女優の畑芽育が主演する日本テレビのドラマ『最高の生徒 ~余命1年のラストダンス~』(毎週土曜14:30~)。「Z世代に向けたエール」をコンセプトに、その世界観をメディアや手法にとらわれず展開していく「Zドラマ」の第6弾として放送されているが、今作から本格的に注力しているのが、TikTokでの展開だ。

トップクリエイターによるSNSの運用代行を手がけるQREATION社とタッグを組み、様々な角度でキャストたちが撮影の合間に見せる素顔のほか、スピンオフドラマも配信している。そこには、どのような思いと姿勢で取り組んでいるのか。『最高の生徒』プロデューサーの日本テレビ・鈴木努氏と、QREATION代表取締役の米永圭佑氏に話を聞いた――。

  • 『最高の生徒』に出演する(左から)菊地姫奈、齊藤なぎさ、山下幸輝、畑芽育、杢代和人、志田こはく、みとゆな

    『最高の生徒』に出演する(左から)菊地姫奈、齊藤なぎさ、山下幸輝、畑芽育、杢代和人、志田こはく、みとゆな

■Z世代に向けて地上波放送する意義

鈴木氏が「Zドラマ」を立ち上げた理由は、テレビ離れが進むZ世代(1990年代中盤~2010年代中盤生まれの世代)へのアプローチ……と思いきや、実はそこはあまり意識していなかったという。

「僕自身、暗黒の中高生時代を送っていて、この真っ暗なトンネルがいつまでも続くんじゃないかと思いながら走り続けていたんですが、今の自分だったらそのときの自分に『お前すごく苦しそうにしてるけど、時間が経てば結構のんきに楽しそうにやってるから、生きていけばなんとでもなるぞ』と伝えたいんですよ。きっと今の若い世代にも、何かにおびえながら生きてる人がいるんじゃないかと思って、そんな人たちに対して『大丈夫、生きてさえいればなんとかなるさ』というメッセージを届けることが、地上波テレビ局が無料で放送する意義になると思いました」(鈴木氏)

畑芽育演じる、余命1年の宣告を受けた女子高生が、恋愛、友情、家族など一生分の体験を1年の中でしようとする青春が描かれる今作は、同じ土曜のGP帯で放送されている『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(毎週土曜22:00~)の隣のクラスが物語の舞台。

この2つの作品がクロスオーバーする仕掛けも盛り込まれているが、「『最高の教師』のプロデューサーの福井(雄太)が学園ドラマをやるという話があって、そこにジョインさせていただきました。僕は、学校や社会は問題にしないけど、これから生きていく上で自分の中に持っていないといけない“友情”や“恋愛”、そして“命”の捉え方ということについてみんなが考えて、考えて答えのようなものを見つけていくというテーマを設定して、この2つのドラマで届けたいものを作っていければと考えております」(鈴木氏)と、経緯を明かす。

■クリエイターだからこそ切り取れる魅力

こうした思いが込められたドラマを、ターゲットの世代へ届けるために重視しているのが、SNSだ。鈴木氏は「ドラマの現場でもよく言うのですが、SNSはドラマのアキレス腱であると。ドラマは、ただ作ればいいというわけではなくて、どう届けるか。そのためにはアキレス腱がしっかり強くなければきちんと運べないから、すごく重要なものであると位置づけています」と強調する。

そこで白羽の矢が立ったのが、バラエティ番組『有吉ゼミ』(日本テレビ)の総合演出を務める橋本和明氏から紹介された、米永氏が率いるQREATIONのチーム。従来のSNS展開は、キャストたちのケアを担当するアシスタントプロデューサーなどが、時間を見つけて写真や動画を撮影・投稿するという手弁当スタイルが主流だったが、TikTokのプロであるQREATIONのチームが参加することによって、表現の幅が格段に広がった。

米永氏は「SNSって重要度高めではあるけど緊急度は低めになりがちで、番組スタッフの中でSNS担当の方をつけると、番組自体の進行や演者さんの対応などいろんな調整事の後回しになって、ようやく残ったリソースの中でSNSをやることになると思うんです。その労力だとどうしても難しい部分がありますが、僕らはTikTokで1日何十本も投稿して当たり筋を見つけ、その結果として多くフォロワーの方々に支持されているような、出役もやるクリエイターたちが直接撮影現場に行かせてもらっているので、そこの経験値は圧倒的に違うと思います」と自信を見せる。

クランクインの日にまず実施したのは、定点カメラ(スマホ)を置き、キャストがお題についてトークするという企画。「ドラマの現場はスケジュールがすごくタイトで、なかなかSNS用に撮るのは難しいので、いきなり企画もので『これやってください』と投げても難しいと思ったんです。そこで定点カメラを1個置いて、その横にお題だけ書いておくことで、皆さんの素を引き出せるコンテンツを狙ったのですが、うまくいって1つ新しい発見だったと思います」(米永氏)と、理想的な形でスタートを切った。

また、スピンオフドラマ『凛ちゃんの放課後』では、加賀凛(菊地姫奈)が、人知れず黒板をきれいに消し直したり、掃除ロッカーを整頓している姿を、鍋島聖衣良(みとゆな)が発見し、最後は2人で一緒に黒板を消すという約1分のショートストーリーを制作。これについては、「本ドラマを担当しているTikTokクリエイター・関戸かのんが、凛ちゃんの持っているドラマでは伝えきれない、優しさやかわいらしさが引き出せないかと提案して作ったのですが、クリエイターだからこそ切り取ることができた魅力が伝わるものになって、すごく良かったと思います」(米永氏)と、手応えを語る。