スズキの「スイフト」といえば「走り」が売りのコンパクトハッチバックだが、発表になったばかりの新型モデルは現行型に比べると優しげな雰囲気で、少し大人っぽくなったような印象だ。どんな狙いでデザインを進めたのか、スズキの担当者に話を聞いた。

  • スズキの新型「スイフト」

    スズキの新型「スイフト」は大人になってしまったのか?

歴代スイフトの共通点は?

スイフトはスズキの世界戦略車。2023年中には累計販売900万台を突破する勢いの大人気コンパクトハッチバックだ。歴代モデルの共通点は、一目でスイフトだとわかる丸みを帯びたエクステリアデザインだろう。

2023年11月24日の新型スイフト撮影会では、スズキ四輪デザイン部の担当者にじっくりと話を聞くことができた。

  • スズキの新型「スイフト」

    写真のボディカラーは新色の「フロンティアブルーパールメタリック」。影になった部分の青も深みがあってカッコいい

コンセプトは「ハッとする」デザイン?

新型スイフトのコンセプトは「ハッとする」デザインだ。担当者による解説は以下の通り。

「先進的で、走りを想起させるようなエクステリアデザインを目指しました。先進的というと曖昧に感じるかもしれませんが、今までのスイフトのデザインにとらわれないという意味です。それでいて、個性や速さを思わせる流線的なスタイリングを追求しています。ただし、歴代のスイフトが築いてきたスイフトらしさも残しました」(以下、カッコ内はスズキのデザイン担当者)

具体的には?

「例えばボディがワイドに感じられて、低重心であることなどがスイフトらしさになっていると思います。そのため、新型スイフトも全体的に丸みを帯び、低重心な設計となっています。ショルダー(ドアハンドル上部付近)からボディ下部にかけての造形をラウンドさせることで、クルマが地面を踏ん張っているように見える佇まいを実現しています。ボディが流線型になったことでタイヤが強調されるようになりました。デザインする上で難しかったのは、スイフトらしさを継承する部分と、それらを排除する部分のバランスです」

  • スズキの新型「スイフト」

    フロントの張り出しが強調されているが威圧感は少なく、街に溶け込むデザインだ

スイフトらしく「速さ」を強調しつつ、スイフトらしからぬ「ゆったりと走行する」イメージも盛り込んだところに工夫があったそう。具体的には、ゆったりと航行する大型クルーズ船のデッキをイメージし、ボンネットをわずかに円を描くように盛り上がった形状としたとのことだ。新型スイフトの魅力は速さだけではない。そんなメッセージをデザインで表現している。

フロントグリルは単純な網目構造にならないよう、細かい凹凸を施して複雑な造形にした。それにより、見る角度や距離、光の当たり方によって輝きが増し、立体感が出る。フロント下部にあるバンパーにも光沢をもたせ、高級感をプラス。リアにはルーフエンドスポイラーを配置し、風の流れに配慮しつつ走りの爽快感を演出した。

こうしたさまざまな工夫と演出によって「ハッとする」デザインを実現したというのがスズキ担当者の解説だ。

新型スイフトは灯火類でも試行錯誤

デザインの工夫は、灯火類にも見てとれる。担当者の解説は次の通りだ。

「フロントのLEDヘッドランプはL字型に光るタイプを採用しました。車体の中央から外側に向かって広がっていくようにデザインすることで、クルマのワイド感をより高める効果が得られます。ヘッドランプについてはL字のほか、丸や四角、X(エックス)型などさまざまな形状で光るタイプを試しましたが、L字が最も違和感なくボディになじむと判断しました」

  • スズキの新型「スイフト」

    外側に向かって広がるように配置されたLEDヘッドランプ。ワイド感を演出するのに貢献しているそうだ

灯火類の工夫はLEDリヤコンビネーションランプにも。先代モデルは点灯部分の「コ」の字型が内側に開くデザインだったのに対して、新型スイフトでは「コ」の字型が外側に開いている。こうすることで、点灯時に車幅がワイドに感じられる効果があり、力強い印象を与えることができるのだという。

  • スズキの新型「スイフト」

    リアのLEDコンビネーションランプは「コ」の字が外側に向かって開くタイプ。後ろから見たときのワイド感がより一層強調されている

参考にしたのは架空のバイクスケッチ?

