相談者は、教育ローンやその他の借り入れの返済で貯蓄ゼロの状態が続く52歳パート主婦の方。子どもは独立しているが、ローン完済はご主人が70歳。今後の家計管理や老後の準備についてFP深野康彦さんがアドバイスします。

◆完済は主人70歳のとき。貯蓄もなく、今後が不安です

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。

今回の相談者は、教育ローンやその他の借り入れの返済で、貯蓄ゼロの状態が続く、52歳のパートで働く主婦の方。すでに子どもは独立しているが、ローンの完済はご主人が70歳のとき。今後の家計管理や老後の準備について、ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。

◇相談者

プリンさん(仮名)

女性/パート・アルバイト/52歳

北陸/義母宅で同居

◇家族構成

夫(58歳)、義母(80代)

※子ども3人は独立

◇相談内容

貯蓄が全くないので、今のままではいけないと思い、ご相談させていただきます。家族の小遣いは、主人に毎月渡しているお金です。その中から、全部賄ってもらっています(酒代、ガソリン、病院代、土日の食費等)。

教育費の11万5000円は、教育ローンの支払額です。2人分です。もう、卒業して独立しているので、ローンだけが残っています。まだ80万円ほどあります。

とにかく、借金が終わらない限り、貯蓄はできないのではと思っています。雑費は、灯油代や自分の医療費(手術を受けているので、定期的に病院に通っている。歯医者も通っている)です。

◇家計収支データ

プリンさんの家計収支データは図表のとおりです。

相談者「プリン」さんの家計収支データ

◇家計収支データ補足

(1)収支について

同居している義母から生活費などは受け取っていない。

(2)教育ローンについて

教育ローンの残高は、2人分で約500万円。12年後に完済。

(3)その他ローンについて

計4本。金利15%程度、返済は毎月7万円。

(4)ボーナスの使いみち

支給額は毎年変動がある。固定資産税、車検(2台分)費用等で、貯蓄には回らない。

(5)加入保険について

夫/傷害保険=毎月の保険料1200円(※過去にがんを患っているので生命保険に入れず)

本人/共済(病気死亡400万円、入院5000円)=毎月の保険料1800円

(6)定年と退職金について

本人はできるだけ働く予定。65歳を過ぎても会社がOKなら、70歳まで働きたいと考えている。夫は65歳までは働く予定。退職金は不明。

(7)公的年金について

支給額は不明。

◇FP深野康彦の3つのアドバイス

アドバイス1:まずは家計の現状維持を目標に

アドバイス2:有効な老後対策はできるだけ長く働くこと

アドバイス3:家計を見直し、医療保障を確保したい

◆アドバイス1:まずは家計の現状維持を目標に

家計の立て直しが最優先ですが、大きな負担となっているのは、世帯収入の50%に膨れ上がった、教育ローンやその他のローンの返済。ともあれ、これを完済することが最優先です。

しかし、繰上返済をする資金的余裕はないので、毎月滞ることなく返済するしかありません。そうなると、目標とすべきは家計の現状維持(収支でほぼトントン)となります。

逆に、絶対に避けるべきは、新たなローン、借り入れをすること。何かの購入でも生活費の補填でも、いけません。数万円のキャッシング、安易なクレジットのリボ払いも同様。データを拝見する限り、大丈夫だとは思いますが、このことを家計管理の鉄則としてください。

◆アドバイス2:有効な老後対策はできるだけ長く働くこと

教育ローンの完済は12年後とのことですが、その他のローンの完済は毎月の返済額と金利、残高から考えて、あと2年程度では。であれば、実際は数本あるため、多少時期はズレるでしょうが、2年後には毎月の生活コストから月7万円が軽減されます。

これを全額、貯蓄に回す。そして、ご夫婦とも65歳までは継続して働くことができそうですから、5年間はそのペースで貯蓄が可能ということになります。これで420万円。これに退職金は不明(おそらく数百万円は出るはず)と書かれていますが、それを加算した金額が、いわゆる老後資金となります。

とはいえ、これでは不安に感じるのも確かです。

有効な老後対策としては、ご主人の体調次第ですが、もし可能なら65歳以降も働くこと。収入は低くとも、それによって老後資金を取り崩す、その速度を遅くすることができます。できれば、教育ローンが完済となる70歳までは働くことが望ましいでしょう。これは、プリンさんも同様です。

70歳以降の生活費は、現在の生活費からローンの返済分を差し引いた15万5000円。

実際はボーナスがない分、月割りで2万円程度の上乗せが必要でしょうが、公的年金は夫婦とも厚生年金と考えられます。夫婦ともにリタイアされて、収入が年金だけとなっても、普段の生活に関しては老後資金を取り崩さなくて済むのではないでしょうか。

そうなれば、手持ちの老後資金が予備費として使えるので、老後も資金的に乗り切れる可能性が十分あるということです。

◆アドバイス3:家計を見直し、医療保障を確保したい

現状で心配なのは、貯蓄がほぼゼロの状態での病気やケガです。とくにご主人は病気に対する医療保障がありません。過去にがんを患ったため、加入が難しいとのことですが、一応、保険会社に加入が可能かどうかと、可能な場合の保険料は確認してみてください。

持病がある人を対象とした「引受条件緩和型」「限定告知型」と呼ばれる医療保険は、共済や各保険会社でも扱っています。加入要件は商品によって異なりますが、同程度の保障の一般的な医療保険と比較すると割高傾向にはあります(終身保障終身払いの掛け捨てタイプ、入院5000円で保険料3000~1万円)。

それでも、家計を見直し(削減の余地があるとすれば食費、通信費)、保険料を捻出できるのであれば、すぐにでも加入を検討する価値はあるでしょう。

最後に、お子さん3人のために教育ローンを借りられたということは、家計が苦しい中、大学もしくは専門学校等の学費を負担したということ。返済額と返済期間から、少なくとも1500万円は借りられたのではないでしょうか。

教育費を負担することは親の責務ともいえますが、奨学金という選択肢もあったかと思います。その点で、ご夫婦はよく頑張られたと思います。

しかし、今後どうなるかはわかりません。であれば、月1万円でもいいので、お子さんたちからの資金援助を頼んでもいいのではないでしょうか。

諸事情はわかりません。お子さんたちも独立したばかりで、経済的余裕などないかもしれません。したがって、あくまで可能であればという条件付きですが、それを依頼することは誤りではないと考えます。

◆相談者「プリン」さんから寄せられた感想

アドバイス、本当にありがとうございました。とても参考になりました。今は、この相談を最初にしたときと、少し生活が変わっています。また、主人の保険について、共済に問い合わせ、申し込みまでしましたが、加入は無理でした。他にまた探してみます。

アドバイスいただいたように、健康に気を付け、ますます頑張って働くつもりです。本当にありがとうございました。

教えてくれたのは……深野 康彦さん

マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文:清水京武

文=あるじゃん 編集部