先月29日に死去した、漫画家・芦原妃名子さんの『セクシー田中さん』(日本テレビ系)ドラマ化脚本を巡るトラブルに、各報道、SNSで様々な意見が寄せられている。そんな中、SNSで主流になっている流れは、担当した脚本家や日テレへの批判だ。これについて、エンタテインメントやSNS問題に詳しいレイ法律事務所の佐藤大和弁護士は「誰かを叩いてまた誰かが死んでしまったら元も子もない」と警鐘を鳴らす。

同じ悲劇を二度と繰り返さないために、どうすればいいのか。現在、業界や法曹界が抱えている問題は。そして我々はSNSとどう向き合っていくべきなのか。佐藤弁護士に語ってもらった――。

  • 佐藤大和弁護士

    佐藤大和弁護士

全般的に適切な進め方になっていなかったのでは

まず佐藤弁護士は、今回の件について「非常に残念であると感じています。避けることができたことであり、この根幹には、今までクリエイターである原作者の尊厳、地位や権利を蔑(ないがし)ろにされてきたところもあったこと、今の法律が不十分であることの結果であると考えています」と述べた。

「そして、一番避けなければならないのが、今回の件が“なかったこと”にされることです。今後次々と新たなニュースが報道され、どんどん人々の記憶から薄れていく…。その前に、どのような問題があったのかを含め、今後、第三者委員会等を立ち上げ、適切に調査をすべきことであり、それを基に今後、早急に改善をしていかなければなりません。また、トカゲのしっぽ切りのように誰かに責任を押し付けて終了ではなく、同じようなことが起きないように、取り組んでいくことが最も大事だと思っています」

現状では、日テレと小学館の間でどのようなやり取りがあったかは明らかにされていない。とかく日テレが叩かれがちだが、窓口である小学館にも考えられる責任はないのか。「あくまでも一般論として」と、佐藤弁護士はこう分析する。

「日テレと小学館の間でどのような契約が締結されていたか分かりませんが、例えば、仮に契約関係も曖昧なまま進めていたり、契約内容を原作者に対して伝えていなかったり、また原作者の尊厳を守るために日テレ側と適切に交渉をしていなかったりした場合には、小学館側にも問題があると思っています。ただ、報道を見る限り、原作者の考えや気持ちが大切にされていないという印象を受けており、日テレと小学館の間で、全般的に適切な進め方にはなっていなかったのだと感じました」

日本はクリエイター・実演家の地位・権利が非常に弱い

では、法的視点で制作サイド、原作サイドのトラブルを防ぐためにどうすればいいのか。

「まずは、一般論として、しっかりと契約書を作った上で、適正な契約関係を構築することが重要になります。その上で、クリエイターや実演家の地位と権利を守るための法律も不可欠だと思っています。今の日本では、クリエイターや実演家の地位や権利は非常に弱いものと言えます。そのため、適切な契約関係の構築を目指しつつも、発注者側の地位や取引関係を是正するような法的保護をクリエイターや実演家に与える必要があります。

 実際に、クリエイターや実演家側の代理人を多く担当していますが、多くの方々が、発注者側と交渉することによって“仕事がなくなるのではないか?”と考え、強く言えないところもあり、仮に、権利を主張した場合には“面倒なやつだ”というレッテルを貼られてしまい、仕事がなくなるのではないかと思っています。ですので、しっかりと法的保護を与える必要があります。

 とはいっても法制度を作るまでに時間もかかりますし、これだけのことが起きても国が動くことはあまり期待できないため、クリエイターや実演家側は、自らの権利を守るためには、積極的にエージェント(顧問弁護士)等を付けた方が良いかと思います。実演家やクリエイターたちは、不当に搾取されないために、“自分たちもしっかりと交渉できるんだ”という慣習を作っていければ良いと思います」