ヤマハ発動機は7日、マリン事業に関する説明会を開催した。同社の営業利益の約5割にあたる1,092億円を稼ぐ主軸事業であるマリン事業(2022年実績)。その長期ビジョン、CASE戦略、カーボンニュートラル対応について代表者が説明した。
マリン版 CASE戦略
登壇したヤマハ発動機 マリン事業本部長の井端俊彰氏は、マリン事業の長期ビジョンについて「お客様に信頼性と豊かなマリンライフを提供し、海の価値をさらに高めることを目指しています」と説明する。これを実現するために2つの柱と定めているのが「マリン版 CASE戦略」および「カーボンニュートラル対応」だという。
「マリン版 CASE戦略」はConnected(安心)、Autonomous(安心・快適)、Shared(経験)、Electric(快適)という4つのポイントから構成される。この各々の先進技術をもとに、顧客のマリン・エクスペリエンスを高めていくという。
Connected(安心)では、利用者に”つながる安心”を提供していく。たとえば、Siren Marine社との協業による開発を推進。スマートフォンからボートを遠隔監視・操作するシステムを提供する。またMy YAMAHAアプリを通じて、利用者にメンテナンス履歴や点検時期などを知らせていく。「今後、これらのサービスは船外機だけでなく、水上オートバイなどの商材にも展開していくことを考えています」(井端氏)。
Autonomous(安心・快適)では、ヤマハ独自の操船システムである「Helm Master EX」を軸に、オートパイロット機能を進化させていく。「ジョイスティックによりボートの離岸・着岸を容易にします。フィッシングシーンでは自動操舵機能、定点保持機能などを利用できます。現在、自動着岸機能についても開発を進めており、2023年2月に米国マイアミで行われたボートショウにてデモ運転を披露するレベルまで達しています」(井端氏)。
Shared(経験)として、国内向けには全国140か所のホームマリーナで『ヤマハマリンクラブ・シースタイル』を展開中。井端氏は「好きなときに、様々なボートをレンタルいただけるサービスです。多くのお客様から支持いただいております」とアピールする。海外に向けては、2023年1月にフィンランドのIT系シェアリングベンチャー「Skipperi」社に出資。「自社開発のデジタルプラットフォームを使ってお客様により気軽に快適にマリン体験を提供するIT企業との協業により、DX活用による新たなマリン体験のプラットフォームを提供してまいります」と意気込む。
Electric(快適)の領域では、電動推進ユニットとステアリングシステムを統合したプラットフォームHARMOを欧州で販売中。国内でも全国各地で実証運航をはじめており、本格導入に向けての検討を進めている。「HARMOでは圧倒的な静粛性とステアリングシステムを統合した、ヤマハらしいプラットフォームの実現を目指しています」(井端氏)。
カーボンニュートラル対応
また同社 常務執行役員の丸山平二氏は、カーボンニュートラル対応について次のように説明する。「そもそも水上を走るマリンならではの課題として、マリン全領域の完全な電動化は困難です。ボートが必要とするエネルギーはクルマの約10倍とされており、バッテリーによる電動化だけでは全てをまかなうことはできません」。そこでマルチパスで(様々な技術を組み合わせて)対応していく方針を示す。
たとえば、すでに二輪車の分野で先行する「バイオ燃料」をマリン商材にも活用。「化石燃料を使わないため、エコサイクルトータルでCO2削減が期待できます」と丸山氏。
そして内燃機関の燃料を水素に置き換えた「水素エンジン」も導入していく。「これまで当社が培ってきた内燃機関技術を応用します。化石燃料を使った従来のエンジンより環境への負荷を削減できます」。水素エンジンを使った船外機については、すでに海外拠点と連携した開発を加速させていると明かした。
ボート走行時に受ける水の抵抗を減らし、推進効率を向上させるアプローチも考えられている。たとえば、水中にもうけた翼による揚力でボートを水面から浮上させる「水中翼」を開発中。このほか、船外機の水の流れの解析、効率的なプロペラの開発など、あらゆる側面から効率向上を追求している。
「カーボンニュートラル達成に向けたマリンの取り組みは、多くの事業を展開するヤマハとしての知見と、これまで60年を超えて培ってきた総合マリンメーカーとしての知見を活かした、ヤマハらしい取り組みと言えます」と丸山氏。海上モビリティの足となるボートの効率を向上し、同時に快適なマリンライフの実現を目指していきたい、と力を込めた。