新潟県は日本海沿岸約250kmにわたる広さを持つ。交通の課題は南北のネットワークだが、このうち「新潟市~上越市」の鉄道高速化について動きがあった。新潟日報デジタルプラスが、9月29日付の記事で「新潟市⇔上越地域の鉄道高速化へ、新潟県が新たに2案 長岡-糸魚川間とほくほく線をミニ新幹線化、時間短縮効果など比較検討」と報じた。

それまで検討していた2案と新しい2案、計4案について、費用対効果などを精査し、比較していくという。「それまで検討していた2案」は「既存路線のミニ新幹線化」と「信越本線改良案」、「新しい2案」は「長岡駅~糸魚川駅間をミニ新幹線化」と「ほくほく線をミニ新幹線化」する案である。2023年度中に調査結果をまとめる方針とのこと。

  • 新潟県が検討している4ルートのうち、「既存路線のミニ新幹線化」は信越本線とえちごトキめき鉄道妙高はねうまラインを三線軌条に改造する(地理院地図をもとに筆者加工)

過去に示された2案のうち、「既存路線のミニ新幹線化」は、既存路線を三線軌条に改造する案。具体的には、上越新幹線長岡駅から信越本線の直江津駅までと、えちごトキめき鉄道妙高はねうまラインの直江津駅から上越妙高駅までの区間を三線軌条とし、ミニ新幹線車両を直通させる。新潟駅から長岡駅まで上越新幹線を走り、長岡駅から上越妙高駅まで在来線に直通する。

このルートはすでに在来線の特急「しらゆき」が運行されており(長岡~新潟間は信越本線を走行)、上越妙高~新潟間の所要時間は約2時間、長岡~新潟間(信越本線)の所要時間は約50分となっている。上越新幹線は長岡~新潟間を約20分で結ぶから、在来線区間の上越妙高~長岡間を従来の速度で走ったとしても、約30分の所要時間短縮が可能になる。

  • 「信越本線改良案」は曲線の多い区間を直線化する(地理院地図をもとに筆者加工)

「信越本線改良案」は在来線規格のまま、曲線区間の多い柿崎~長岡間に直線的なトンネルを整備して時間短縮を図る。新幹線整備方式のひとつ「スーパー特急方式」に似ている。どれだけ短縮できるかの具体的な数値は公開されていないが、検討結果の公表時に明らかになるだろう。筆者の予想として、最大30分程度の所要時間短縮が可能になると思われる。そうでなければ多額の費用をかけて整備する意味がない。検討に値しない。

この時点で、「2つの案を組み合わせれば、1時間程度の所要時間短縮は可能」と思われるが、そこまでは検討されていないようだ。

「新しい2案」のうち、「長岡駅~糸魚川駅間をミニ新幹線化」する案は、先の「既存路線のミニ新幹線化」案で示された上越妙高~直江津間ではなく、糸魚川~直江津間を三線軌条に改造。糸魚川駅で北陸新幹線に直通することにより、金沢~新潟間をミニ新幹線経由で乗換えなしに結べる。上越市の中心部にある高田駅を経由しない代わりに、日本海縦貫ルートを重視する案となる。

  • 「長岡駅~糸魚川駅間をミニ新幹線化」する案は、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインを三線軌条に改造する(地理院地図をもとに筆者加工)

  • 「ほくほく線をミニ新幹線化」する案は、上越線と北越急行ほくほく線を三線軌条に改造し、連絡線も建設する。在来線高速化は原子力発電所を持つ柏崎市が強く要望しているため、このルートの提案は意外だった(地理院地図をもとに筆者加工)

「ほくほく線をミニ新幹線化」は、上越新幹線の浦佐駅から上越線を三線軌条化し、六日町駅付近で分岐して北越急行ほくほく線に合流する。さらに、うらがわら駅付近から分岐する新線を建設して上越妙高駅に至る。虫川大杉駅からトンネルで南下すればもっと距離が縮む。新潟市と上越市を直結する目的と、北陸新幹線・上越新幹線直通の両方を満たすルートになる。

■新潟県が「整備主体は国」とする真意は?

