JR北海道は、2024年3月16日のダイヤ改正で「エアポート」「ニセコライナー」の全列車を桑園駅に停車させると発表した。札幌駅の隣駅である桑園駅周辺には、一体どのような魅力があるのだろうか。実際に降り立ち、歴史を振り返りつつ街を歩いてみた。

  • 桑園駅は高架駅。西口と東口がある(筆者撮影)

函館本線と札沼線(学園都市線)が接続、かつて市電も走っていた

雪降る1月の桑園駅に降り立った。高架線に島式ホーム2面4線を備える駅で、函館本線と札沼線(学園都市線)の接続駅でもある。1日あたりの乗車人員は9,429人(2022年度)で、JR北海道の駅では6番目に多い。

「桑園」は都市計画上の地名ではなく、地域の通称である。開拓使が移民に養蚕を奨励し、1894(明治7)年に琴似川周辺に模範園として桑園を開設。蚕の主食となる桑の栽培にあたり、旧酒田県(現在の山形県)の人々が尽力したという。これ以降、一帯は「桑園」と呼ばれるようになった。

  • イオン札幌桑園ショッピングセンターは桑園貨物駅の跡地に2002年10月オープン(筆者撮影)

  • 駅前を通る道道326号線。かつては市電が走っていた(筆者撮影)

ホームから階段を降りて改札口を出ると、南側に高層マンションが林立する駅前広場が広がる。札幌市内の各方面に向かうバスが発着するほか、イオン札幌桑園ショッピングセンターやドラッグストアなどが軒を連ねていた。札幌駅の隣駅という中心部へのアクセスの良さも手伝ってか、街を歩いている人も子育て世代をはじめ、若い人が多いように感じられる。

駅から南に向かって、道道326号線が伸びている。この通りにはかつて、札幌市電桑園線が走っていた。同線は1929(昭和4)年10月に開業し、1960(昭和35)年5月末をもって廃止。桑園駅前停留場を発着していた5系統は札幌市の中心街を経由し、旧定山渓鉄道の豊平駅まで向かう長距離路線だった。

市電が走っていた頃から高架駅になる頃にかけての桑園駅周辺は、倉庫の建ち並ぶ物流の街だった。駅の北側にある札幌競馬場への道はある程度活気があったようだが、それ以外は人もまばらで、食堂すらほとんどなかったという。1988(昭和63)年に桑園駅が高架駅となってから開発が急速に進み、現在の景観が形成されていった。

駅北側にJR北海道本社と市立札幌病院も - 徒歩でJRA札幌競馬場へ

次に函館本線・札沼線(学園都市線)の高架をくぐって、駅の北側に行ってみることにした。歩車分離式の横断歩道を渡ると、市立札幌病院が見えてくる。旧国鉄用地を活用し、1995(平成7)年に開院した大病院は、桑園駅前の開発に拍車をかけた。駅周辺の一帯はかつて国鉄の倉庫や貨物線が広がっていたが、高架化以降にできた広大な土地を活用してマンションや各種施設が建設されたほか、JR北海道の本社も桑園駅と直結するビルに移転。同じビルにJR貨物の北海道支社も入居している。

  • 駅の北側にある市立札幌病院。国鉄札幌用品庫の跡地に建設された(筆者撮影)

  • JR北海道の本社は桑園駅に直結(筆者撮影)

現在の桑園駅には、「JRA札幌競馬場前」という副駅名が付けられている。駅の南側から無料シャトルバスも発着しているが、今回は競馬場まで歩いて向かうことにした。ファミリー向けのワゴン車が行き交う駅前を出て、「鉄工団地通」と名づけられた道を15分ほど歩く。北12条西15丁目交差点付近まで来ると、JRAの施設が見えてきた。

夏の「北海道シリーズ」が風物詩となっているJRA札幌競馬場は、桑園駅の成り立ちにも大きく関わっている。1907(明治40)年に札幌競馬場が開設されると、翌1908(明治41)年から競馬場への観客輸送のために開催日限定で北五条仮乗降場を開設。1911(明治44)年から「競馬場前仮乗降場」という名称で、毎年営業するようになった。

  • JRA札幌競馬場。桑園駅の成り立ちにも大きく関わっている(筆者撮影)

  • 札幌市中央卸売市場。かつては市場への引き込み線も存在した(筆者撮影)

その後、競馬場前仮乗降場が函館本線と札沼線の分岐点となることが決まり、1924(大正13)年に桑園駅として開業した。駅のルーツは競馬場にあったと言って良いだろう。

競馬場を背にして函館本線・札沼線(学園都市線)の高架をくぐると、札幌市中央卸売市場が見えてくる。このあたりまで来ると、行き交う車にトラックや事業用車が増加するため、駅前からの景色や車両の変化が面白い。なお、観光客が市場を利用する際は、場外市場も近い札幌市営地下鉄東西線の二十四軒駅が便利である。

この市場には、かつて函館本線からの引き込み線が存在した。1959(昭和34)年から1978(昭和53)年にかけて札幌市場駅という貨物駅が設置されており、全国から集まった青果や水産物を貨物列車で輸送。高架化以降の発展で痕跡らしいものは見つけられなくなったが、桑園駅周辺における鉄道の歴史を考えると、歩くのが楽しくなってくるのではないだろうか。

特別快速・快速「エアポート」停車で好循環に期待

駅周辺の散策を終えて、桑園駅に戻ろうと歩き始めると、函館本線・札沼線(学園都市線)の高架を列車が通過していった。JR線の高架化によって、桑園駅周辺は急速な変化を経験した。かつて倉庫街だった駅前は、JR北海道の本社や病院、商業施設に加え、IT企業も集結する先進的な街に変貌した。

  • 高架を走行する721系の普通列車(筆者撮影)

今年3月のダイヤ改正で、「エアポート」は小樽~札幌間において日中時間帯に特別快速と快速が毎時1本ずつ運転され、両種別ともすべて桑園駅に停車。朝に下り1本(蘭越発札幌行)、夕夜間に上り1本(札幌発倶知安行)を運転している快速「ニセコライナー」も、ダイヤ改正後は桑園駅に停車する。新千歳空港駅へ直通する「エアポート」の全列車停車はインパクトがあり、桑園駅周辺への移住を検討する人も増える可能性が高い。ともすれば不動産の評価額や家賃相場などにも影響を与えるだろう。

札幌市内では、札幌駅も北海道新幹線の延伸開業に向けて再開発が著しい。その隣駅である桑園駅周辺が、「エアポート」など快速列車の停車で今後どのような変化を見せていくのか。好循環が起きることを期待したい。