登場人物たちに寄り添う気持ちを、より感じながら読むことができたという今回のナレーション。それは、松本自身に人との“つながり”を考える機会があったからだった。
「私自身、仕事に集中したい気持ちが強すぎて、友達に会うどころか、ほとんど連絡もとらずにプライベートな関係を断っていました。そんな状態がここ数年続いていたのですが、この春夏で時間に余裕ができるととても大切にしたい出会いがあったんです。自分が成長できたことによって、空が青いとか、友達に会ってご飯を作って『おいしい』と言ってくれる、そんな日常的なことが幸せだと思うようになって、そこで人との関わりによってこんなにも幸せをもらえるものなんだと気づかされました」
そこから、プライベートだけでなく、仕事への向き合い方にも大きな変化があったという。
「今までは、仕事が忙しくなることを望んでいたはずなのに、実際に忙しくなったら幸せだと感じる余白がなくて。でも、仕事に全力を尽くしてこられたことと、やっと時間と自分に余裕ができたことで今は一つ一つを幸せに感じられるようになりました。つまり、幸せを感じられる心を育めていなかったんですよね。ささやかな幸せを感じるようになり、困っている人を助けたいと思えるようになって、またそれも自分の幸せと感じるようになったんです」
■自分が今の環境に恵まれていなかったら…
こうした心境の変化から、「ようやく自分の準備ができて、以前から考えていた貧しい国の人たちを支援する活動ができるかなと思っていて」という松本。その思いは海外に向いていたが、今回のドキュメンタリーを見て、「物質的に豊かな日本でも、精神的に幸福を感じていない人たちがこんなにもいたんだ」と目の当たりにした。
「私はたまたま、芸能界というところにいて、尊敬できる、目標にできる人たちが見える環境にずっといたから、その人のようになりたいと思って頑張れたんだと思うんです。もしこういう環境に恵まれなかったとしたら、私自身どんな人生になっていたか分かりません。その危うさをすごくリアルに感じられた回でした」
スマホがないと生きていけない時代である一方、スマホをきっかけに人生を狂わされることもあるという現実を突きつけられる今回のドキュメンタリー。だが、指名客を増やそうと奮闘するホストの礼人さんが発した「一つ一つ、スマホが大事だなと思うことが、すごく染み渡っている」という言葉に、ハッとさせられたという。
「スマホのことをちょっと“悪”だと思いそうになったのですが、ありがたみを感じることができれば、スマホへの向き合い方が変わっていくんだと思えました。あの言葉を聞くまで、私にその感覚がなかったので、すごく良いことを教えてもらったなと思います」
●松本まりか
1984年生まれ、東京都出身。00年に『六番目の小夜子』(NHK)で連続ドラマデビューし、18年『ホリデイラブ』(テレビ朝日)で注目を集める。近年はドラマ『向こうの果て』(WOWOW)、『それでも愛を誓いますか?』(ABCテレビ)、『東京、愛だの、恋だの』(Paravi)、『雨に叫べば』(Amazonプライム・ビデオ)で主演を務め、『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日)などバラエティでも活躍。今後、10月7日放送『THE MYSTERY DAY』(日本テレビ)、10月16日スタート『トクメイ! 警視庁特別会計係』(カンテレ)、10月10日スタート『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日)などのドラマ、10月13日公開『キリエのうた』、2024年初夏公開予定『湖の女たち』といった映画が控える。