JR北海道は9月13日、千歳線上野幌~北広島間に設置する新駅の概要を発表した。2019年に検討された当初案を再検討し、工事費は115億~125億円から85億~90億円、工期も当初案の7年から5年に圧縮された。この工期は行政手続きに1年を見込んでおり、北広島市、北海道、国の協力によって短縮できる。
JR北海道の発表を受けて、北広島市長は2027年度末の完成をめざすと市議会で表明した。地域が発展して駅ができ、それによって地域が発展する。JR北海道では久しぶりの明るい話題になった。
新駅案では、駅舎と「エスコンフィールド HOKKAIDO」(スポーツスタジアム)の距離も短縮された。来場者にとっても良いことだが、いやまて、それならなぜ、最初からこの新駅案にしなかったのだろう。地図で当初案と新駅案を比較すると、じつは当初案にも利点があった。
■当初案はボールパーク以外の施設からも集客が見込めた
当初案は「エスコンフィールド HOKKAIDO」を中心としたテーマパーク「北海道ボールパーク Fビレッジ」の北西端付近を予定していた。ここに新駅を設置した場合、北側に広島工業団地があり、西側に養護学校や特別養護老人ホームなどの福祉施設が複数存在する。こうした施設の鉄道利用が期待できる。
ボールパークの集客は野球の開催に左右され、北海道日本ハムファイターズの試合開催は年間50~60日程度。そうなると、ボールパーク以外の集客要素も担保しておきたい。新駅は工事費を北広島駅が負担する「請願駅」だから、公共施設や市内の産業にも貢献できるほうが良い。
用地的な事情として、千歳線の旧線を転用した歩行者自転車専用道「エルフィンロード」がある。旧線だけに新線に近い。しかし、エルフィンロードはすべて北海道の所有(道道)であり、この道に支障する場所は避けたい。当初案はエルフィンロードから離れており、線路用地を拡幅しやすかった。
さらに、当初案だと「エスコンフィールド HOKKAIDO」の入口「3rd BASE GATE」「Fulltech GATE」がほぼ等距離になる。乗降客が2ルートに分かれることで、試合開催日に各ゲートの混雑を分散できたかもしれない。
しかし、問題は工事費と工期だった。当初案は複線の線路の間に6両編成対応の島式ホームと線路4本(本線2本・待避線2本)、引上げ線1本をつくる計画だった。千歳線は特急列車や快速「エアポート」に加え、貨物列車も走る。普通列車が駅に停車したまま、あるいは列車の折返しなどによって本線を塞ぐわけにはいかない。
そのために、まずは上り線を北へ大きく移動させる必要がある。航空写真を見る限り、下り線も線路1本分くらい移動する必要がありそうだ。そうなると、工事中の列車の運行を維持するために、仮線を設置して本線をつくり、新しい本線に切り替えるという手順が必要になる。高架立体交差と同じくらい手間がかかってしまう。
線路を移動させる距離も長い。6両編成対応のホームと6両編成1本分の引上げ線の長さになる。引上げ線は札幌方面からBP新駅までの増発列車が折り返すために使う。ホームで折り返すより、いったん引き上げたほうがスムーズに列車をさばける。ポイント(分岐器)の新設は7カ所もある。
建設費用ではもうひとつ、土木工事の問題もある。線路の位置が低く、両側の斜面の崩壊を防ぐために擁壁をつくる必要がある。当初案の概算工事費は、2019年時点で80億~90億円と見積もられた。しかし、コロナ禍や円安などもあって資材価格が上昇し、物価上昇を反映した労務賃金を加味したところ、115億~125億円にふくれ上がった。
■JR北海道・北広島市ともに「初期費用を下げる代わりに少しずつ譲歩」
北広島市としては、100億円を超える予算は困る。そこで2023年3月、JR北海道に対し、工事費と工期の再検討を要請した。その結果として、今回の駅の位置も含めた新駅案が示された。
当初案より200mほど北広島駅側に移動し、上下本線はそのままの位置で、その外側に1本ずつ待避線をつくる。ホームは待避線側に設置し、相対式ホームとする。この案だと、本線の運行を維持しつつ、待避線と駅設備の工事を進められる。臨時列車の折返しは北広島駅で行い、新駅に折返し用の引上げ線は設置しない。これで分岐器は4カ所だけで済む。
2面のホームは跨線橋で往来できる。駅舎はボールパーク側に2階建てで建設。JR北海道の発表資料では点線になっていたが、駅舎の2階部分からエスコンフィールド側にも歩道橋がつくられ、市道アンビシャス通りを越えてボールパーク前の歩道に通じるようだ。エルフィンロードの付替えが認められたため、用地も確保できた。その結果、敷地に余裕が生まれ、擁壁は不要となった。その結果、工事費は85億~90億円に圧縮され、工期も2年短縮された。
JR北海道としては、臨時列車の折返しのために、列車を隣の北広島駅まで往復させる必要がある。わずかな本数とはいえ、1日数本、年間60日となれば無視できない経費だろう。つまり、初期費用を低くした分、運行コストは増えることになった。
北広島市としても、新駅が工業団地や福祉施設から少し離れてしまうから、利便性としては若干の低下だが、それでも北広島駅まで送迎することを考えると便利になる。JR北海道・北広島市ともに、初期費用を下げる代わりに少しずつ譲歩したといったところか。
もっとも、その結果として、野球ファンには利点が増えた。駅舎からエスコンフィールドへの距離が短縮され、スタジアム最寄り駅としては理想的な駅になった。しかも予定より2年早く利用できる。
なお、当初案で工場団地や福祉施設群に近づけた理由のひとつとして、「ボールパークだけでは鉄道利用者を集められないから」と筆者は考えていた。しかし、「北海道ボールパーク Fビレッジ」はスタジアム以外の施設がたくさんある。たとえばホテル、レストラン、ショップ、アウトドア体験など。もともと「野球がなくても遊べるテーマパーク」をめざした施設である。昨年度の統計によると、「北海道ボールパーク Fビレッジ」に年間247万人が入場し、うち約38%にあたる約93万人が野球観戦以外の利用だったという。
9月29日の報道で、北海道医療大学がボールパーク敷地内へ移転する方針を決定したと伝えられた。実現すれば、新駅は単なるイベント対応の駅ではなく、通勤通学の重要も生むことになる。北海道医療大学は現在、学園都市線(札沼線)の終点・北海道医療大学駅が最寄り駅となっている。2020年に札沼線の一部区間が廃止された際、当初は石狩当別(現・当別)~新十津川間で検討されたが、北海道医療大学があったために1駅分延長された。北海道医療大学が移転した場合、当別~北海道医療大学間が今後どうなるか、心配ではある。
■新駅開業後のダイヤがどうなるか楽しみ
鉄道ファンとしては、新駅と同時に北広島駅での折返し運用も楽しみだ。特急列車と快速「エアポート」、普通列車、貨物列車が走る区間で、北広島駅折返しの臨時列車がどのように設定されるか。臨時列車は普通か快速か。新駅から北広島駅までは回送か営業運転か。新駅でも本線と待避線の距離が長く、貨物列車の待避も想定しているのではないか、「北海道ボールパーク Fビレッジ」と周辺の発展によっては、臨時列車ではなく、札幌方面から北広島駅までの折返し列車が定期列車化するかもしれない。興味は尽きない。