NTT西日本では西日本管内の30府県で、地域が抱える課題を地域のパートナーとともに解決する取り組みを続けている。同社が地域と共創する活動の一つとして香川県の男木島にて8月26日に開催された「男木島灯台サマポケ祭り」には、NTTグループの最先端技術であるAR、VR、XR、音声合成が提供された。

  • caption

    NTT西日本が「男木島灯台サマポケ祭り」をICT技術でサポートした

恋愛アドベンチャーゲームを追体験

「男木島灯台サマポケ祭り」は男木島観光協会が主催する、いわゆる"聖地巡礼"イベント。恋愛アドベンチャーゲーム『Summer Pockets REFLECTION BLUE』(ビジュアルアーツ/Keyが開発するゲーム作品)の舞台のひとつ、男木島を巡りながらゲーム内の出来事を追体験してもらおう、という趣旨だった。関係者によれば、イベントチケット購入枠の200人分は早々に完売。ただ当日はチケットがなくても体験できるコンテンツが用意されたこともあり、男木島には主催者の想定を超える多くのファンが訪れた。

  • caption

    高松港~女木港~男木港を結ぶのは、雌雄島海運のフェリー。当日朝、チケット売り場は長蛇の列になった

  • caption

    フェリーは40分ほどで男木島に到着

この日のフェリー船内には、音声合成で再現したサマポケキャラの声色による案内が流れた。イベント日だけの粋な演出で、参加者の気分を盛り上げる。

  • caption

    サマポケキャラの声色によるアナウンスが日本語と英語で流れた。写真は、男木港に着岸時の様子

  • caption

    参加者は下船した後、グループに分かれてデジタルコンテンツを体験していった

男木交流館では、写真よりもノスタルジックさを感じさせるほどリアルなメタバースVRを提供。VRグラスを通じて目の前に広がるバーチャルな男木島は、自由に散策が可能となっていた。

  • caption

    男木交流館の様子。TENGUN Ogijimaプロジェクトでは、NTT、NTT西、男木島生活研究所、ケノヒが連携。男木島メタバースを通じた関係人口創出・拡大を目指している

  • caption

    ポイントとなる箇所にはサマポケのキャラが出現するなど、ゲームのワンシーンが再現されていた

また、眼鏡越しにARコンテンツを閲覧できる軽量ARグラス「XREAL Air」も用意された。サングラス型のデザインで、装着したままで屋外を歩き回れる設計になっている(ただし当日はブースでの紹介にとどまった)。スマホのGPSと連動しており、ゲームに出てきたスポットがある方向に矢印を向けると、音声と映像で案内が流れる仕掛けだという。

  • caption

    XREAL Airの装着イメージ(画像は合成)。スマホとケーブルで接続して使用する。NTTコノキューがアプリをつくった

なお今回のイベントではXREAL Airにはゲームのキャラクターが登場して音声合成で聖地を紹介する仕様だったが、別のキャラクターで転用することも可能。NTTグループでは今後、観光地においてXREAL Airを活用し、観光ガイドの代わりにご当地キャラが現地案内するような使い方も視野に入れている。

  • caption

    NTTビジネスソリューションズの担当者は「普段の観光だけでなく、たとえば四国八十八か所霊場めぐりなど、何かに特化したガイドサービスをつくっても良い」とアイデアを出していた

このほか裸眼XRあいせき対話システムも披露された。3Dで生成されたサマポケキャラと、あたかも同じ空間にいるかのような映像表現を可能にする。ブースではキャラクターと一緒に記念撮影を楽しむ参加者の姿が見られた。

  • caption

    利用イメージ。グラスを装着しないため、複数人が同時に同じ映像を見ることができ、写真も自由に撮影できる

  • caption

    筆者も試してみた。キャラクターが隣りに座っているかのような自然さがあった

この裸眼XRあいせき対話システム、担当者によれば離れた場所にいる人物の実写をリアルタイムで表示することも可能だという。したがってオンライン会議にも使える。ソファで隣り合う相手とおしゃべりするようなカジュアル感覚のオンライン会議なら、これまでにない新しい発想も生まれてくるかも知れない。

  • caption

    ぜひ、オンライン会議でも使ってみたい

さてゲームでは、重要なシーンで灯台が登場している。当日は、そのモデルとなった男木島灯台エリアでも音声合成による聖地案内が行われた。石造りの由緒ある灯台は、通常であれば立ち入り禁止。しかしこの日は、特別に上まで登ることが許可されていた。

  • caption

    灯台エリアの様子。青い海、白砂の浜辺、石造りの灯台という絵に描いたようなシチュエーションが広がっている

島民の反応は?

NTT西日本 ビジネス営業部 地域活性化推進担当の奥田直己氏に詳しい話を聞いた。同氏はNTT西日本が取り組んでいる、地域の課題解決を目指す『地域活性化活動』(通称ビタミン活動)において香川エリアを担当する人物。

  • caption

    男木港に停泊するフェリー。中央の建物は男木交流館

奥田氏はいま離島に着目しているという。「どうやったら地域を持続していけるか。住民の方と一緒にお話ししながら課題解決に取り組んでいる状況です」と話す。

  • caption

    瀬戸内海の長閑な離島。都会から訪れた人間にとっては癒やしの空間だが……

  • caption

    こちらは、ゲームでは「島の役場」として登場する漁業組合

男木島で開催されるサマポケ祭りは、実は今回が2回目。第1回は2023年1月22日に開催されている。準備期間について、奥田氏は「前回は1か月くらいでスピード感をもって実現したのですが、今回は3か月ほどじっくり時間をかけて準備を進めました」と説明する。

  • caption

    島民の反応は?

人口150名ほどの小さな離島で行われるイベントに、今回は700名を超える応募があった。これについては「たくさんの方にご注目いただけるイベントになりました」と笑顔。そこで気になる、島民の反応についても聞いてみた。奥田氏によれば第1回を開催したとき、とても喜んでもらえたそうだ。「島民の方も、開催前は『ゲーム』や『アニメ』のイベントということで、どうなるんだろう、と不安があったと思います。でもやってみたら、たくさんの人に喜んでもらえた。地域振興にもなるということで、第2回の準備期間では、より積極的に実証実験に協力してもらえました」。

  • caption

    第2回の開催となった今回。物販に協力する島民の姿もあった

イベントがうまくいっている要因のひとつには、ファンのマナーの良さもあるそう。「作品のイメージを守りながら、その中で楽しみたい、と思っているファンが多いんです。皆さん、作品に愛着があるのはもちろんですが、舞台となった男木島にもリスペクトがあるんですね。だからイベントを真摯に楽しんでもらえているんだと思います」。

  • caption

    好きなゲームだからこそ、マナー良く聖地巡礼したいファン心理がある?

最後に、今後の課題点を聞くと「こうした取り組みを持続可能にするためには、どこかで収益もあげなければいけません。どんなビジネスモデルをつくれるだろうか。これから、関係者の間で悩んでいかなければいけないと思っています」と話していた。