幕張メッセで11月10日まで開催される「第8回 鉄道技術展」に日本車両(日本車輛製造)が出展。JR東海の315系で採用された新ブランド「N-QUALIS(エヌクオリス)」に関連した展示を行った。

  • 「N-QUALIS」やNS台車を手がける日本車両が今年も「鉄道技術展」に出展

    「N-QUALIS」やNS台車を手がける日本車両が今年も「鉄道技術展」に出展

鉄道技術展では、普段から利用する鉄道事業者だけでなく、「裏方」として鉄道を支える事業者も多数出展。日本車両はJR東海を中心に、新幹線を中心とした鉄道車両を製造するほか、物流を支える輸送用機器・橋梁、まちづくりに不可欠な建設機械など、多彩な設備を設計している。

■日本車両の次世代車両技術ブランド「N-QUALIS」とは

日本車両の次世代車両技術ブランド「N-QUALIS」は、同社が積み重ねてきた豊富な実績と高い信頼性の下、安全・品質・保守を高い次元でバランスさせた次世代プラットフォーム。車両構体、状態監視技術、NS台車、内装の4種類がラインナップされ、通勤型車両としては、同ブランド第1号である315系が2022年3月から中央本線(中津川~名古屋間)で運行されている。

構体(車体)は構造部材を効率よく配置することで強度・剛性を向上させ、組立時はレーザー溶接を基本とし、美観を向上させた。外板の継ぎ目を削減するとともに、レーザー溶接によって水密性が上がったため、水密シールの保守作業時間の短縮にもつながる。

  • 鉄道技術展に出展した日本車両のブース

状態監視技術は、車体側に設置した振動検知装置で台枠の振動を常時監視し、異常を通知することで重大事故を未然に防ぐ。機器類の動作データを自動分析する技術も用い、検査の一部代替または検査周期の延伸を可能にするデータを事業者に提供。検修作業の省力化にも貢献できる。

2021年に出展した際、実物大の台車枠を展示したが、今回は3Dプリンターで作成したという10分の1スケールのNS台車をブースに展示していた。見た目でわかりやすい特徴として、台車枠に一体成形プレス鋼板を使用している。それによって重要溶接線が削減され、定期検査時に重要溶接部の探傷作業の短縮につながる。

  • NS台車の模型

  • 内部の様子も再現

  • コイルバネと2つのゴム(うち1つはコイルバネの中)で軸箱を支持する

もうひとつの特徴はタンデム式軸箱支持装置。上下を支持するコイルバネと、前後左右を支持する2つのゴムによる独立サスペンションにより、優れた乗り心地と高い走行安定性、曲線通過性能を実現している。コイルバネは軸箱のすぐ上、前後を支持するゴムは軸箱の横に設置されている。左右を支持するゴムはコイルバネの中に配置されている。

NS台車は「N-QUALIS」ブランドの発表前から導入例があり、小田急電鉄の5000形やロマンスカー・GSE(70000形)などで採用。JR東海では315系に加え、HC85系でも採用されている。HC85系はハイブリッド車両ということで、電車と同じ台車を使用しているため、他車種とのメンテナンス共通化にもつながった。一部の事業者から乗り心地の良さを評価する声があり、今後分析を行っていくという。

■「N-QUALIS」のガラス製大型袖仕切り、傘立ても導入

今回は「N-QUALIS」のラインナップになっている内装の一例として、ガラス袖仕切りとヒップレストのサンプルも出展。まずはガラス袖仕切りについて見ていく。他社製の車両でも採用されているガラス張りの袖仕切りは、車内の開放感と視認性を向上させる効果がある。仕切りを大型にした場合、ドア横で立って寄りかかる利用者の荷物が座席側にはみ出ることも防げる。

「N-QUALIS」においては、仕切り本体と手すりの隙間にこどもが挟み込まれないように設計。公園遊具の安全に関する基準値を参考にしたという。手すりは低い位置まで伸ばしているため、背の低いこどももつかみやすく、隙間が設けられることで手を挟みにくくもなっている。

  • 「N-QUALIS」内装のガラス張り大型袖仕切り

  • 傘・杖をかけることもでき、前および左右の邪魔になりにくくなる

仕切り本体と手すりをつなぐブラケットは上下に配置される。このうち上部のブラケットに、傘・杖を立てかける凹みが設けられていた。従来の手すりでは、利用者が傘を立てかけても斜めになり、前にせり出すことで他の利用者の迷惑になるおそれがある。鉄道事業者からの要望もあり、安全を優先する設計として、傘立てが袖仕切りに設けられた。

