スロウダイヴが語る、シューゲイザー・レジェンドの実験精神と歳月を重ねて深まる絆

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやライドとともに、90年代にシューゲイザー/ドリームポップの代表格として活躍した英国はレディング出身のスロウダイヴ(Slowdive)。1995年に一度は解散するも、2014年に再結成を果たし以降は精力的にライブ活動を行い、2017年に22年ぶりとなる4枚目のアルバム『Slowdive』をリリースした彼らが、およそ6年ぶりの新作『everything is alive』を完成させた。

もともとは中心メンバーのニール・ハルステッド(Vo, Gt)が、モジュラーシンセを用いたデモをコロナ禍で制作。それをもとにエレクトリックなアルバムを作る予定だったが、スタジオでセッションを重ねていくうちに彼らの真骨頂であるフィードバックをレイヤーしたサウンドへと移行。結果的に、ブライアン・イーノを迎えて制作された「最高傑作」との呼び声高いアンビエントな2nd『Souvlaki』(1993年)の延長線上にあるような、エレクトロシューゲイズな内容に仕上がっている。

それにしても、再結成はしたものの全盛期に匹敵する新作をなかなか出せずにいるバンドが多い中、スロウダイブがこうしてクオリティの高いアルバムを2枚も出すことができているのは何故なのか。今年で3度目となるフジロック出演を果たした彼ら。ライブの翌日、フェス現地でレイチェル・ゴスウェル(Vo, Key, Gt)、ニック・チャップリン(Ba)の2人に話を聞いた。

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─昨日のライブはどうでしたか?

レイチェル:最高だった! フジロックでの過去2回(2014年、2017年)は確かRED MARQUEEで昼頃のパフォーマンスだったの。今回はメインだったし、夕方、暗くなってからの雰囲気はやっぱり良かったな。

ニック:自分たちの出番のあと、少しだけ会場を回る時間があったからフー・ファイターズのライブも観たよ。ロケーションも最高で楽しかったし、また次回も来られたらいいな。

レイチェル・ゴスウェル、フジロック23にて(Photo by Yuta Kato)

─昔の曲はもちろんとして、再結成以降のニューアルバムの曲がすごく盛り上がっている印象がありました。

ニック:そうだね、みんな新曲を好んでくれていると思った。特に反応が大きかったのは、先日リリースしたばかりの「kisses」だったし。きっと若いファンが見にきてくれたのだろうね。

レイチェル:どうかな。『Souvlaki』がきっかけで聴きに来てくれたファンが多いのだと思うけど。「Souvlaki Space Station」の反応も良かったから。

ニック:確かに。「When the Sun Hits」と「Alison」はやっぱり際立っていたしね。

ニック・チャップリン、フジロック23にて(Photo by Yuta Kato)

─再結成後、単独公演も含めて何度か日本を訪れているみなさんですが、どんな印象ですか?

レイチェル:日本は大好き! ここ(苗場)以外は東京と大阪だけ行ったことがあって。なんだっけ、あの……速い電車に乗ったよね?

ニック:新幹線でしょ。

レイチェル:そうそう。どこから乗ったかは忘れちゃったけど、すごく楽しかった。また戻ってきていろんな場所を旅行したいな。私はガーデニングが趣味で植物が大好きだから、日本の植物や庭園に行きたい!

ニック:90年代は、ライドやラッシュが日本に来てファンベースを確立していたじゃない? 僕らは当時、なかなか機会がなくて再結成後の2014年が日本での初ライブだったんだ。とても新鮮な感覚だったね。日本とイギリスは全く違うって感じた。

─それは、例えば?

ニック:例えば車で移動してサービスエリアに立ち寄っても、何が書いてあるのか、どんな食べ物があるのか、マシンはどうやって使ったらいいのか全然わからないし……しかもロボットが注文を取りに来るでしょ? まるで映画のセットの中にいるみたいだったよ(笑)。君たちにとっては当たり前のことかもしれないけど、退屈な田舎育ちの僕らからすれば、「一体何なんだ!?」って感じだったんだよ。

レイチェル:そういえば、私は東京で猫カフェに行ったわ。猫好きだから経験としてね。

─東京にはチンチラのカフェとかもあるらしいですね。

レイチェル:嘘でしょ? どんな感じなの?

─行ったことはないんですが……想像できないですよね(笑)。

レイチェル:チンチラって夜行性でしょ? 一度スティーヴ(夫)と飼おうか検討したことがあるんだけど、世話がすごく難しいって知って、ツアーのことも考えて諦めたの。

ニック:まあとにかく、また絶対に戻ってきてゆっくり過ごしたい。レイチェルが庭園に行けるくらいね。

レイチェル:次は桜を見てみたいわ!

