株式投資で数多くの銘柄を持ち、その優待で日々の生活をまかなう投資家の桐谷広人さん。バラエティ番組『月曜から夜ふかし』への出演や、株式投資に関する執筆、講演など多方面で活躍され、新著『一番売れてる月刊マネー誌ZAiと作った桐谷さんの株入門 改訂版』(ダイヤモンド社)も大好評です。

今回はそんな桐谷さんに、会社員が株式投資をするコツやおすすめの銘柄、そして新NISAに伴う株式投資のポイントなどを詳しく教えていただきました。

  • 桐谷広人さん(撮影: 山本祐之)

■新NISAスタートで株式投資も投資信託もいいことづくめに

━━桐谷さんが株式投資を始めようと思ったきっかけを教えてください。

プロ棋士として、29歳の時から証券会社に勤める人の団体に将棋を教えに行っていたことがあるんです。20数年間教えていて、はじめは「株はギャンブルみたいなもの」と思い証券会社の人ともあまり付き合いたくなかったのですが(笑)、教え始めてから5年経った頃、あることがきっかけで、某証券会社の将棋好きな支店長さんと2人で将棋の話をするようになりました。

いつも証券会社の支店で会っていて、毎回お茶菓子をごちそうになるので、そのお礼にと株を一つ買ってみたんです。一つ買えば、当時のお金で2,500円くらいの手数料が落ちますので。その頃は1984年でバブルの時代なので、1ヶ月もしないうちに5万円くらい儲かりました。株を売ると現金ができるので、それでまた別の株を買った…というのが株を始めたきっかけですね。

━━来年から新NISAが始まることで、株式投資は取り組みやすくなるでしょうか?

そうですね。これまでのNISAでは年間120万円までしか株を買えませんでしたが、新NISAではその倍の年間240万円まで買えるようになります。しかも、従来は5年までしか非課税で保有できなかったのが、新NISAなら非課税で何十年でも持ち続けられます。

非課税で持てる期間が無期限になったことで、銘柄によっては、株を長く持っていると株主優待の内容が充実する「長期保有優遇制度」が受けられるようになるんです。

それに、これまでの一般NISAとつみたてNISAは併用できませんでしたが、新NISAは両方同時にできます。若い人ならこれから先何十年も投資期間があるので、株だけでなく投資信託も一緒にできるのはいいですね。しかも投資信託は今までの3倍の年間120万円まで買えるので、いいことづくめです。

■桐谷さんおすすめ! 優待がお得な銘柄3選

━━新NISAでおすすめの銘柄を教えてください。

1. ヤマダホールディングス(銘柄コード:9831)

安く買えるものだと、ヤマダデンキを運営する「ヤマダホールディングス」。今日の大引け(その日の最終売買のこと)では425.6円でしたが、株は100株単位での購入になるので4万2,560円で買えます。優待は100株以上の保有で3月に優待割引券500円相当が1枚、9月に500円相当が2枚もらえます。この会社は配当予想を出していないのですが、前期と同じだとすれば12円くらいでしょうか。

優待券は、1,000円買うごとに500円券が1枚使えます。ヤマダデンキは日用品も売っていますので、使い勝手がいいです。1,000円のものを買うと500円券が使えてお会計が500円になります。

優待券は年間1,500円分、配当金は年1,200円くらいになるので、合わせると利回りは年6.34%。10数年持っていると、優待と配当金で3万円くらいのリターンになりますし、株価が上がって500円や600円になったら売って、1~2万円の値上がり益も得られます。さらに、NISAで買えば配当金にも売却益にも税金がかかりません。(100株で)5万円以下でもこういう株があるので、おすすめです。

2.日本電信電話(銘柄コード:9432)

すごく安く買えるのが、「日本電信電話(NTT)」。今日の大引けが168.3円だったので、1万6,830円で100株買えますね。配当予想が年間5円ですから、利回りは2.97%です。株主優待は、100株を2年以上持つとdポイントが1,500ポイントもらえるんです。

その後はいったん何もないのですが、5年以上になるとdポイントが3,000ポイントもらえます。なので、NTTの株を5年以上持っていると、1万6,830円の投資で配当金が毎年500円もらえて、dポイントが2年以上と5年以上の優待を合わせて4,500円分もらえるわけです。

NTTは、20~30代で「まず何か買ってみよう」という人におすすめ。ネット証券のNISAなら手数料がかからないところも多いです。また、dポイントで少しずつ株が買える証券会社もありますよ。

3.リコーリース(銘柄コード:8566)

「リコーリース」は、今日の終値で4,485円でしたので、100株だと44万8,500円かかります。高いですが、新NISA(成長投資枠)の年間枠240万円で買うにはちょうどいい金額でしょう。配当予想は150円ですので100株持っていると年間1万5,000円、これだけで利回りが3.34%あります。この時、NISAで買わないと税金で約3,000円引かれて配当は約1万2,000円しかもらえませんが、NISAで買うと1万5,000円丸々もらえるのが大きいですね。

