Z世代の流行語となっている「蛙化現象」。本来、恋愛において使われる言葉ですが、就職活動でもたびたび見聞きされるようになってきた。

就職活動における「蛙化現象」とはいったいどういうものなのか。そのような現象が就活生に生まれる背景や環境構造の変化とは。そして、蛙化現象への対策として就活生は、学生時代にどういうアクションをとっていけばよいのか。

先月、リクルートマネジメントソリューションズから「2024年新卒採用 大学生就職活動調査」において就活生の「蛙化現象」についての報告があり、その一部を紹介する。

24年卒は多くの情報を得て、納得感を持って進路を決めたい志向がある

2024年卒の就活生は、大学生活すべてをコロナ禍で過ごしてきた世代である。従来の就活生と比較して、志向や価値観はどのように変化してきたのだろうか。

「応募のきっかけ、最終的な決め手としては、24年卒では勤務地が1位になるなど、勤務地の重視度が高くなっているのが最近の傾向です」と話すのは、リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員の飯塚彩さん。

  • リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員の飯塚彩さん

調査結果でも、半数以上が「志望度が下がる」と回答している項目に、「入社前に勤務地がわからない」「転勤がある」「入社前に配属される事業部門を選べない」「配属職種を選べない」が並んでいる。

  • 学生が企業に応募するきっかけ 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

24年卒は、既存の就活生と比べて「安定に対する志向が強い「仕事内容が具体的にイメージできること」や「不確実性の高い選択を避けて、納得感を持って選択をすること」を重視している傾向があるようだ。

内定後は、損失回避の志向が働き、4つの不安が生じる

恋愛において用いられる「蛙化現象」が就職活動にも起きているということがよく見聞きされるようになってきた。

「就職活動での『蛙化現象』とは、内定や入社をきっかけに学生のモチベーションが下がるように見える現象として使われます」と話すのは、リクルートマネジメントソリューションズ研究員の橋本浩明さん。

「入社を決めて、良かったのか悪かったのかは、入社して働いてみないと分からないところがあります。それゆえ1社に決める際には、利得よりも損失を重く捉えてしまう損失回避志向があるのが、今の就活生の特徴です」

  • リクルートマネジメントソリューションズ研究員 橋本浩明さん

こうした最終的な決定を行う難しさが前提としてあるため、就活生の内定後の不安としては、次のような4つのパターンが考えられるという。

不確定要素や条件への不安

「配属が分からない」「福利厚生は他社の方が良さそう」といった不安が考えられる。不確実性の高い選択を回避しようとする志向や、多様な選択肢への意識の高まりから、こうした不安が生じやすくなっている可能性がある。

就活軸が不明確なことによる不安

「なんとなくいいと思っていたけど……」とか「もっと条件のいい会社があるのでは……」といった不安が生じる。

就活の早期化によって、方向性が定まる前に活動をスタートしてしまったり、スピーディな選考により、自己理解が深まる前に内定が出たりといったことが影響していると考えられる。

内定後による情報への不安

「他の内定者と雰囲気が合わなそう……」や「○○事業部への配属はきついって本当かな……」といった不安がある。選考過程のオンライン化により、社風や社員の人柄、他の応募者の雰囲気などを把握しづらくなっていることが影響している。

企業からの評価に対する不安

「どこが評価されたのかわからない」「本当にやっていけるだろうか」といった不安がある。 選考が早く進むことで、「学生は自分が十分に理解されている」「必要とされている」という感覚を持ちにくくなっている可能性がある。

  • 「蛙化現象」の背景(内定前後) 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

入社前の想定とのギャップに直面し、「リアリティショック」を感じている

もう1つの就職活動での「蛙化現象」としては、入社をきっかけにモチベーションが下がり、入社直後から転職を考えているようなケースである。

この背景には、『できるだけ自分に合う条件の会社を選びたい』という志向から生まれる不満や不安があると考えられる。

  • 「蛙化現象」の背景(入社前後) 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

「入社してみないと分からないことや、入社前の想定とのギャップは少なからず存在するものであり、新入社員はそれらに直面することになります。『リアリティショック』と呼ばれるものです。内定後の不安をそのままにして、納得できないまま入社してしまうと、こうした『入社後のなんとなくもっと』という不満や不安につながってきます」と橋本さんは、解説する。

