誰もが薄々予想し、いや、期待していた二役。大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第36回「於愛日記」では、北川景子が茶々役で再登場し、SNSを騒がせた。秀吉(ムロツヨシ)の側室となった茶々(北川景子)は、亡き母・お市(北川)にそっくりで、家康(松本潤)は目を見張る。
■茶々として再登場 第36回ラストでインパクト放つ
終盤の出演者が続々と発表されるなか、茶々だけが明かされず、どう考えても北川景子の二役であろう、そうでなければここまで沈黙を貫くわけはないと誰もが思っていただろう。
オープニングで名前は出て、おお、やっぱりとわくわくさせて、第36回のラストもラストに現れた茶々は、予想を超えて、かなりインパクトがあった。
秀吉が弓を引いているとき、背後から銃を撃ち的に命中させたのが茶々だった。家康に秀長(佐藤隆太)が「兄(秀吉)に取り入るものにはかなり危うい者もおります」と忠告していた矢先の登場で、秀長は茶々を怪しんでいる? ともとれる。とすると、銃を撃ったのも、撃ちそびれて、秀吉を銃殺してしまうことも狙っていたのかも? という疑惑も湧く。
茶々は第30回で、すすんで秀吉に好意的にふるまっていたが、母・市は秀吉と戦って亡くなったし、そもそも、父・浅井長政(大貫勇輔)の死にも秀吉は関わっている。市は秀吉を忌み嫌っていた。にもかかわらず、茶々は秀吉の側室になった。
「母上の無念は茶々が晴らします」「茶々が天下をとります」と茶々は野望を燃やしていたため、あえて秀吉に近づく作戦ではないかとも思える。
一方、茶々は、家康のことも憎んでいた。市を助ける約束を2度も破っているからで、第36回で、家康に向けて「ダーン!」と銃を撃つ真似をしたのは、殺意の現れかもしれない。そのあと、秀吉に向けても「ダーン!」とやるのは、茶々の真意がどこにあるかわからないように視聴者を撹乱した仕掛けだと感じる。
いずれにしてもかなりやばそうな茶々。市にそっくりではあるが、若武者のような凛々しさのあった市と比べ、茶々は唇が真っ赤で妖艶な雰囲気。無邪気な色気で秀吉を攻略しているような印象を受ける。でもそれも、茶々の作戦のひとつではないか。と思わせるのは、この回、本多平八郎忠勝(山田裕貴)の娘・稲(鳴海唯)が、真田家に嫁ぐことになり、「夫婦(めおと)を為すもまたおなごの戦と思い知りました。真田家、我が戦場として申し分なし」と凛々しく述べるのである。
戦国時代、婚姻は戦略のひとつでもあった。家と家とを婚姻でつなぎ、縁故を深くする。あるいは、嫁ぎ先の情報を探るようなこともあっただろう。第35回で、秀吉の妹・旭(山田真歩)が、家康と秀吉との関係を強固にするため、夫と離縁させられて嫁いできた。
■毅然としたたたずまいに貫禄
そして、あんなに陽気でいつも場を和ませている於愛(広瀬アリス)も、実は偽りの笑顔で家康に仕えていたことが第36回で明かされる。夫を戦で亡くし、2人の子供を育てるために家康の屋敷で働いていたところ側室となったのだ。「殿のことは心から敬い申し上げているけれど……お慕いするお方ではない」という於愛の日記を家康が読んだら、お葉(北香那)に家康との行為がいやいやだったと言われたときのショック再びであろう。
また、かつて、武田信玄の間者として働いていた千代(古川琴音)も夫を亡くして間者として生きるしかなく、いまは鳥居元忠(音尾琢真)と夫婦になったものの、やはり間者ではないかと疑われてしまう。
茶々もまた、豊臣という嫁ぎ先という戦場を生きているのではないか。男たちの戦いに否応なく巻き込まれてしまった女性たち。でも皆、悲しみや悔しさをひた隠して、男たちに仕えている。茶々が天下を狙うのは、男たちへの復讐に見える。そんな茶々と、母・市を演じ分ける北川景子は、これが2度目の大河ドラマ出演。最初の『西郷どん』(18年)では天祥院篤姫を演じた。第13代将軍・徳川家定の正室として波乱万丈な生涯を送った姫である。
篤姫、茶々と、高貴では華やかなお姫様役が似合う人である。毅然とした佇まいに貫禄がある。彼女の高潔さは、時代劇ではお姫様、現代劇だと正義や真実に向かう職業の役で生きる。近年では『女神の教室~リーガル青春白書~』(23年/フジテレビ系)のロースクールの教師、『フェイクニュースあるいはどこか遠くの戦争の話』(18年/NHK)のウェブ記者、『指定弁護士』(18年/テレビ朝日)の弁護士、映画『ファーストラヴ』(21年)の臨床心理士。映画『約束のネバーランド』(20年)の厳しい飼育官もこわいほど絶対的な信念のある役で、印象的だった。こうと思ったら一直線のメンタルの強さを演じさせたら抜群である。
北川の魅力は、このメンタルの強さや、燃える闘争心を持ちながら、華やかであることなのだ。任務や信念に忠実な役はともすればさばさばし過ぎて、身なりがシンプルになってしまいがちだが、北川の演じる女性は華やかさがある。デビュー作『美少女戦士セーラームーン』(03~04年/CBC )が、戦う美少女というコンセプトで、北川が演じた戦士のひとりセーラーマーズは“クールビューティー”タイプ。そのときから北川のイメージは一貫しているように感じる。
『どうする家康』の市は、男のように戦いたいという思いを持っていた。信長亡きあと、彼の着用していたものに似た黒の戦闘服で戦いを指揮する姿はかっこよかった。その一方で、幼い頃、川で溺れたときに助けてくれた家康にほのかな思いを抱いていた。凛々しさの裏側に乙女な面を隠し持っていた市。その娘・茶々は、信長(岡田准一)と市の血を継ぎ、心に熱い炎を燃やしていそう。今後、天下をめぐる徳川対豊臣の戦いのなか、家康と宿命の関わりをもっていく。彼女が狙うのは秀吉の命か、家康の命か――。茶々を見事に演じきった暁には、北川景子に大河ドラマの主人公を演じてほしい。
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