睡眠イノベーションカンパニーであるブレインスリープは、同社の代表的なプロダクトである「ブレインスリープ ピロー」をリニューアル。さらに、太田睡眠科学センターとの「AI画像診断によるSASリスク判定」に関する共同研究の発表会を9月7日に実施した。
発表会ではまず、ブレインスリープ代表取締役社長の廣田敦氏が、同社の事業内容など会社説明を行い、9月21日にリニューアルされる「ブレインスリープ ピロー」の特徴や直近の傾向についてを紹介した。
「脳まで眠る睡眠医学と先進のテクノロジーで、人の可能性を目覚めさせる。」をパーパスとして掲げるブレインスリープは、睡眠医学とIT技術を活用したオリジナルプロダクトの開発やサービスの提供を行う睡眠イノベーションカンパニー。同社の主な事業は、睡眠クリニックのコンサルティング、睡眠悩みへアプローチする鍼灸マッサージ、睡眠専門医と共同で開発するプロダクトやサービスとなっている。
同社の最大の強みとは、「日本の睡眠専門医の権威である西野精治先生に、最高研究顧問としてアドバイスをいただいていること」と話す廣田社長。西野氏は、同社の創業者でもあり、現在もスタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体アルゴリズム研究所所長として活躍している。
●ブレインスリープ ピローの特徴
ブレインスリープ ピローは、西野精治氏の著書『スタンフォード式最高の睡眠』に書かれたメソッドを詰め込んだ枕。睡眠の質を上げるためには、眠りはじめの“黄金の90分”をいかに深く眠るかが重要になるが、この黄金の90分を深く眠るためには、深部体温を下げることがとても重要であるという。
これまで使用されていた枕の素材は、ウレタンや羽毛など、通気性の悪い素材が多かったという。しかし、日本は気温や湿度が高く、枕に熱や湿気がこもりやすい環境。そこで、通気性に関する素材を徹底的に追求したのが、現在ブレインスリープ ピローに使用されている素材となっている。
ブレインスリープ ピローは、90%以上が空気の層という圧倒的な通気性を誇り、サーモグラフィーによって表面温度を見ても、ウレタンや羽毛素材と比べて、頭に熱がこもらない。通気性で言えば、そばがらも候補に挙がるが、フィット感が劣るという。その意味では、ブレインスリープ ピローは、通気性とフィット感を兼ね備えた枕となっている。
ブレインスリープ ピローを使った場合の眠りの深さについて、脳波計を使って検証した結果、一般的な機能性枕より深い眠りが124%に増加。ブレインスリープ ピローを使うことで、眠りはじめの90分が深くなることがデータとしても検証されている。
ブレインスリープ ピローのメイン販路がインターネットということもあり、より多くのユーザーにフィットするよう、さらなるリニューアルを検討。そして、9月21日に新たなブレインスリープ ピローが登場することになる。
●より速く、深く、脳が眠る枕にリニューアル
9月21日にリニューアル発売されるブレインスリープ ピローについて、開発責任者である鷲崎聡美氏は、「一見、シンプルに見えますが、太さの異なる繊維が複雑に編み込まれた構造で、この複雑な構造がほかの枕ではなし得ない究極のフィット感を作り出しています」と紹介する。
今回進化した構造は、「線径の細い繊維を増やして、密度を細かく調整したこと」「縦の三層構造を最適化したこと」「横の密度を変化させて作るグラデーションをこれまでの7から9に増やしたこと」の3つ。枕自体の重さはそのままに、繊維の太さや密度、構造をより細かく調整することによって、どんな人のどんな寝方にもパーソナルフィットする枕を実現できたという。
頭の熱を放熱させる通気性を維持しながらも、線径の細い繊維を増やすことによって、より繊細に頭を支えられるようになったのが特徴で、繊維が複雑に編み込まれることにより、触ってみると反発力を感じるが、実際に寝てみると、立体的に頭を包み込むような新感覚の弾力を生み出している。
縦の三層構造は、一番表面にある頭の大きさや重さにあわせてフィットするアジャスト層、頭や首をしっかり支えるために少し密度を上げたサポート層、一番固く、下からも空気が抜ける構造のベース層で構成。
毎日使用する枕は耐久性も求められるが、「頭を包み込む柔らかさと耐久性という相反する要素を実現するために、今回のリニューアルでは何度も調整を重ねた」という鷲崎氏。従来品では、各層が平行になっていたが、リニューアル後は、アジャスト層とサポート層が頭に平行になるように最適化が図られている。
そして、横のグラデーションは、真ん中が一番柔らかく、サイドにいくほど密度が高くなる構造で、従来の7グラデーションから9グラデーションに増やすことによって、滑らかなグラデーションを実現。従来品よりもスムーズな寝返りが打てるのも大きな特徴で、適切に寝返りを打てないと、首や肩がこる要因になるという。
今回のリニューアルによって、「どんな人のどんな寝方にもフィットするような枕を作ることができた」と自信を見せる鷲崎氏。眠るたびに、枕自体が頭の大きさや寝方にフィットして形が変化し、自分だけになじむ枕になっていく。また、耐久性についても10%向上。これまで同様、丸ごと水洗いができて衛生的である点も強調された。
「より速く、深く、脳が眠る枕」にリニューアルされたブレインスリープ ピローは、LOW、STANDARD、HIGHの3サイズで、ピローカバーは2種類。価格は従来と同じ33,000円で、9月7日より予約がスタートしており、9月21日の発売予定となっている。
