■神木は「唯一無二の方」 浜辺も「これ以上ない最高の女優さん」

また、万太郎役の神木について、長田氏は「神木さんは唯一無二の方だなと思います。神木さんは言葉の力もすごいのですが、言葉がない部分もものすごく大きいです」と太鼓判を押す。

「万太郎は“らんまん”でありつつも、壮絶に孤高な主人公でもあります。孤高だからこそ繋がり合うことの愛しさや切なさを誰よりもわかっているキャラクターです。朝ドラの主人公として、万太郎役は最高に難しい役だとわかっていましたが、それを神木さんは素晴らしいコントロールで演じていただきました。神木さん演じる万太郎の眼差しを通して、この世界の美しさも信じられる気がします」

寿恵子についても「やはりヒーローなんだと思います。孤高で大変な道を歩む万太郎に対して、寿恵子は太陽のような、導き手のような存在で、すごくりりしくて、それこそ八犬士のような存在です。武家の生まれの娘であり、お母さんは柳橋で頂点を極めた芸者で、その血を継いだ1人娘という元々スケール感の大きい女性ですが、町人として生きていきながら、才能をどこまでも開花させる、目指す力がすごく大きいです。寿恵子は勇敢だし、全く悲壮感が漂っていないのですが、そこを演じていただくにあたり、浜辺さんはこれ以上ない最高の女優さんだと思いました」と絶賛した。

■心打たれた神木と浜辺のアドリブ明かす

そして、脚本にない俳優陣のアドリブが際立ったお気に入りのシーンについても聞くと、神木が本来、言葉にしない擬音を台詞として口に出したシーンをピックアップ。

「楽しかったのは、神木さんが『ズギャン』を言葉にされたことです。ちょっと衝撃的で、びっくりしましたが、とてもチャーミングでした(笑)。それを受けて、竹雄(志尊淳)もズギャンと言ってくれました。そうやって脚本上、そこでときめきが起きるとか、思いの発露があるのをちゃんと俳優たちがキャッチアップし、工夫を凝らして表現してくれたのでとても面白いシーンになりました」

また、もう1点、浜辺が鹿鳴館でダンスを猛特訓しているシーンでのアドリブにも心を打たれたという長田氏。

「寿恵子がダンスレッスンを始めた時、先生から筋トレをさせられるシーンで、浜辺さんが『寿恵子、トライ!』と言ったアドリブです。台詞としては、先生が『キープ!』と言ったあとで寿恵子も『キープ!』と復唱して頑張るとなっていましたが、『寿恵子、トライ!』と言ってくれました。全編通して、寿恵子の大冒険はまさに『寿恵子、トライ!』の連続ですが、そのテーマを自分で言ったんです。あそこで寿恵ちゃんは自分で社会に踏み出したわけで、それは寿恵子の産声でもあったから、すごく感動しました」

最後に長田氏は「『らんまん』という物語は、槙野万太郎が生きとし生けるものすべてのありのままの特性を見つめ、それらを愛しぬく眼差しが貫かれています。すべての登場人物が、最後まで自分の冒険を続けていくことになると思いますので、皆の人生が咲き誇る物語、その行方を楽しみに見守っていってもらえたらと思います」とメッセージを送った。

■長田育恵(おさだ・いくえ)
1977年生まれ、東京都出身の劇作家、脚本家。劇団「てがみ座」主宰。井上ひさしに師事後、2009年に「てがみ座」を旗揚げ。2016年に戯曲『蜜柑とユウウツ-茨木のり子異聞-』で第19回鶴屋南北戯曲賞を受賞。2020年『現代能楽集X~能「道成寺」「隅田川」より』にて第28回読売演劇大賞選考委員特別賞、PARCOプロデュース『ゲルニカ』にて同優秀作品賞。テレビドラマの近作は、『マンゴーの樹の下で ~ルソン島、戦火の約束~』(19)、『すぐ死ぬんだから』(20)、『流行感冒』(21)、『群青領域』(21)、『旅屋おかえり』(22、23)など。

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