ニック:僕は冬に訪れて、スノボーとかやりたいな。

最新アルバムで発揮された実験精神

─では、新作『everything is alive』についてお聞きしていきます。前作『Slowdive』はセルフタイトルの復帰作だったわけですが、それを経て今回はどんな意識でアルバムに取り組んだのでしょうか。

レイチェル:もともと2020年4月から6週間のスタジオセッションをする予定で、曲のアイディアや制作自体は前年から始めていたの。ところがコロナ禍でセッションはキャンセルになって、仕切り直して行われた最初のセッションは2020年の10月だった。そこから6週間のセッションで、最初に取り組んだ曲は「shanty」。2日間ずっとループで聴き続けていたよね。かなり難航した。

ニック:ニール(・ハルステッド)は常に新しいことにトライするのが好きで、今回はミニマルなエレクトロニック・ミュージックを作りたかったみたいだね。前作『Slowdive』はいかにもスロウダイヴらしいアルバムで、きっとみんな『Souvlaki』や『Pygmalion』との繋がりを感じたと思うんだ。なので今回は、今までと少し違うこと……もうちょっと実験的なことをやろうという意見で一致した。個人的には、『Pygmalion』のテイストに近いアルバムになるかと思ったけど、結果的にはやっぱりスロウダイヴっぽいアルバムになったね。

レイチェル:みんなでスタジオに戻れたのは本当に救われた。コロナ禍の最初の頃は、もう同じ部屋にみんなで集まるなんてできないんじゃないかと思ったし、世界の終わりを生きているような、本当に暗い時間だった。でも2021年から2022年の2月にかけて、スタジオで3、4回くらいセッションをすることができたの。それまでずっと、お互いの自宅からリモートで音源を送り合ったりして、一筋縄ではいかない日々を過ごしていたから、スタジオで直接ニールの意見を聞けるのが本当に嬉しかった。

─アルバムを制作するにあたり、何かリファレンスにした作品などありましたか?

ニック:明らかなリファレンスがあったのかどうか分からないけど、ニールはずっとエレクトロニックサウンドの領域にいたな。ソロプロジェクトでもスロウダイヴと違うことをやろうとしていたし……。とはいえ、僕らが集まれば結局は僕らのサウンドになってしまうんだよ。クリスチャンのギター、僕のベース、レイチェルのボーカルが入れば、それはスロウダイヴなんだ。

─モジュラーシンセでの実験からスタートしたそうですが、具体的にはどんな種類のシンセを使っていたのでしょうか。

レイチェル:ニールはSequential(Dave Smith Instruments)のProphet-6や、MoogのGrandmotherなどを使ってた。

ニック:いろんなケーブルで機器を繋ぎ合わせて……説明するのは難しいね(笑)。彼は最近、複数のモジュラーシンセをベースとしたアルバムレコーディングのサポートをしていた。彼はずっとそれに関わっているし、僕らスロウダイヴのサウンドにもそのDNAは入っているはずだよ。

─「shanty」や「andalucia plays」「chained to a cloud」などで聞こえるシンセサウンドは、その名残りでしょうか。

ニック:そうだね、おそらくProphet-6だと思う。昔のデカいやつ。

レイチェル:あれ、すごく高いのよ(笑)。

ニック:今、ライブで使っているシンセはレイチェルが弾くローランドのJUNO-106しかなかったけど、ニューアルバムの曲を再現するにはそれじゃ足りないかもね。Prophet-6は素晴らしいサウンドを出せるし、きっと面白くなるはずだよ。

ニール・ハルステッド、フジロック23にて(Photo by Yuta Kato)

─今作では「alife」や「kisses」が新機軸といいますか、ポストパンクやネオサイケデリア的なサウンドが印象的です。

ニック:その2曲は、僕らなりのポップソングと言えるかもしれない。僕らはいつもポップな要素を入れようとしていて、例えば「Star Roving」や「Sugar for the Pill」(いずれも『Slowdive』収録)、「Catch The Breeze」(1991年『Just For A Day』収録)にもそれを感じることはできると思う。新作にもそういう要素を取り入れたかったのかもね。実は、「kisses」は別バージョンがある。いつか披露するかもしれないけど、最初は今と全く違うテイストだったんだ。

レイチェル:もっとエレクトロだったんだよね。

ニック:うん。もともとそのバージョンを入れるつもりだったのだけど、アルバムの軸が定まってくるにつれて、だんだん合わなくなってきたんだ。それで、もう少し僕らのバンドサウンドに寄せてみたらしっくりきた。要するに「kisses」は、2つのプロセスを辿った曲だったね。

─ちなみに前作のインタビューで、ビーチ・ハウスやジ・エックス・エックスなど自分たちよりも若いバンドからのインスピレーションについても話してくれました。今作では、そうした新しい音楽からの影響はあったのでしょうか。

レイチェル:ピット・ポニーという、ニューカッスル・アポン・タイン出身のバンドがリリースしたEP『Supermarket』(2022年)がすごく良かった。もうすぐ2ndアルバムをリリース予定のペイル・ブルー・アイズも好き。デヴォン出身で、グラストンベリーのウォームアップ・ショーで一緒にプレイしたのだけど、最高だったな。

─ペイル・ブルー・アイズは、2013年にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのマンチェスター公演でオープニング・アクトをしていました。当時はまだ無名でしたが印象に残っています。

レイチェル:スロウダイヴとはかなり違う音楽だけど、オーディエンスもみんな彼らの音楽を気に入ってくれたと思う。あとはチャスティティ・ベルトも。いい音楽を作っているアーティストやバンドは本当にたくさんいるよね。

ニック:僕は最近の音楽を聴くのに疎いから、昔からずっと好きなバンドを今も聴いているよ。

レイチェル:ねえ、今活動しているアーティストで良い音楽はいっぱいあるのよ?

