で最低限必要となる資金を出してみたいと思います。

*50歳単身者の場合

50歳で早期退職するということは、年金が受給できる65歳までの15年間の生活費は全額貯蓄で用意する必要があります。生活費は月20万円として、年間240万円とします。15年間なので単純計算すると3,600万円になります。しかし、これは単なる早期退職ではなく、「FIRE」なので、投資の運用益も考えなくてはなりません。

65歳からは年金が受給できるので、月の生活費20万円から年金分を引くことができます。年金額は厚生労働省の「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金の受給者の平均年金月額が14万4,982円であることから、引かれる税金なども考慮して14万円としましょう。そうすると、残りの6万円を投資元本の運用益から得られれば、FIRE成功となります。4%理論でいくと、年間72万円(6万円×12ヵ月)を得るためには、その25倍である1,800万円の元本が必要になります。

ここから逆算していきましょう。50歳から64歳まで、年利4%の運用益と足りない分は元本を取り崩して、年間240万円を15年間にわたって得ながら、65歳時点で1,800万円の元本が残っている状態にすればいいわけです。

投資元本から1年目の生活費240万円を差し引いた額に対して年利4%で運用をし、その元利合計額から2年目の生活費240万円を差し引くといった感じで15年間続けると、下記のように投資元本が減っていき、15年目には1,846万円になります。この場合の最初に用意しておく投資元本は3800万円となります。

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    65歳から年金を受給するケース

15年目以降は年金が受給できるため、投資元本を減らさずに、運用益だけで生活できることになります。

以上のことから、年間の生活費240万円、年金受給額168万円の人が50歳でFIREを実現するためには、3,800万円の元手が必要という結論になります。

*繰上げ受給で60歳から年金を受け取る場合

先ほどの例は、65歳から年金を受給するケースでしたが、繰上げ受給の制度を利用すれば、60歳から年金を受給することができます。繰上げ受給をすると、以後の年金額が減額されますが、元本を取り崩すのは50歳から60歳までの10年間で済みます。どちらのケースが用意すべき資金が少なくて済むのか、60歳から受給のケースも試算してみたいと思います。

繰上げ受給をして60歳から受け取ると、24%年金が減額され、年金額は127万6,800円になります。これが一生続きます。年間の生活費は240万円なので、112万3,200円足りないことになり、この金額を投資の運用益で得ます。112万3,200円の25倍である2,808万円が60歳時点で投資元本として残っていればFIRE成功となります。

あとは50歳から60歳までの10年間、年利4%の運用益と足りない分は元本を取り崩して生活するための投資元本を計算します。

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    繰上げ受給で60歳から年金を受け取る場合

同じように計算すると、3,920万円の投資元本があれば10年目に2,806万円が残ります。このあとは、年利4%で運用できれば、元本を減らすことなく生活できることになります。

65歳から受給と比べてみると、50歳時点で必要になる投資元本は120万円増えて3,920万円になりました。ここだけをみると、必要になる投資元本が増えているので65歳から受給の方が良い気がします。しかし、年金を受給し始めて、運用益だけで生活するようになった時に、65歳からの受給では約1800万円の元手が残るのに対して、60歳からの受給では約2,800万円の元手が残ります。その差1,000万円です。必ず4%の運用益が確保できる保証はない上に、想定外の出費が発生することもあるので、元手資金は多い方が安心です。ただし投資元本を減らしてしまうと利回りは下がってしまい、最終的には元本の取り崩しになる可能性もあります。それも含めて元手は多い方がいいでしょう。

120万円の上乗せが可能なら、60歳からの繰上げ受給を考えてみてもいいのではないでしょうか。

*繰下げ受給で70歳から年金を受け取る場合

繰上げ受給のケースを考えたので、繰下げ受給についても試算してみましょう。繰下げ受給はひと月繰下げるに従って、0.7%増額されるので、70歳まで繰下げると42%増額します。70歳1ヵ月まで繰り下げると年金額が約240万円となり、年間の生活費と同じになります。つまり、投資して運用益を得る必要がなくなり、年金だけで暮らせるようになります。その代わり、50歳から70歳1ヵ月まで生活するための投資元本が必要となってきます。この場合、単純に投資元本を20年1ヵ月で取り崩していけばいいので、4%の利回りで計算すると当初の資金は3,310万円となります。

65歳受給に比べて490万円、60歳受給に比べて610万円少なくて済みます。ただし、年金の受給が開始されてからの手元の資金は0円になるので、これはFIREではなく、「年金だけで暮らせる人」ですね。

まとめ

「50歳でFIREするには資産はいくら必要か」を試算してみた結果、およそ3,800万円という金額になりました。試算の条件は、年間の生活費が240万円の単身者で65歳から年金を168万円受給できる人です。この条件が変われば、金額も大きく変わるのであくまでも目安です。

3,800万円は大金ですが、これまでの貯蓄や退職金を合わせれば、決して不可能な金額ではないと思います。また、完全なFIREではなく、退職後も資産運用とあわせて副業などで収入を得ながら生活する「サイドFIRE」なら、目標金額を下げることができます。自分には関係ないと思っていた人も、早めに資産形成を始めれば、「FIRE」が新しいライフスタイルとして選択肢に入ってくるかもしれませんね。