新潟日報デジタルプラスはその後、10月5日付で「ミニ新幹線化など新潟市⇔上越地域の鉄道高速化4案、総事業費『それぞれ数千億円規模』新潟県が見通し 『整備主体は国』事業化を働きかけへ」という記事を掲載。記事のタイトルがそのまま要約になっている。

この「整備主体は国」という部分が気になった。国といっても実態は鉄道・運輸機構(JRTT)になる。新潟県の鉄道だから、「整備主体は新潟県」で「国の補助金を活用する」ならわかりやすい。鉄道整備事業は費用が大きいから、国の補助は得たい。ミニ新幹線で上越新幹線と北陸新幹線の両方に直通すると、受益は富山県、石川県、山形県など広範囲にわたるから、新潟県だけの問題ではない。いっそ国が主体になってほしい。その考え方も理解できる。

しかし、「整備主体は国」と「整備主体は県」だと、話はかなり違う。

国が整備主体となる鉄道事業は4種類ある。「整備新幹線事業」「都市鉄道利便増進事業」「民鉄線事業」「都市鉄道線事業」である。「整備新幹線事業」の建設費は国、自治体、JRが負担する。JRが受益分を前倒し負担した残りについて、国が3分の2、自治体が3分の1を負担する。自治体負担の3分の1は、その9割を地方債で発行でき、地方債償還のときに最大7割を国からの地方交付税交付金で相殺できる。福井県の北陸新幹線延伸区間を例に挙げると、総事業費1兆1,200億円のうち、福井県の実質負担分は約800億円。約7.2%となる。

「都市鉄道利便増進事業」は、在来線において、整備新幹線のように国が保有して、営業主体から線路施設の貸付料を受け取り、債務を償還する。神奈川東部方面線(相鉄新横浜線・東急新横浜線)がこの事例に該当する。「民鉄線事業」は、小田急電鉄の複々線化事業やみなとみらい線などが該当し、建設後は営業主体に施設を譲渡する。「都市鉄道線事業」も同様で、つくばエクスプレスが該当する。これらは営業主体が譲渡された施設の対価を分割払いするため、長期的な債務となる。その負担増を県が補助すると、初期投資額を低くするだけの枠組みといえる。

県が主体となる場合、国の「幹線鉄道等活性化事業費補助」制度があり、国から最大で費用の3分の1が補助される。しかし、「整備新幹線事業」であれば県の負担はずっと小さく、1割以下になってしまう。新潟県の「整備主体は国」の真意は何だろう。整備新幹線のような上下分離の枠組みで、「国が保有し、鉄道事業者が使用料を支払う」形にしたいのかもしれない。

しかし、そうなるとさらなる疑問が生まれる。これはもう信越本線の改良よりも、「羽越新幹線部分開業」のほうが得策ではないか。

■5番目の選択肢として「羽越新幹線部分開業」の検討を

羽越新幹線は全国新幹線鉄道整備法にもとづき、1973(昭和48)年11月15日に基本計画路線として告示された。起点は富山市、終点は青森市。おもな経由地は新潟市、秋田市となっている。

  • 羽越新幹線(赤)は北陸新幹線(青)と上越新幹線(緑)を連絡する(地理院地図を元に筆者加工、ルートは筆者想定)

当時、指定された路線は羽越新幹線の他に、北海道南回り新幹線(長万部町~札幌市)、奥羽新幹線(福島市~秋田市)、中央新幹線(東京都~大阪市)、北陸・中京新幹線(敦賀市~名古屋市)、山陰新幹線(大阪市~下関市)、中国横断新幹線(岡山市~松江市)、四国新幹線(大阪市~大分市)、東九州新幹線(福岡市~鹿児島市)、九州横断新幹線(大分市~熊本市)がある。

これら「1973年告示組」のうち、中央新幹線が建設中。1972(昭和47)年以前に告示された路線は、成田新幹線を除きすべて着工されている。次は「1973年告示組」というわけで、いくつかの路線でロビー活動が活発化している。

2016(平成28)年5月、羽越新幹線と奥羽新幹線の早期実現へ向けて、「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」が発足した。構成員は山形県、山形県県関係国会議員、県議会、市町村、市町村議会、経済界。翌年には、「羽越・奥羽新幹線関係6県合同プロジェクトチーム」が発足している。参加自治体は山形県、新潟県、青森県、秋田県、福島県、富山県。課長級の職員で構成され、奥羽・羽越両新幹線の建設促進同盟会の事務レベル組織を統合した。

2020(令和2)年3月、「羽越新幹線建設促進同盟会」「奥羽新幹線建設促進同盟会」「関係6県合同プロジェクトチーム」は、羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務の調査報告書を発表した。ここで想定された羽越新幹線の経由地は「富山~上越妙高間」(北陸新幹線と重複)、「上越妙高~柏崎~長岡間」、「長岡~新潟間」(上越新幹線と重複)、「新潟駅~新発田~村上~鶴岡~酒田~羽後本荘~秋田~東能代~鷹ノ巣~大館~弘前~新青森間」となっている。

速達タイプの停車駅は富山駅、上越妙高駅、長岡駅、新潟駅、鶴岡駅、秋田駅、弘前駅、新青森駅。このルートで速達タイプの所要時間を計算したところ、上越妙高~長岡間は23分、上越妙高~新潟間は42分となった。現在の特急「しらゆき」は上越妙高~新潟間で約2時間だから、所要時間が約3分の1になる。