100株保有の場合、優待品は2,000円のクオカードで、配当金1万5,000円と合わせると利回りは年3.79%です。私が株を買う時の基準にしているのは「配当金+優待で利回り4%以上」なので少し足りないですが、リコーリースも長く株を持っていると優待品を増やしてくれます。100株保有の場合、初回はクオカード2,000円ですが翌年にはこれが4,000円になり、3年以上持っていると毎年5,000円に増えるんです。

それに、リコーリースは、24期連続(今期予想を含む)で配当を増やし続けている「連続増配」の会社です。株を買うのに44万円は大きな金額ですが、20~30代からこの株を持っていると、毎年配当金が増えていき、さらに3年以上持っていると毎年5,000円のクオカードがもらえるという恩恵が何十年も受けられます。新NISAなら未来永劫、一切税金がかからないので、非常にいいと思います。

※株価、配当額、優待内容はすべて取材日の2023年11月8日現在

■会社員でも無理なく株式投資を楽しむコツとは

━━会社員として働きながら株式投資をする際のコツを教えていただきたいのですが、株はマメで勉強家じゃないとできませんか?

そんなことはないですよ! 私は企業の業績やどういう業種だとか全然知りません。私が考えているのは「いい優待をやっているかどうか」だけ。「いい優待をやっている会社は個人投資家を大事にするいい会社だ」という解釈です。優待株投資というスタイルは大儲けできませんが堅実ですし、長い年月をかけて色々な優待品がもらえるのがいいですよね。

ちなみに私は毎日夕方、重要な会社情報を配信している日本取引所グループの「適時開示情報(TDnet)」で優待について見ています。TDnetのキーワード検索で「優待」という文字を入れて検索すると、株主優待の新設、廃止や、優待内容の変更に関する情報が出てきます。良い優待を新設した会社や、優待品の量や金額、サービス内容をアップさせる(拡充)情報を出した会社を探し出すのです。そしてその株が安ければすかさず買います。

もっともこれは、私がすでに、良いと思う優待株をほぼ持っているからやっている投資手法です。これから優待株を買って楽しむという方は、今回本を出すダイヤモンドZAiなどのマネー誌や、各証券会社で検索できる優待検索などを使って、探すといいでしょう。

いい優待株を見つけて、株価が安くて買い時だと思ったら「指値」(希望する売買価格を指定する発注方法)で注文を出しておくといいでしょう。会社員でも、このやり方なら昼間は仕事に集中できますし、帰ってきて少し情報を見るだけでできます。

━━桐谷さんご自身はどのくらいの歳月をかけて、どのようにポイントを習得されたのでしょうか?

意識して習得したようなことは特にないです(笑)。1984年から最初の5年間は「買えば上がる」という状況でしたが、バブル崩壊で4〜5年かけて得た儲けが8ヶ月くらいでなくなり、その後も儲けたり損したりの繰り返しでした。リーマンショックでは将棋で働いて得たお金まで失いましたが、優待のある銘柄をたくさん持っていたので、数年間はギリギリの貧乏生活をしながら優待品でしのいだんです。

株は下がったしお金も失ったけれど、優待に救われ「優待っていいな」と気づきました。そこから、値上がり益を狙うのではなく優待品を使うことによって人生を楽しもうという方向に切り替えたんです。

情報を得る方法としては、ネットで検索すれば株の優待を使っている人のブログが色々出てきますので、そういうのを見て「いいな」と思えば買うこともあります。特に難しい勉強をしなくても、私もXや雑誌などに優待の情報を載せていますし、ネットや株に関する講演会や他の人と情報交換、書籍などから知識を深めていって、いいと思えばその株を買ってみればいいんです。

━━株主優待生活はおすすめですか? また、どのような人におすすめでしょうか。

優待だけで生活をまかなうなら4,000〜5,000万円くらいないとできませんが、生活の一部ならわずかな予算でも優待でまかなうことはできるので、とてもいいですよ。余裕資金が2〜5万円くらいあり、「人生の勉強のためにも、優待のある株を一つ買ってみようかな」と思える人にはおすすめです。

それに、優待を目的にした投資なら、会社員の人でも仕事中に株価が気になることもありません。若い人が今優待のある株を買えば、これから先何十年も優待を楽しめますしね。多くの優待を楽しむには、一つの優待株に大金を注ぎ込むのではなく、もらえる最小単位ずつ小分けに買って、色々な銘柄に分散投資すること。優待株は、最小単位が最も利回りがいいことが多いので、小分けで買うほど利回りが良くなるしリスク分散にもなります。

ネット証券なら口座開設も情報を見るのも無料なので、まずはそこから始めてみるといいでしょう。

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