ニック:(笑)。『トップ・オブ・ザ・ポップス』という音楽番組の再放送をやっているんだよ。時々それを見るのだけど、80年代の音楽はやっぱりどの曲も素晴らしい。

レイチェル:それは言いすぎよ! 全然よくない80年代の曲もあるわ。

ニック:確かに……(笑)。

歳月を重ねて深まるバンドの絆

─スロウダイヴの音楽は、生と死、悲しみと喜びの間を行き来するような二元性のイメージがあり、今作はそのイメージをより強く感じます。

ニック:その解釈はきっと正しいね。

レイチェル:かなり正しい。

ニック:クリーンでパーソナルな曲もあれば、アップリフティングな曲もある。2つの面があるのは良いと思っているよ。闇がなければ光がないように、それらはいつも対になっている。一方が際立つには、そのコントラストが必要なんだ。

レイチェル:私たちの、どのレコードにも光と闇があるわ。歳を重ねるにつれて、純なものとはいかないけど。

Photo by Ingrid Pop

─スロウダイヴは1995年にいったん解散し、19年の歳月を経てこうして再び集まったわけですが、メンバー同士の関係性は以前と比べてどう変化しましたか。

レイチェル:良くなっていると思う。とくに私とニールの仲はね(笑)。

ニック:面白いよね(笑)。バンドや家族、大学の友達とかそういう絆の深いグループに所属していた人は、みんな同じような経験をしていると思う。10〜20年くらい離れていて一緒になった時、相手のことを覚えていても最初はちょっとぎこちない。でもあっという間に、昔から変わらないジョーク、くだらないことをしていたあの頃の、20年前の自分たちに戻れるんだ。年齢に関係なくそんな感じだった。きっとそれは……。

レイチェル:大人になったってこと?

ニック:それもあると思うけど、関係性が緩やかになったからじゃないかな。小さいことを気にしなくていいし……。

レイチェル:心配や不安とかね。

ニック:そのとおり。フレーズについてとかそういう些細なことに必死にならなくなった。バンド以外にも大事なものがあるしね。

レイチェル:家族や子供とか。

ニック:環境が変わって、バンドに対する態度にも変化があった。一方で、僕らのパーソナリティは1990年代から変わってない。クリスチャンと僕なんか、一緒にいる時はまるで17歳の頃のままだ(笑)。くだらないことばっかりしている。そう、今はお互いリラックスした関係性を持てているんだ。

Photo by Yuta Kato

─長いインターバルがあったにもかかわらず、素晴らしい作品をすでに2枚も作ることができているのはなぜだと思いますか?

レイチェル:「新しい音楽が作りたい」という熱がまだあるのよ。再結成した時、「昔の功績にすがって当時の曲ばっかり演奏するようなことは絶対したくない」という思いは共通していた。それに、2014年から2016年にかけてたくさんライブをしたのがすごく楽しかった。

再結成後の1stアルバムは「とにかく曲をレコードして、それから考えよう」っていう感じだったの。レーベルのプレッシャーもないし、自分たちで資金を出してプロセスを楽しみながら制作できた。完成までには時間がかかって大変だったこともあるけど、最終的には納得のいくアルバムになったし、リリースされるのが待ち遠しかった。また音楽の世界に戻ってきてライブできるってことにワクワクしたし、完成した音源が自分たちの元から世界へと羽ばたいていくことに、やはり心踊るのを感じた。そういう感覚を共有していることがキーなのかもしれない。

ニック:きっと、バランスが大事なんだ。僕らは新しいプロジェクトに取り掛かるとき、過去の歴史を頼りにステップアップするのではなくて、新しいバンドとして捉えるようにしてる。もちろん、僕らをずっと応援してくれるファンがいてくれるからこそ新しいことに挑戦できて、さらに多くの人に音楽を聴いてもらうことができているわけだから、べつに「昔の曲なんて演奏しないよー」みたいなことが言いたいわけじゃない。新曲でもヒットしたらライブで披露するし、ヒットしなかったら披露しない。ライブを観に来てくれている人への感謝の気持ちを示したいからね。

レイチェル:とにかく、ライブが好きなんだよね。

ニック:本当に!

レイチェル:私たちは、ただその瞬間を楽しんでいるの。

スロウダイヴ

『everything is alive』

発売中

解説/歌詞/対訳付、日本盤用アートワーク(別カラー)

詳細:http://bignothing.net/slowdive.html