幕張メッセで11月8~10日に開催された「第8回鉄道技術展」にコイト電工が出展。リクライニング機構付きのL/Cシート、着席状況をリアルタイムに表示するシート、荷物を輸送する際に便利なシートなど、同社が開発している座席を展示した。

  • 座席・照明等を手がけるコイト電工が鉄道技術展に出展。テーブルを搭載したリクライニングL/Cシートなどを展示した

コイト電工は、鉄道車両と駅の照明・灯具類や、案内表示器、座席を手がけるトータルソリューションメーカー。鉄道車両のLED行先・種別表示、車内ドア上部の案内表示、新幹線・在来線特急列車の座席など、身近な場所に同社の製品が使用されている。

今回の鉄道技術展では、LEDや案内表示器・音声等の展示に加え、今年7月にデビューした東武鉄道「スペーシアX」の「プレミアムシート」も展示。座り心地を体験する来場者も多かった。

  • 鉄道技術展に出展したコイト電工のブース

  • 東武鉄道「スペーシアX」の「プレミアムシート」も展示

開発中の新しい座席として、「おけるリク付L&Cシート」「つながるシート」「しまえるシート」の3種類が展示され、こちらも来場者の注目を集めていた。

■L/Cシートにテーブルが付いた!?

「おけるリク付L&Cシート」は、ロングシート・クロスシートの転換が可能な座席に、リクライニング機能と背面・インアームテーブルを搭載した座席となっている。リクライニング機能と各種テーブルはクロスシート時のみ使用可能。ロングシート時はロックされる。

  • テーブルを搭載したリクライニングL/Cシート(各写真左側)。ロングシートにも切り替わる

  • L/Cシートの背面にテーブルを取り付けた

  • 背面テーブルを引き出した状態

  • フックは使用しない場合、自動で閉じる

  • テーブルの収納された肘掛け。手前の黒い部分がリクライニングレバー

  • インアームテーブルを展開した状態

  • B6サイズ相当なので、スマートフォンや文庫本などを置ける

クロスシート時は純粋な特急列車と同じように2列の座席になり、背面テーブル、ドリンクホルダー、フックを使用できる。足もとに電源コンセントも設置されていた。背面テーブルはワンタッチ式で、ロックを上に押してテーブルを出し、しまうときはそのままテーブルを押し込むとロックされる。サイズはA4相当とのこと。

肘掛けにインアームテーブルが収納され、リクライニングレバーも前側に設置されている。このテーブルはB6サイズ相当と小型で、収納するためのレバーも大きさが変わっているという。リクライニングしたとき、背もたれの倒れる角度は16度で、他のリクライニングシートと変わらない快適性を有している。座面もやわらかな座り心地で、これがロングシートにも切り替わることを思えば十分な快適性だろう。なお、ロングシート時は背面の設備を使用できず、リクライニングレバーとインアームテーブルもロックされる。

  • 京王電鉄5000系に採用されたタイプの座席も。リクライニングレバーは操作しやすいが、テーブルやフックがない

「おけるリク付L&Cシート」の隣に、京王電鉄5000系(5037編成)で採用されたリクライニング付きL/Cシートも展示。こちらはリクライニング機能とドリンクホルダーのみ設置され、テーブルとフックはない。代わりにリクライニングレバーがテーブル付きのタイプより大きめになっている。

テーブル・リクライニング付きのL/Cシートはまだ導入例がない。今回の鉄道技術展に向けて、可能な限りの設備を搭載し、「おけるリク付L&Cシート」として出展した。担当者によれば、筆者が取材に訪れた時点で、多くの来場者から興味・関心の声を受けているという。実際に導入されるかどうかは、今後の鉄道事業者の動向次第となる。

■見た目や快適性はそのまま、セキュリティ面を強化

続いて「つながるシート」を見ていく。とくに変わった見た目の座席ではないが、中の肘掛けの下と背もたれの内部にセンサーを搭載しており、そこへ着席した乗客または置かれた荷物を検知する。座席の座り心地やリクライニング機能は従来のリクライニングシートと変わらず快適だった。