6県合同プロジェクトチームはさらに調査を進めて、2021年6月に費用便益比の試算結果を発表した。羽越新幹線は、全区間を複線高架で整備した場合のB/C(費用便益比)が「0.53」、全区間を単線・地平整備で整備した場合は「1.21」となった。新幹線は複線高架で最も所要時間を短縮できるが、この数値を見ると着工は難しい。

新潟県に新潟市から上越市までの建設意向があり、この区間だけの費用便益比が「1.0」を超えるなら、先行着手という手順があっても良いのではないかと思う。信越本線高速化に関して、5番目の選択肢として「羽越新幹線部分開業」も検討してほしい。

■ミニ新幹線にこだわる理由は

「新潟市~上越市」の鉄道高速化は、4案のうち3案が「ミニ新幹線」、残り1案が「スーパー特急方式」になっている。なぜ新幹線に酷似しているかといえば、議論の発端が「北陸新幹線と上越新幹線に挟まれた地域をなんとかしよう」だったから。東京へ直通する2つの新幹線と並行在来線の分離によって、新潟県の経済圏を分断するおそれもあった。

2014年度の北陸新幹線長野~金沢間延伸がきっかけとなり、2009年に「信越本線直行特急のあり方検討会」が設置された。この検討会は2010年までに3回開催され、「既存の優等列車等の維持」「新幹線・在来線直通運転化」「地域活性化策」の重要性を確認した。この中でフリーゲージトレインとミニ新幹線も検討され、フリーゲージトレインが有利と報告されたが、その後、フリーゲードトレインは頓挫している。

北陸新幹線長野~金沢間の延伸開業と同時に、新井・上越妙高~新潟間の特急「しらゆき」が新設され、それまで金沢~新潟間を結んだ特急「北越」、新井~新潟間を結んだ快速「くびきの」のルートを継承した。新潟県の懸念と重要性をJR東日本が共有した結果とも考えられる。

今回、4ルートを検討している「高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会」は、北陸新幹線金沢~敦賀間延伸をきっかけに、「信越本線直行特急のあり方検討会」を再結集した形になっている。糸魚川駅への整備案は日本海縦貫ルートを意識したものに思える。

そこには、遅々として進まない羽越新幹線計画に対する焦りもあるだろう。しかし、声高に羽越新幹線を掲げて実現すると、今度は赤字必至の並行在来線を抱えてしまう。それなら並行在来線になりそうな路線をミニ新幹線に改造し、これを羽越新幹線と見なして国に主体となっていただこう、という考えかもしれない。これは名案といえそうだ。

■鉄道需要喚起のため、新幹線と「しらゆき」の対面乗換えを提案したい

ところで、「新潟市~上越市」の交通手段は鉄道だけではない。NST新潟総合テレビが7月27日に報じた「《気になる数字》新潟県のローカル鉄道事情…圧倒的に少ない“電車で移動” 在来線高速化を検討中!?」によると、新潟県が6月に発表した「新潟・長岡地域から上越地域への移動方法」の調査結果は「自家用車が95.1%」「鉄道(信越本線)が2.7%」だったとのこと。そもそも鉄道の需要が少ない。特急「しらゆき」も現在は4往復のみになった。

新潟県はこの結果を「鉄道の移動時間がかかるため」としている。自動車の場合、Googleマップで経路検索すると、上越妙高駅から新潟駅まで北陸自動車道経由で1時間37分だった。特急「しらゆき」の約2時間に対して約20分も短いし、ドアツードアの利点もある。体感的な所要時間差は1時間以上かもしれない。

新潟県としては、鉄道の優位性を高めるため、「在来線高速化」に取り組みたいところだろう。それならば、ひと足飛びに長距離の路線改良をめざすより、まずは長岡駅で上越新幹線と特急「しらゆき」の対面乗換えを提案したい。すでに新潟駅で上越新幹線と特急「いなほ」の対面乗換えを実施しており、効果は新潟県も認知しているはず。上越新幹線長岡駅は将来の羽越新幹線接続を想定し、2面4線に対応できる構造になっている。これを活用すれば、乗換えがあるとはいえ、約30分の所要時間短縮を図れる。

この設備は信越本線のミニ新幹線化でも応用できる。まずは所要時間短縮で鉄道のシェアを高められるか。次に糸魚川駅も対面乗換えに改造し、金沢~新潟間の利用促進を図る。鉄道のシェア向上を確認できれば、ミニ新幹線化または羽越新幹線建設促進の追い風になるだろう。新潟県の本命は「羽越新幹線」であろうから。