昔のクルマにあえて乗る「旧車ファン」が増えているらしい。ハンドルが重かったり、空調が思ったほど効かなかったりと、最新のクルマに比べると不便な部分も多い旧車だが、乗るとどれだけ楽しいのか。現代のクルマとはどのくらい違うのか。今あえて乗る意味とは? クルマのサブスクでおなじみの「KINTO」が展開する旧車レンタカーを取材し、50年前のトヨタ車「セリカ 1600GT」に乗りながら考えてみた。

  • トヨタ「セリカ 1600GT」

    1973年式のトヨタ自動車「セリカ 1600GT」。KINTOのレンタカーで乗れるクルマだ

「ダルマセリカ」の魅力とは?

KINTOは旧車を楽しむコミュニティ「Vintage Club by KINTO」で「特選旧車レンタカー」を展開中。トヨタ自動車、新明工業と協力し、レストアで蘇らせた名車のレンタカーを日本各地を巡回しながら実施している。ちょうど今は、トヨタモビリティ東京 有明店に4台のクルマがやって来ているところ。いい機会なので、1973年式のトヨタ「セリカ 1600GT」に試乗させてもらった。

「セリカ」はトヨタが1970年から2006年まで製造していた2ドアクーペだ。生産終了までの36年間、一貫して2ドアクーペのボディを採用していたクルマで、「クーペといえばセリカ」という印象が強い。

中でも1970年から1977年まで製造されていた初代セリカは、サイドやリアにかけてのデザインが丸みを帯びていたことから「ダルマセリカ」と呼ばれ親しまれた。

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    試乗車のボディカラーは落ち着きのある黄色。当時のダルマセリカにも黄色のボディカラーはあったが、この個体には新たに調合したオリジナルカラーを採用しているという

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    こちらが同じ車両のレストア初期段階の写真

  • トヨタ「セリカ 1600GT」
  • トヨタ「セリカ 1600GT」
  • この状態からピカピカの状態に持っていけるのは、やはりトヨタと新明工業の技術力があってこそだろう

2代目セリカはボディの丸みが取れて近代的なデザインとなった。そのため、どうしても旧車としては、丸みのあるボディデザインと、ひと目見ればそれとわかるフロントフェイスなどが特徴の初代セリカが評価されており、人気が高い。

初代セリカのパワートレインは1,400ccと1,600ccの2種類。マイナーチェンジ後は2,000ccが追加となる。KINTOのレンタカーで乗れる個体は、1,600ccを積む最上位グレードの「1600GT」。標準グレードと比較すると大型のリアウイングが付いていたり、専用の内外装を採用していたりして、スポーティーな印象だ。

  • トヨタ「セリカ 1600GT」

    内装はほぼ当時のままだが質感は高い。レトロ感が漂う内装は、現代のクルマではなかなか味わえない雰囲気だ。ちなみに、助手席側の膝のあたりに後付けのエアコンが付いているので快適に乗れる

試乗したセリカ 1600GTは鮮やかでありながら落ち着いた印象のイエローに塗られていた。このカラー、当時のセリカで選べたイエローよりも少し色味を落ち着かせ、派手すぎない色味を新たに調合したそうだ。ボディ下部にブラックのラインが入ることで、全体としては引き締まった印象となっている。

見た目もそうだが、運転席に座ると想像以上にコンパクトなことに驚く。ボディサイズは全長4,160mm、全幅1,600mm、全高1,310mm。モデルチェンジするたびに大型化している現代のクルマに乗り慣れている身からすると、ダルマセリカの第一印象はかなり小さい。そのためか、運転席からの視界は死角も少なく、周囲が確認しやすい。

専用装備だという内装の質感は高い。もちろん古さは感じるが、現代の低価格帯のクルマにありがちなチープな雰囲気はまったくない。

  • トヨタ「セリカ 1600GT」

    インパネはブラックで統一。ヘッドライトやハザード、ワイパーなどはレバーを引いて作動させる仕組みだ。慣れれば操作しやすい

  • トヨタ「セリカ 1600GT」

    メーター類はひとつずつ独立しており視認性が高い。なにより、いかにも機械を操作している感じがして嬉しい

窮屈だけど居心地良好?

