• 『仮面ライダーガッチャード』でチーフプロデュ―サーを務める東映の湊陽祐氏

――仮面ライダーの用いるアイテムが「カード」になったのはどんな経緯からですか。

昨年11月の頭ごろ、バンダイさんから「今年のライダーは”カード”で行きたい」と提示されたのが最初です。僕も「マジック:ザ・ギャザリング」などをずっとやっていましたから、そういったトレーディングカードゲーム的な要素を取り入れられないだろうかと考えまして、カードを操るヒーローってどういう人なんだろうかと、そこから人物像を組み立てはじめたんです。初期の打ち合わせには塚田も白倉(伸一郎/プロデューサー)もいて、「ライダーというのは……」といろいろな助言、提案をもらいつつ、バンダイさんと話を詰めていきました。

――「ガッチャード」という名前には、一度聞くと忘れられないインパクトがありますが、命名に至る経緯はどのようなものだったのでしょう。

『仮面ライダーセイバー』(2020年)のプロデューサーを務めた高橋(一浩)や塚田から「SNSのトレンドワードには、一般的すぎる言葉は入りにくいことがある。フォーゼやエグゼイドみたいに、オリジナリティのある言葉のほうがいい」とアドバイスをもらいました。また『仮面ライダーギーツ』(2022年)も『ギーツ』だけではトレンド入りが難しいと武部(直美/プロデューサー)から聞かされました。3文字というのがネックなんだそうですね。そこで、4文字以上でオリジナルのワードを考えようかという話になったんです。もともとベルトに2枚のカードを入れて「ガッチャンコ!」という仕組みが存在していたこともあって、ガッチャンコを変形させて、ガッチャ(捕まえた/やったぜ!の意)でカード~ガッチャード、いいんじゃないかという話になりました。それ以外にもいろんな方たちの意見を聞き、複数のネーミング候補を出した上で、最終的に『ガッチャード』に決まったんです。

――チーフプロデューサーとAPのお仕事で、最大の違いとは何でしょうか。

プロットを発注する段階から関わっていかないといけないところですね。今までは出来上がったプロットに対して自分なりの意見を言っていたのが、こんどは言われる側という(笑)。設定の骨子を固めるまでに、いろんな映画やドラマ、アニメなども観返して、1年間にわたるストーリーの概要をどう固めようかと、方向を定めていく作業が大変でした。

――まずご自身で「決める」ことがたくさんあるということなんですね。

1年目の新人(チーフ)プロデューサーなので、これをこうしたらイケるという確信がまったくない状態なんです。そこで、子どものころの自分はこういう作品が好きだった、平成ライダーのこういった展開が好きだったな~といろいろ思い出しながら、やりたいことを出して、意見をもらって……というキャッチボールをこの半年間、懸命に繰り返してきました。

  • 『仮面ライダーガッチャード』は学園が舞台

――本作はごく普通の高校と、錬金術師の学校「錬金アカデミー」を舞台にした「学園ドラマ」の雰囲気が強くあるようです。学園を舞台にされた狙いは何ですか。

学園というのは、企画の最後のほうに出てきた要素でした。前作『仮面ライダーギーツ』の浮世英寿(演:簡秀吉)は初めから最強の男で、すべてのことを知っていたじゃないですか。その次ということで、視聴者の子どもたちに近い存在、よりピュアでまっすぐな主人公を描きたいという部分から企画を練りました。今回の主人公は、第1話で不思議な事件に巻き込まれたところから始まっている。予備知識がなくても視聴者に受け入れられるキャラクターにしようと考えたとき、普通の高校生がもっともいいんじゃないかと思いました。

――やはりシリーズの前作『仮面ライダーギーツ』と大きく印象を変えることが命題としてあったようですね。

それはもちろんありましたが、同時間帯に放送されている『王様戦隊キングオージャー』のことも強く意識しています。あちらはこれまで「スーパー戦隊」でやったことのないような、とんでもないビジュアル、世界観を作ろうという企画でしたから、そこに真正面から立ち向かっても仕方がない。ファンタジーのほうに振ると『キングオージャー』には敵いませんから、こちらはもっと「現実」に根差した物語で勝負しようと考えました。錬金術という非日常の世界に宝太郎を導くためにも、日常の象徴たる学校の描写を重視しています。

  • 『仮面ライダーガッチャード』はかわいらしいケミーにも注目

――ホッパー1をはじめ、これまで登場したケミーたちはみなマスコット的な愛嬌を備えています。カードの図柄としても、立体物としても映えるケミーのアイデアはどうやって固まっていったのですか。

最初に錬金術というテーマを決めた段階では、ライダーを構成する2種のケミーはあくまでも素材であって、カードに魂が宿っているという発想はなかったんです。ゲームの世界で、剣と石を手に入れて勇者が強くなるとか、そんな感覚でした。でもケミーのデザインが上がってくると、どれもみな目がついてたりしてかわいいなと思い始めたんです。ホッパー1も最初はもっと攻撃的な見た目でした(笑)。でも、元が機関車のスチームライナーにも「目」がついていたりして、無機物であってもだんだん「生き物」っぽく見えてくる。最終的に「ケミーはどんな形をしていても生き物ということでいいんじゃないか。生き物で行こうよ」と白倉が意見をしてくれて、僕もそれに乗っかる形になりました。