近年、「インターンシップ(以下、インターン)」制度を取り入れる企業が増えている。就職前の学生に自社の業務を体験してもらう制度で、就職後のミスマッチを防いだり、離職防止につながったりする効果を企業は期待しているのだ。実はインターンを行うメリットは学生にもある。

本稿では、書籍『学生がキャリアアップするためのインターンシップ活用術』(総合法令出版)の著者で現役の大学生であるトテ ジェニファー麻綾氏が自らのインターン体験を通して身に付けたスキル、成長できた点について解説する。

企業での長期インターンはお勧め?

長期にわたり企業でインターンをすることに何の意味があるのでしょうか? 「インターンなら短期で十分」、「会社説明会だってあるのだからわざわざインターンなんてしなくても平気」と思う方もいることでしょう。

ぱっと思いつくところでいえば、PowerPointやExcelなど業務で使うツールの扱いが上達する、ロジカルさが鍛えられるといったところでしょうか。実際のところ、PowerPointでのスライドの見せ方や論理的な思考方法は、長期でインターンをしていれば幾度となくフィードバックを受けることになるため造作もなくこなせるようになるはずです。

就活の場ではグループディスカッションやケース面接で、入社後には研修の時期にソフトスキル面において足腰が鍛えられたことを実感できます。

しかし、数カ月~数年単位でインターンをすれば、得られることやそれによって以降の就活や仕事に役立つであろうスキルはこれだけに留まりません。

"裏"を含めたキャッチアップによる一歩進んだ業界理解

「第一志望の就職先で働く」、「希望していた仕事ではないけど、この会社で働く」、「あまり深く考えていないから、今はとりあえず受かったところに勤める」……。

新卒で何をするのか、どの業界の、どの企業で汗を流すかは学生の数の分だけストーリーがあります。もちろん、正解も不正解もありません。

ただ、何をするにしても企業の選考を受ける以上は当該の業界を志望する、ないしは受けるに値する理由を聞かれるケースがほとんどです。

その業界は誰にどのような価値を提供することで売上を上げているのか、業界の中の主要企業はどこか、今後脅威となるであろう社会情勢は何かなど、さまざまな観点から観察することになります。

通常は、『四季報』や有価証券報告書、統合報告書を見たり、業界対談などのインタビュー記事を読み込んだりすることで理解を深めていくのがベターです。

一方で、ずっしりとした長期インターン経験があればこのフローを一気に省略することができます。仮に、インターン先と同じ業界に就職したいと考えているのであれば、インターン生活で大半のことはインプット済みという状態になるからです。

これは「就活のために情報収集をしなきゃ」と必要に駆られて焦りながら行動をするのとは少し異なります。自ら情報を取りにいくといった強い意志がなかったとしても、インターンとして手を動かしていれば勝手に情報が耳に入ってくるという言い方が適切です。

正社員、インターンを問わず、皆の共通言語として当該の企業や業界についてのやりとりが自然と生まれるため、就活をするころには深く考えずとも業界のことを語れるようになるのです。

もっといえば、通常の業界理解よりもさらに進んだ知見を得ることも可能です。大抵の場合、学生が企業について調べる情報というのは企業が公に示す内容になります。

それらは株主をはじめとしたほかのステークホルダーも目にするので、書かれることは業績やビジネスモデルなど教科書的な内容に偏りがちです。

当然ながら、偽りを報じるわけにはいかないので、情報の正確性という面では信憑性が高いのですが、生々しい情報やドロドロとした内部事情など、一般的に触れにくいとされている部分はほとんど書かれていません。

ゆえに、そういった“裏”情報を得られることを含めても、本質的に業界を理解するにはインターンとして企業内部に潜入することが最も近道と言えるでしょう。

  • 提供:総合法令出版

"人慣れ"ができる

社会人とまともに話をしたことのない学生が、いきなり「面接官の前で自己PRをしてください」と言われる就活文化はなかなか酷なものがあります。

いくらイメージトレーニングを重ねても、初めてそんな場に足を踏み入れれば、動機がしたり、変な汗がでてきたり、いずれにしても平常心を保って話すことは難しいのではないかと思います。

しかし、自分のターンになったからといって就活市場の風潮を変えることはできません。それらに適応するべくして適応する必要があります。そのためには、対人スキル、ライトな言い方をすれば“人慣れ”をすることが大切です。

就活をしていると、はじめて会う人と話をする機会が多くなります。

面接はもちろんのこと、OB0・OG訪問や会社説明会など他大学の学生や企業の人事担当者、事業担当者とひっきりなしにやりとりをすることになるからです。過渡期には、毎日初対面の人と会話をする状況にもなるかもしれません。

ここに就活が長期戦であることを加味すると、人並み以上の行動量があれば、はじめは人見知りだったという人も就活を終えるころには、別人では? と思うぐらいになります。

一方で、長期インターン経験者の場合は、就活がはじまった時点でこれらの懸念はほとんどないことでしょう。

インターン生活を通して、毎日のようにさまざまな立場の人と話す機会があるからです。社内では、上司や同じチームの先輩、インターンの同期、社外に目を向ければクライアントや協業関係者などと日々当たり前に話をしています。

これは彼らにとって特別な事ではなく、日常生活の一部として存在するものです。それをなくしては業務を進められないという前提が真っ先にありますが、インターンをせずに学生生活を送っていれば、就活前にこのような毎日を送る状況にはなりにくいはずです。

対人スキルというのは、「グループディスカッションでうまくアイスブレイクを入れて話をする」、「面接で面接官の歓心を買う」といった自分だけにベクトルが向いている見掛け倒しのテクニックではありません。

相手に意見を委ねず、自分の力で考えて対等にディスカッションすることや、たとえ一時的に自分が悪役になることがあってもチームのために行動できること、全体を見て他者に助け舟を出せることなど自分と外部の両方に意識が向いてこそ成立するものです。

こうして改めて言語化してみると、できないよりできたほうが良いにきまっているという内容ばかりです。しかし、ほとんど何も考えていない状態から、実際に就活がはじまって自分のものにできるまでには、なかなか時間がかかります。

長期インターンを通してあらゆる人とさまざまなシチュエーションで話をしてきたからこそ、すぐに発揮できる立ち回りがあるはずです。

著者プロフィール:トテ ジェニファー麻綾

MAVIS PARTNERS 株式会社トレーニー
共立女子大学ビジネス学部4年

株式会社サイバーエージェント、株式会社キュービックにてWEB マーケティング、メディアの企画・運営のインターンに従事。その後、オフショア開発セールス事業、長期インターン斡旋事業での起業を経てMAVIS PARTNERS 株式会社にインターンとして入社。就活では外資系金融、外資系IT 企業を中心にインターン(ジョブ)に参加し、うち複数社から内定を得た。
2023年11月に『学生がキャリアアップするためのインターンシップ活用術』(総合法令出版)を発売。共立女子大学4年生である著者が自身の経験をもとに、長期インターンシップを解説しており、すべての学生におすすめしたい内容となる。