●ブレインスリープ×太田睡眠科学センターによる共同研究
「ブレインスリープ×太田睡眠科学センター AI画像診断によるSASリスク判定に関する共同研究」については、まずブレインスリープの廣田社長が、「ブレインスリープが考える睡眠課題(SAS)について」をテーマに紹介。
SASは「睡眠時無呼吸症候群」のことで、睡眠中に10秒以上呼吸が止まる“無呼吸”や、無呼吸手前の弱い呼吸“低呼吸”が多く発生する状態を意味する。
日本においては、30~69歳のSAS潜在患者は2,200万人で、治療が必要な人は940万人とされている。SASの治療としては、一般的にCPAPという治療法が用いられる。年々利用者が増えており、10年前と比較して約3.2倍となっているが、治療が必要な940万人と比較するとまだまだ利用している患者はかなり少ないという。
SASは、糖尿病、高血圧、脳血管疾患など様々な合併症を引き起こし、特に中等症以上の場合、8年後の死亡リスクが40%以上あるといわれている。しかし、そういった病気にも関わらず、治療していない人が多いという現状に対して、「日本の睡眠課題としても非常に重要な項目であると考えており、ここの課題解決を行っていくべき」と廣田社長は力を入れる。
同社が、毎年1万人を対象として実施している睡眠偏差値の調査において、問診ベースでSASリスクを算出すると、高リスクであるD判定は、男性24.1%、女性12.3%という結果。無呼吸症というと、肥満の男性というイメージが強いが、実際には女性でもD判定を受けている人がいることを指摘する。
その一方で、実際に治療している人は、男性18%に対して、女性は6%に留まる。あらためて、男性だけの病気ではなく、女性もなりうる病気で、肥満でない人でも起こり得る病気であることを強調し、この課題解決をすべく、太田睡眠科学センターと共同研究を行うことによって、日本の睡眠課題を解決することに着手をしていきたいとの展望を明かした。
●無呼吸になりやすい人とは?
続いて、太田睡眠科学センター所長で、東京慈恵医科大学客員教授、日本睡眠学会理事 副理事長を務める医学博士の千葉伸太郎氏は「SAS」についてあらためて解説。
「SAS」は、代謝、呼吸、循環器、過眠など多彩な病態をきたす疾病で、特にメタボと非常に関係があるという。そのほか高血圧、糖尿病、脂質代謝異常と関連が深いと言われており、呼吸が止まる回数が30回以上の重症患者が未治療の場合、生存率が下がることがわかっている。
そして、もうひとつ重要となるのが“眠気”で、睡眠は本来、回復するため、リフレッシュするためのものだが、無呼吸の場合は、それがうまく行かず、疲れが取れないために昼間眠くなってしまう。過去には交通事故や産業事故と関係することが報告されており、その意味では、本人だけでなく、周りにも危害を及ぼす社会的にも重要な疾患といえる。
無呼吸になりやすい人として、まず肥満が挙げられるが、問題になるのは舌の肥満で、加齢と20歳以降の体重増加によって、内臓脂肪と同様に、舌の脂肪も増えるという。そして、骨格の影響で、舌は前ではなく後ろに太るため、呼吸の通り道である気道に負担をかけ、無呼吸を引き起こしてしまう。
ブラジルにおける調査では、欧米系のブラジル人が無呼吸になる最大の要因が肥満であるのに対し、日系のブラジル人は、肥満だけでなく、顔の骨格の作りが影響しているということが明らかになっている。
犬の場合、狩猟用、あるいはペット用として顔の骨格を作り変えられた短頭種は、骨格が前後に短くなっているため、呼吸をする気道も影響を受けて、宿命的に無呼吸を引き起こすという。これは人間にも当てはまり、進化の過程において、脳、特に前頭葉が大きくなるに連れて、顎が小さく、顔が小さくなっていく。これは短頭種の犬と同じで、気道に負担がかかってしまうため、「最近流行りの小顔は危険性が高い」と警鐘を鳴らす。
実際、日本人の場合、身長180cmで体重が82kgになると無呼吸になりやすいと言われているが、欧米人は180cmだと100kgを超えてリスクが高くなるという。つまり、日本人は、もちろん体重も関係するが、骨格からも影響を受けているため、女性でも小顔の人はリスクが高くなる傾向にあるそうだ。
肥満の男性の場合は、治療としてはCPAPを使うが、根本治療としては減量が必要。しかし、小顔の女性が無呼吸になった場合、減量では治療できない。それゆえ、今後は治療も個別化し、一人ひとりにあった治療をしていくという時代になっていくだろうと説明した。
●今後の共同研究について
続いて、「ブレインスリープは睡眠イノベーションカンパニーとして、プロダクトだけでなく、医療の領域に関しても強化を行っていきたい」という廣田社長が、「今後の共同研究ならびに方針」について発表。
専門家とのつながりを広げることで、日本人の睡眠課題を解決していく第一弾として、今回、全国でも有数のSAS治療、症例数を誇る太田睡眠科学センターと共同で、睡眠時無呼吸症候群をリスク判定できるようなAIを使った画像診断を研究していくというプロジェクトを明らかにした。
共同研究を通じて、AIを使った画像解析で、骨格によるSASリスクを判定できるアルゴリズムを開発。将来的には、スマートフォンなどで自身の顔を撮ることによって、SASリスク判定ができるものを構築していきたいという廣田社長は、「日本の睡眠課題において、SASについての正しい知識、肥満男性だけの疾患ではなく誰でもなる可能性がある疾患であること、こういったことを啓蒙する活動に取り組んでいきたい」と今後の展望を示し、発表会を締めくくった。