蛙化現象への対策で肝になるのは、自己理解を深めること

蛙化現象の背景にある不満を解消するためには、就活生はどのような対策をとっていくべきだろうか。先に紹介した4つの不安に対する対策を紹介すると、次のようなことが考えられる。

不確定要素や条件への不安

学生はやりたいこと、ありたい姿を基に、なぜその条件を重視するのかを整理し、表面的な条件だけでなく、具体的な情報からそこで働く自分をイメージすることが重要になってくる。

就活軸が不明確なことによる不安

学生はやりたいこと、ありたい姿を再確認し、働く上で大切にしたいことを明確にすること。それらに照らして、どこに不安を感じているかを明らかにすること。

内定後による情報への不安

学生は断片的な情報で判断していないかを振り返り、不安に感じている点に対して追加で情報収集することが重要。その際、不確かな情報に惑わされないように適切な情報源から収集することが大切になる。

企業からの評価に対する不安

学生は自分の持ち味ややりたいこと、ありたい姿を整理した上で企業と話してみること。社員に求められることや企業のビジョンを書き出し、自分の持ち味や思考との合致点を確認することが重要になってくる。

なお、これら不安が生じる要因は、「自己理解」「相互理解」「仕事理解」「企業理解」の4つの不足から生まれているという。

「このうち『自己理解』は、その他の理解や自分と合うかどうかといった判断の基礎となるので、学生は内定後〜入社後を含めて継続的に自己理解を深めていくことが大切です。その際、体験を通じて深めるという視点を持つこと。体験によって得たものや、体験の中で感じたことを言語化することが自己理解につながってくるからです」と、橋本さんはアドバイスする。

  • 学生は継続的に自己理解を深めていくことが重要 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

自己理解を深めるためには、大学低学年から社会人や社会に触れる体験が大事になる

しかし、24年卒の就活生は「自己理解ができている」と言い難い状況で、それは、調査データの結果からも読み取れる。

自己理解に関する項目で、「当てはまる、どちらかといえば当てはまる」と回答した学生は、いずれも6割程度にとどまっているのだ。

  • 自己理解ができていると思う学生は約6割 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

「これは、就職活動を経ての結果としては、高い数字とは言えないものだと捉えています」(橋本さん)

学生時代あるいは就活生の時代にどういうアクションをとれば、自己理解が高まるようになるのだろうか。それには、大きく2つの方法があるという。

1つは、大学低学年に就活の一環としてイベント等に参加した経験だ。

「1、2年生時に参加したインターンシップや学外の就職イベントなどで、社会人や社会に触れる体験を通じて、学生の約5割が『自己理解が深まった』と回答しています」とのこと。こうしたさまざまな体験が自己理解を深めることに影響しているようだ。

もう1つは、就職活動の相談相手など他者の存在を持つことだ。

社会人との対話経験の有無別での自己理解の度合い、それぞれ「あり」「なし」と、先ほど紹介した自己理解の項目を掛け合わせてみると、「いずれもあり」の人の方が「自己理解はできている」と認識していることが読み取れる。

「自分だけで自己理解を深めることには限界があります。自分では気付いていない自分の側面を知るためにも、他者への相談や会話が重要と言えます」と、 橋本さんは締め括った。

学生が納得感を持って意思決定するためには、学生生活や就職活動、採用コミュニケーションを通じて継続的に自己理解を深めること。

そのためには、自ら主体的に、社会や社会人と関わっていくことが大事になってくる。大事な就職活動を乗り切るためにも、参考にしてほしい!