出発前に操作系統をざっとおさらいし、いざ公道へ。旧車レンタカーが借りられるトヨタモビリティ東京 有明店の周辺は広い道路が多く、少し足を伸ばせばレインボーブリッジもあったりして、慣れないクルマでも走りやすい道路環境だ。

走り出して驚いたのが、乗り心地のよさだ。駐車場から公道に出るために段差を乗り越えたが、ショックが少ない。マイルドな乗り心地は長距離の運転でも負担が少ないだろう。ただ、当然ながら停車中のアイドリング時はかなり揺れる。旧車では当たり前だが、信号で停まると強めの揺れが訪れる。できれば停止せず、このまま走り続けたいと願いながらハンドルを握った。

アクセルのレスポンスはとてもよく、ブレーキもよく効く。マニュアル車ではギアが入りにくいクルマも少なくない中、セリカ 1600GTはスムーズに変速することができる。整備が行き届いている証だ。

ハンドルの回転をアシストするパワーステアリングは付いていない。そのため、駐停車時にハンドルを回すときはかなり重かったが、走行時のハンドリングは滑らかで苦にならなかった。

  • トヨタ「セリカ 1600GT」

    シートは思った以上にクッション性がよく座り心地がいい

  • トヨタ「セリカ 1600GT」

    この年代のクルマにしては珍しくオートパワーウインドウを装備している

身長179cmの筆者にとって、車内空間が広いとは決していえない。両膝は常にハンドルに当たっている状態だし、少し頭を起こせば頭頂部が天井についてしまうほどだ。乗車定員は5人だが、後席にはまず乗れないだろう。だが、狭い車内だからこそ実感できたことがある。それは、クルマとの一体感だ。自分のカラダに合わせてクルマが包み込んでくれているような一体感があった。ボディのコンパクトさと視界のよさも相まって、とても運転しやすかった。狭い車内空間が逆に心地いいというのは、なんとも不思議な体験だった。

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    マニュアル車なのでペダルが3つ。クラッチは硬すぎず柔らかすぎず、ちょうどいい踏み心地だ

  • トヨタ「セリカ 1600GT」

    後席はかなり狭い。座席があるだけマシといったところか。手荷物を置くにはちょうどいいスペースとなっている

旧車は移動を楽しむためのツール

セリカ 1600GTはコンパクトなボディながら、中にはみっしりと部品が詰め込まれていて、機械としてスキのない重厚感とかたまり感がある。走っていると、金属同士が擦れ合うような小気味よいエンジン音や、路面を小刻みに蹴り上げるようなタイヤからの振動などが感じられる。このあたりが、現代のクルマでは感じることができない面白さだ。

単に移動するためにクルマを利用するのであれば、車種にこだわる必要はまったくない。しかし、少しでも移動時間を楽しみたいというのであれば、こうした旧車を検討してみるのも悪くない選択肢だろう。現代のクルマにはないレトロな空間で運転する楽しさを味わいたいなら、旧車一択といってもいい。

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    エンジンルームはかなりキレイ。こういった部分も旧車ファンにはたまらないはず

KINTO Vintage Clubの特選旧車レンタカーには、ダルマセリカのほかにも旧車ファン垂涎のクルマがそろっている。現在のラインアップは「70スープラ」「27レビン」「アルテッツァ」など計10台で順次増加中。数台ずつのクルマが期間を区切って日本各地を巡回している感じなので、例えばトヨタモビリティ東京 有明店であれば、12月末までの期間にダルマセリカや「MR2」など4台のレンタカーが利用できる。クルマを借りるにはネットで予約すればOK。レンタル料金は8時間で3万円、24時間で3.5万円(料金はダルマセリカの場合。2.5万円からの車種もある)となっており、最長5日間まで借りられる。

旧車は安い個体を買ったとしても、その後の維持費が高額になるケースが多い。維持、メンテ、部品調達などの心配なしで楽しめるレンタカーは、旧車ファンへの入門編としてもオススメだし、SNSにクルマの写真をアップすれば「ばえる」こと請け合いだ。わずか3~4万円で旧車を丸一日堪能できるとなれば、レンタカーとしてはかなり安い部類に入るのではないだろうか。

走り慣れたいつもの道も、セリカ 1600GTで走れば違った景色が見えてくるのは間違いない。

  • トヨタ「セリカ 1600GT」
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  • 「ダルマセリカ」と呼ばれる丸みを帯びたデザインが特徴。どこかアメ車のような雰囲気もあわせ持っている