■フリースペースに取付け可能なヒップレスト、年代問わず利用可能

次にヒップレストについて紹介する。これは車端部のフリースペースに設けられている2段式の手すりに、クッションを取り付けるオプションとなっている。従来のフリースペースだと、単に手すりのみ、またはロールクッションやゴムを取り付けた手すりを設ける場合も多いが、「通勤時間帯により良いものを」などの要望を受け、近年の鉄道事業者のニーズにも応えるため、また一般利用者の幅広い世代にも満足してもらえるように、ヒップレストをラインナップに加えた。

このヒップレストは2段式の手すりにそのまま取り付けることができ、着脱が容易で後付けもできる。設置する位置、設置する数も鉄道事業者の好みに応じて自由にアレンジできる。表面には意匠性に富み、摩耗に強いブラケットを採用した。取り付けたヒップレストは、大人からこどもまで身長差に関係なく利用することができる。

会場では、ヒップレストの実物が用意され、実際に腰掛けることも可能だった。座面ほどやわらかくはないが、腰掛けた際にしっかり体を支えることを体感した。大人であればこれに腰掛け、お尻を支える形になるが、こどもが寄りかかった場合は背中を支えるようになる。

  • 「N-QUALIS」内装に新たに加わったヒップレスト。大人こども問わず利用でき、鉄道事業者の都合に応じた着脱・アレンジも可能

ブース内のタブレットで、袖仕切りやヒップレストも含めた内装コーディネートを体験できる

ブースに用意されたタブレットを使って、内装コーディネートのシミュレーションを行うことも可能。今回紹介した要素をはじめ、車端部をわかりやすく色分けするか、壁やシートの色をどう選ぶかなど、各項目を選び、車内空間をデジタルでコーディネートできる。完成した際の画像は、QRコードを読み取って表示されたリンク先から保存もできる。

なお、袖仕切りもヒップレストもまだ導入実績はなく、今後、鉄道事業者に提案していくことになる。鉄道技術展の時点では、あくまで作り始めた段階のサンプルであるため、広く意見を取り入れ、改良できるところは改良していくという。そうしてブラッシュアップを図った上で標準化していきたいとのことだった。

■検修設備の一例、台車組み立て装置も模型で紹介

日本車両は車両製造に加え、検修設備の提供・コンサルティングも行っている。その見本として、台車組立装置の模型も展示された。模型については、台車昇降装置、輪軸位置決め装置、輪軸回転装置、荷重負荷装置が省スペースでまとまっている。台車昇降装置は、普段は床に格納することもでき、最大で1.7mまで上昇させることが可能(模型は1.0mで展示)で、作業員が腰を曲げなくても台車内部で作業を行いやすくなる。

他にも、この装置にのせるだけで輪軸の位置合わせや、モーターの取付けを行いやすくし、車体重量の負荷を疑似的にかけた軸ばねのたわみ等の試験もこのスペースだけで行える。展示はあくまで一例だが、作業の省スペース化によって効率化と安全性の向上にも貢献する。

  • 検修設備の例として、台車組立装置の模型も展示

  • 輪軸回転装置や、荷重負荷装置(写真奥)なども備える

  • さまざまな装置がまとまっており、台車関連作業の省スペース化に貢献

「N-QUALIS」ブランドの特急車両用ステンレス構体が完成したこともパンフレットで告知している。レーザー溶接を用いたフラットな外板に、衝突安全性技術を有する連続窓を採用し、特急車両らしい風格のステンレス構体を実現。レーザー溶接を用いたステンレス構体で連続窓を採用するのは、「N-QUALIS」が国内初とのこと。これらを通して、製造から保守まで事業者に提案していくとのことだった。

2023年11月11日22時10分訂正 : 記事初出時、「N-QUALIS」に関する記載内容に複数の誤りがあり、当該箇所を修正させていただきました。ご迷惑をおかけした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。

誤:次世代車両ブランド「N-QUALIS」
正:次世代車両技術ブランド「N-QUALIS」

誤:構造部材を効率よく配置することで強度・合成を向上させ
正:構造部材を効率よく配置することで強度・剛性を向上させ

誤:それによって溶接線が削減され、定期検査時に溶接部の探傷作業の短縮につながる
正:それによって重要溶接線が削減され、定期検査時に重要溶接部の探傷作業の短縮につながる