「つながるシート」の大きな特徴は、検知した乗客または荷物の着席状況が、専用の画面へリアルタイムに反映されること。今回の展示では、画面の白いブロックに「空席」「着席」「荷物」の3種類の状態が表示された。その下に引かれている線が青色の場合は未発売、緑色の場合は大人として発売済み、オレンジの場合はこどもとして発売済みとされ、発売情報も確認できる。着席状況とは別に、AB席・CD席の向きが左右どちら側かについてもモニターに反映されていた。

  • 「つながるシート」の見た目は従来のリクライニングシートと同じだが、中央の肘掛けと背もたれのセンサーで人・物を検知する

会場に展示された「つながるシート」は、前2席が7A・7B、後ろ2席が8A・8Bとされ、7A・7Bは発券済み、8A・8Bは未発券の状態となっていた。この状態で、筆者が7列目に着席すると、数秒ほどで筆者の座った席が青い人型マークの「着座」に切り替わった。隣の席に荷物を置くと、緑色のマークで「荷物」としてモニターに反映された。

席を移動し、未発券の8列目に座ってみたところ、「着座」のマークが赤色に変わった。この場合、不正乗車または乗越しを検知したことになる。荷物を席に置いたまま、長時間動かさずにいると、忘れ物または不審物として扱われ、モニターのマークが黄色に変わった。

  • 着座状態、座席の向き、座っている人や発券状況まで詳細に表示

  • 筆者が座り、荷物を置いた7列目が色付きマークで表示された

  • 未発券の席に座ると赤いマークに変わった

このように、大人・こどもと荷物の着席状況、発売済みかそうでないかなど、各社の座席発売情報と「つながるシート」の情報を組み合わせることで、不正乗車をピンポイントで特定できる。座席の見た目や快適性はそのままに、セキュリティ面が向上することで車掌の負担軽減につながるという。鉄道技術展の期間中、他社の来場者から検討したいという声があったとのことで、製品化に向けたブラッシュアップに期待がかかる。

■背もたれを前に倒し、新幹線・特急列車の荷物輸送に貢献

最後に、使用しない座席の背もたれを折りたためる可倒式背ずり「しまえるシート」を紹介する。この座席は、コロナ禍や「物流2024年問題」により、新幹線・特急列車などで荷物を輸送する需要が増えることを見込み、開発しているという。

「しまえるシート」も、一般利用者が座席として座る分には、従来のリクライニングシートと変わらない座り心地だった。ただし、客席に荷物を載せて輸送する場合、背もたれが邪魔になる可能性がある。「しまえるシート」は背もたれを前に倒せるようになっており、荷物の置き場所の確保が可能になった。

  • リクライニングシートの背もたれが前に倒れるしくみ。しかし従来のシートと快適性は変わらず、リクライニングも従来通り行える

これにより、完全に背もたれを倒した座席の上にテーブルを置けるようになる。この座席とセットで使用できるテーブル台車もコイト電工が開発中とのこと。テーブルに固定用の板を装着し、倒した座席の背面テーブルと肘掛けの間に板を降ろすことで、テーブルも固定できる。こうすることで、荷物を置いている客室内を一般利用者や乗務員が通行する際、通路を塞がずに済む。

  • 専用のテーブル台車を固定した状態。その上に荷物を置いて新幹線・特急列車で運ぶことができる

製品化された場合の販売方法等はこれから検討すると思われるが、出展時点での想定として、荷物を出し入れしやすい通路側のみなど、少数の導入も考慮するとのことだった。荷物の積み方にも課題があり、解決するために鉄道事業者の協力も必要になる。本当に需要があるかどうかについても意見を聞きたいと話していた。

コイト電工が出展した座席は、すでに採用されているものを除き、いずれもまだ開発段階ではあるが、L/Cシートの設備が充実するとともに、快適性を維持しながらセキュリティが強化され、荷物輸送も行いやすくなると見受けられた。実用化されれば、L/C車両や新幹線、特急列車、普通列車グリーン車など、より快適に利用しやすくなるかもしれない。