2023年9月3日より放送開始した『仮面ライダーガッチャード』がいま、特撮ファンから熱い注目を集めている。明るく前向きな高校生・一ノ瀬宝太郎(演:本島純政)はある日、ガッチャードライバーと呼ばれる変身ベルトを託され、世に放たれた101体の人工生命体「ケミー」をすべて回収する使命を担う「錬金術師」となった。宝太郎が変身した仮面ライダーガッチャードは、ケミーを封印した「ライドケミーカード」を2枚組み合わせ、それぞれの力を融合(ガッチャンコ)することでさまざまな能力を発揮することができる。自分だけの何か=ガッチャを錬金術に見出した宝太郎の、奇想天外な冒険はまさに始まったばかりである。
カードで変身する仮面ライダー、底抜けに明るい主人公像、そしてそれぞれが愛嬌満点のキャラクターを有しているケミーなど、陽性の雰囲気を強く打ち出してスタートした『仮面ライダーガッチャード』。ここではプロデューサーの湊陽祐氏にインタビューを行い、番組企画の成り立ちや、キャスティングに込めた思い、そして歴代『仮面ライダー』シリーズを支えてきた先輩プロデューサーから受け継いだ「魂」について尋ねた。
――湊さんは東映入社が2019年だとうかがいました。入社の経緯や、最初にプロデューサー補(AP)としてつかれた『仮面ライダーゼロワン』でのお仕事について教えてください。
それまではマッドハウスでアニメ制作の仕事をしていたのですが、2018年に東映が「特撮専任プロデューサー」を募集しているという記事を読み、前から好きだった特撮作品に関わってみたいと思って受けてみました。大学院に進み、途中アメリカ留学をはさんだこともあり、東映の新卒募集には年齢制限で受けられなかったんです。だから、5年越しでもう一度意中の相手にアタックをかけたわけですね。幸運にも採用していただきましたが、そのころTVアニメ『ちはやふる3』の制作デスクをやっていたため、4月からの予定を一か月延ばしてもらいました。
キャリア採用だったこともあり、入社していきなり『仮面ライダーゼロワン』で大森(敬仁/チーフプロデューサー)から「キャストのスケジュール全般」を任されました。通常、オーディションで決まったキャストのみなさんはスケジュールを本作のためにすべて預けてもらうのですが、どうしても他の仕事が入ってしまうケースがあるわけです。そこで毎回の台本を読みこんで、このスケジュールなら3日あれば大丈夫。だったらこの日は別の仕事を入れてもいいですよとか、逆にこの時期は大事なシーンを撮影するので他の仕事を入れないでとか、撮影日程を正確に予測するという難しい作業でした。
――少年時代に好きだった東映特撮は、どんな作品でしたか。
『鳥人戦隊ジェットマン』(1991年)や『特救指令ソルブレイン』(1991年)を、夢中になって観ていた世代です。そのまま特撮やアニメを好きで観ていましたが、成長していくにつれ『燃えろ!!ロボコン』(1999年)あたりから「さすがに高学年になったし、そろそろ卒業かな……」と思っていると、翌年『仮面ライダークウガ』(2000年)が始まったんです。『クウガ』のころは6年生になっていましたが「今までのヒーローものとは違うぞ」という意欲がものすごく伝わってきて、クラス中で話題でした。その後、中学生になって『仮面ライダーアギト』(2001年)、『仮面ライダー龍騎』(2002年)と、多感な中学生時代にあんなにすごい作品を見せられたら、もう抜け出せないですよね(笑)。
――APとして経験を積んだのち『仮面ライダーガッチャード』でチーフプロデューサーになったことについては、最初どう思われましたか。
それはもう、まさに「ガッチャ!」と叫びたくなるような「待ってました」感がありました。その一方で「マジか。今なのか……」というプレッシャーも同時に感じましたね。
――『ガッチャード』では、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』でご一緒されていた松浦大悟さんがプロデューサー補として入られ、ふたたびお2人による濃密な作品裏話が公式WEBを賑わせていますね。
松浦は新卒採用なので、僕とは7歳くらい年齢差があるんです。彼は『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021年)からAPにつきました。『ドンブラザーズ』では、特撮オタク同士、お互い好き勝手なことをやろう!と役割分担を決め、公式ページの文章を交代で書いたりしていました。僕としては、松浦の書く記事の「勢い」に追いつくのが大変でしたけど(笑)。
――『ドンブラザーズ』では毎回の放送終了後、公式ページでのお2人の「うちあけ話」を読むのが何よりの楽しみになっていました。またTTFC(東映特撮ファンクラブ)での「オーディオコメンタリー」の司会進行役も、お2人が交代で務められていましたね。そういった『ドンブラザーズ』のコンビがそのまま『ガッチャード』に移動した、と考えてよいでしょうか。
結果的にはそうですが、『ドンブラザーズ』後半は、僕は次の『王様戦隊キングオージャー』に移り、準備を進めていたんです。前職がアニメ業界だったので、知り合いにお願いして5大国のコンセプトアートなどを作ってもらったりしていました。このまま今年は『キングオージャー』をやっていこうと思っていた矢先、塚田(英明/プロデューサー)から急遽「次の仮面ライダーをやりなさい」と指令を受けました。そのとき「APは松浦かも」と言われ「ぜひ!」と返事をして、ふたたび彼と組むことが決まりました。