新型スイフトをデザインするにあたって苦労した点は?

「先代モデルは走りを強調しすぎていたのではないか、というお客様の声がありました。スイフトを求めるお客様の中には、走りにこだわりがない人もいます。そのため、先代モデルよりも角張った部分を減らし、丸みを強調しました。ただし、時代の先を行く近未来感も演出したかったので、そのバランスもまた難しいものでした」

コンパクトカーのデザインに近未来感をどう落とし込むのか。参考にしたのが架空のバイクをスケッチしたイラストだったそうだ。そのほかにも、存在しないクルーズ船や宇宙船など、数えきれないほどのイラストを見て、少しずつデザインに落とし込んでいった。細部に工夫を凝らすことで、どの角度から見ても迫力があり、未来の乗り物感もあるデザインにたどり着いたのだという。

新型スイフトのインテリアは?

インテリアは黒一色だった従来型モデルと印象が大きく異なる。3Dテクスチャーを施したカラーオーナメントを採用するなど、明るい印象だ。

  • スズキの新型「スイフト」

    車内はシンプル。カラーオーナメントが明るさを際立たせている

オーナメントは光の当たり具合などで表情がわずかに変化し、車外の明るさによって違う表情を見せる。これまでのスイフトには不足していた高級感を感じられる内装だ。インパネとドアトリムがつながるようにオーナメントを配置することで、ドライバーを包み込むようなデザインにもなっている。

  • スズキの新型「スイフト」

    カラーオーナメントは前席ドアパネルにも。ドライバーを包み込むような雰囲気だ

ただし、このオーナメントは前席にしかなく、後席は黒のプラスチック素材で省略されてしまっている。なぜ売りでもあるオーナメントが前席のみなのだろうか。

「後席にもオーナメントを配置するという案もありました。しかし、スイフトは1人で乗るか、もしくは恋人同士であったり子供のいない夫婦であったりの2人で乗る機会が多いクルマと想定しています。そうなると、前席のデザインに重きをおくべきだという結論に至りました。もちろん、コストを抑えるという理由もありますが……。とはいっても、決して後席をないがしろにしているわけではありません。後席のドアパネルにも、カラーはブラックで周囲の素材と同色ですが、オーナメント同様の造形を施したパーツを使用するなどの配慮をしています」

  • スズキの新型「スイフト」

    後席には前席のようなカラーオーナメントがなく、少しさみしい

前席デザイン重視という点でいえば、ナビやエアコンパネルなどが8度(先代モデルは5度)ドライバー側に傾けられていることもその象徴だろう。この傾きによって、運転のしやすさはもちろん、走行中の操作性も向上している。

  • スズキ「新型スイフト」

    助手席側のインパネも丁寧に作り込まれている。明るめのグレーが光の加減によって表情を変える

走りのスイフト、それにしては優しすぎる?

個人的に少し心配なのは、走りを堪能したいドライバーにとって、角が取れて丸くなり、優しくなった新型スイフトのデザインがどう映るかだ。ひょっとすると、優しすぎて満足できないという人も出てくるのでは……。このあたりについて、担当者は次のように話す。

「先代モデルはやや目付きが鋭く、いかにも走りますという主張が強いデザインでした。それは悪いことではないのですが、さまざまな人が乗るクルマだと考えると、走りを強調するデザインは少し控えめにしようということになりました。今までのスイフトにとらわれないデザインをしたことで、幅が広がったと感じています。とはいっても、さきほど述べたようにスイフトらしさも残しています。時代の先を行く近未来感に加え、スイフトらしくない要素と、遠くから見てもすぐにスイフトだとわかる要素の3つをうまく取り入れることに成功したと思っています」

フルモデルチェンジを果たした新型スイフトが先代モデルより高価格になるのは避けられないが、デザインだけを見ても進化の幅は相当なものだから、新価格にある程度の納得感は得られるのではないだろうか。コンパクトカーを検討している人には、一度は販売店で実車を見て、触れてみてほしいクルマだ。