• 食卓を囲む金山さん一家 (C)フジテレビ

今回の取材を通して改めて感じたというのは、「ある日突然、180度人生が変わってしまうという人が本当にいるんだ」ということ。そして、あさ奈さんという人の前向きな姿だ。

「救急搬送される1週間前に夫婦で三代目J SOUL BROTHERSのライブに行って、3日前には北里大学病院の産科で出産に向けての診察を受けていたんです。倒れた日の朝には、息子さんを保育園に送っていったのに、気がついたら右半身が麻痺してしまった。そんな状態になったら、“どうして私なの…”とつらい気持ちになると思うんです。でも、あさ奈さんは“(悔やんでも)しょうがない”と言う。その常に前を向く姿勢というのを、彼女から教えてもらった気がします」

そして、「大学を卒業して、保険会社に勤めて28歳で退職し、そこから職業訓練学校に行って、自動車整備士になったという方ですから、もともと持っていたバイタリティで乗り越えられた部分もあったのだと思います」と分析する。

そんな彼女を一番に支える夫・文哉さん。彼の印象を聞くと、「とにかく優しい人です。仕事の関係で朝6時に家を出るので、朝4時に起きて5時に洗濯物を干して1人でご飯を作って、帰宅するのも夜8時くらい。子どもたちが野球とドッジボールをやっているので、土日は車で送り迎えしてあげていて、本当に大変だと思います」と明かしてくれた。

印象に残る「クリスマスパーティー」の場面

「後編」では、退院したあさ奈さんが失語症と闘いながら、文哉さんとともに子育てや日常生活に奮闘する姿が描かれる。その中で、荒井氏が見どころとして挙げるのは、文哉さんの母宅で行われるクリスマスパーティーの場面だ。

「文哉さんのお母さんは、車の中で夫婦が仲良くしゃべるのを聞いているのが、自分にとってとても幸せな瞬間だったとおっしゃっていたので、病に日常を奪われたということに関して、すごくショックが大きかったはずなんです。だからこそ、クリスマスパーティーでは本当にうれしそうで、みんなの幸せそうな表情にグッときます」

今後も、金山さん一家と交流を続けながら、タイミングを見て取材していく意向。「何とか無事出産した三男をはじめ、子どもたちがどう成長していくかというのは見ていきたいですね。障害を持った母に育てられて、優しくなっていくのか、そのままなのか分かりませんが、年に4回くらい遊びに行きがてら、追っていきたいと思います」と話している。

●荒井裕晶
1983年、日本テレビ開局35周年特別番組『北南米大陸:地球縦断30000キロ』の制作を起点にテレビドキュメンタリー番組を中心に活動。NHK『南米大陸ラリー紀行』、ABCテレビ『素敵にドキュメント』、フジテレビ『今夜は好奇心』、日本テレビ『スーパーテレビ情報最前線』のほか、『ニッポンのお母ちゃん』『石田さんチの大家族』などの家族ドキュメンタリーや事件・医療・街を題材にした特別番組を手がけた。2013年に制作会社「ワンズワン」の代表取締役を退任後、現場でドキュメンタリーのディレクタションとプロデュースを行っている。