学生対象のAIコンペティション「SIGNATE Student Cup 2023」の表彰式が東京・千代田区にて先ごろ開催。受賞者によるプレゼンテーションや企業と学生の交流イベントなども合わせて行われた。

  • 学生対象のAIコンペティション「SIGNATE Student Cup 2023」

「SIGNATE Student Cup 2023」受賞式

SIGNATEは2018年にオープンしたAI開発コンペティションサイトで、これまでデータ分析に関するコンペティションを主催してきている。

「SIGNATE Student Cup 2023」はその中でも学生を対象としたもの。中古自動車の販売実績データをもとに、中古車価格を予測するアルゴリズムを構築する「モデリング部門」に加え、ChatGPTを活用した新たなソリューションやサービスを考案する「ChatGPT部門」も創設された。

ChatGPT部門では、協賛企業の「三井住友信託銀行」「テクノプロ・デザイン社」「旭化成」「ブリヂストン」から選択し、企業が抱える課題を仮定してアイデアをレポート形式で投稿する。

今回の参加者は、モデリング部門で530名、投稿総数5,186件で参加者は歴代でも2番目、投稿総数は最高件数となっている。

新設のChatGPT部門は71名、投稿総数39件で、学生限定のアイデアコンペとしては最大規模となった。

SIGNATE代表取締役社長CEO齊藤秀氏は、冒頭あいさつで、人口が減少していく中で今のままでは経済が停滞してしまうと話す。

  • SIGNATE代表取締役社長CEO齊藤秀氏 提供:SIGNATE

その上で、「豊かな社会を作っていくためには生産性を倍にしなければならない。その効率化のためにはデータ活用やAIが重要。学生のみなさんと良い未来を作っていくきっかけになれば」と話し、コンペティションの目的などが語られた。

なお、このコンペティションへの参加など、SIGNATEのサービスをきっかけに企業側からスカウトされて就職につながるケースもある。

受賞式の後では、モデリング部門精度賞1位のチームUTG_limpとChatGPT部門SIGNATE賞の大木基嗣氏によるプレゼンテーションや、アンバサダーの活動報告なども行われ、参加した学生らはメモを取りながら聞くなど、真剣に話に耳を傾けていた。各賞の受賞者は下記の通り。

  • 受賞者たち 提供:SIGNATE

■モデリング部門
【精度賞】
1位:チームUTG_limp
2位:Macky
3位:チーム神戸大学システム医学研究会
4位:チームdistraction
5位:チームGotyanabe
【特別賞】
最大投稿数賞:Riku72o
投稿連続日数賞:中川蓮

■ChatGPT部門
【企業賞】
SIGNATE賞:大木基嗣「三井住友信託銀行様向けの提案、従業員成⻑支援rAIval」
三井住友信託銀行株式会社賞:廣江航大「コンサル,営業の育成サポート」
株式会社テクノプロ テクノプロ・デザイン社賞:ryooou「テクノプロ・デザイン社多様な技術領域を活かした課題解決」
旭化成株式会社賞:杉友美雪「社内情報共有ツール」
株式会社ブリヂストン賞:廣江航大「ENLITENカスタマイズ精度の向上」
【特別賞】
投稿企業数賞:大木基嗣

参加学生に聞く、コンペティション就活のメリット

こうしたコンペティション形式による就活のメリットがどのようなところにあるのか。参加した慶應義塾大学経済学部3年生のミラー純さんに話を聞いた。

――今回のコンペティションに参加された理由を教えてください。

普通の就職活動では、人物面接やグループディスカッションなどが主軸になるかと思いますが、学生からすると評価軸がわかりにくいんです。ですが、コンペティション形式、特にモデリング部門では数で定量的に評価されてフィードバックがあるので、とてもわかりやすい。ChatGPT部門でも評価軸はしっかりと定められていたので、学生側がどの方向性で頑張ればいいのかが明確。そこが魅力的で参加しました。

  • 慶應義塾大学経済学部3年生 ミラー純さん

――就活サイトや就活イベントなど、就職活動にはいろいろな方法がありますが、コンペティション形式での就活にどのようなメリットを感じていますか?

例えばグループディスカッションなどでは、30分という限られた時間の中で生花を出さなければなりませんが、コンペティション形式だと1カ月などかなりの猶予があります。その時間の中でしっかりと自分の思考の幅と深さをアピールできますし、トライ&エラーもたくさんできるので、自分自身の成長も実感できます。自分のポテンシャルをフルに発揮できるというのが学生側には大きなメリットだと感じますね。じっくりと考えたい人にはとても向いている方法だと思います。それに、自分がどれくらいのスコアなのか、順位も出ますので向上心を刺激させられますね。やっぱり勝ちたい、順位を上げたいという気持ちになりますから。

――今回参加されてみて、ご自身の手ごたえなど感想をお聞かせください。

企業の課題を特定して、それを自分で仮定した上で解決していくという形が、とても面白いと感じました。コンサルティングのような感覚と言いますか、学生の立場から企業を見て、提案する機会を持てるのは滅多にないです。そこにやりがいを感じましたし、自分のクリエイティビティを発揮できた部分じゃないかと思いますね。すごく楽しかったです。

協賛企業に聞く、コンペティションに参加する学生をどう見るか

企業側からは、コンペティションに参加するような学生にはどのようなニーズがあるのだろうか。本コンペティションに協賛している三井住友信託銀行で人事を担当する丸山氏にも話を聞いた。

――今回のコンペティションに参加している学生は、御社では職種別採用の対象になるのでしょうか。通常のポテンシャル採用とは違いますか?

他社さんとは少し違う考え方かもしれませんが、コンペティション形式での採用は広い意味でポテンシャル採用だと考えています。職種別採用のように「入社後ずっとデータサイエンティストとして働く」ではなく、あくまで総合職の1人として採用していますね。ですから最初はデジタル領域の職種に配属されますが、その後のキャリアデザインや、その時の人事戦略から別職種への異動などもあり得ます。

  • 三井住友信託銀行で人事を担当する丸山氏

――御社ではコンペティションからの採用を今後も積極的に行っていく予定ですか?

優秀な方や技術の高い方、自分で考えて手が動かせる方は今後もぜひ採用していきたいと考えています。技術的な観点はもちろんですが、それ以上に"課題を見つける力"や"その課題にどうアプローチするか"という筋道の立て方、それを如何に論理的に人に説明できるか。そういう部分も見させてもらえるからです。

――技術力を重視した採用であれば、経験のある転職者を採用するという方法もあるかと思います。あえて新卒を採用していくことには理由があるのでしょうか。

確かに、技術面だけを見れば実務経験のある転職者の方が有利に思えるかもしれません。ただ、これは弊社固有の事情かもしれませんが、信託銀行という性格上、業務領域が非常に幅広いんです。そのため、その領域の理解も技術面と同じくらい重要だと考えています。中途採用もしていますが、信託銀行の業務に「強いこだわりを持って活躍したい」と志望する人材も必要だと思います。そのような人材を社内で育成する意味でも新卒採用することは重要です。

――今日の受賞式や交流会に参加されて、どのような印象を持たれましたか?

まず、本当に優秀な学生の方がたくさんいらっしゃると思いました。弊社の技術職の社員も、技術面が非常に優秀で、発想力や課題へのアプローチの仕方、思考の筋道の立て方が非常に優れていたと感心しています。現実的な議論になるようなアイデアを出す学生もいて、そうした部分でも抜きん出ていると感じましたし、彼ら・彼女らと交流できる機会を持てたことにとても感謝しています。