WOWOWプライム&WOWOWオンデマンドにて、8月13日から放送・配信スタートする『連続ドラマW 事件』(毎週日曜 22:00~/全4話 ※第1話無料放送)で主演を務める椎名桔平にインタビュー。過去に裁判長として下した判決をトラウマとして抱えながらも、抜群の洞察力と機知に富む弁舌で、「裁判」と改めて向き合う決意をした元エリート裁判官の弁護士・菊地大三郎役を演じた椎名に、役作りの裏側や本作の見どころを語ってもらった。
原作は、1978年に第31回日本推理小説作家協会賞を受賞した大岡昇平の裁判小説。ドラマ化にあたり、舞台を昭和から令和に移し、「誰もが人を裁く立場になり得る」という状況を踏まえ、当時未導入だった裁判員裁判制度での心理戦も、臨場感たっぷりに描写する。生まれ育った環境や過去から飛び出そうと葛藤する人々を通じ、閉塞した今を生きる人々の孤独や苦悩と同時に、社会の闇とその先に光る繊細な希望を綴った骨太の人間ドラマだ。
――本格的な弁護士役は初だそうですが、どのようにアプローチされたのでしょうか?
これまでドラマや映画でいろんな役をやってきましたけど、例えばお医者さん役の場合は、誰しも病院に行ったりしますから。普通に生活している中でも接点があるじゃないですか。 それに比べると弁護士さんとは、基本的に、普段あまり接点がないと言いますか……(笑)
――確かにそうですね(笑)。出来ることなら、関わらずに暮らしたいです。
ましてや裁判官や検察官なんて、もっと接点がないですからね。となれば、そういった職業に就いている方たちと、出来れば直接お会いして。考え方や話し方、声のトーンとかね。相手を見るときの目線なんかもふんわりと吸収できればいいなと思っていて。台本を読んでいても、 言葉の意味としては理解できるんだけど、「このセリフはどういう内面を抱えて、どう言えばいいんだろう」とか。そういったことを準備段階でいろいろ模索しながら、同郷の幼馴染みに弁護士さんがいたのをいいことに、相手の迷惑も顧みず(笑)、「今日の質問は……」と夜な夜なメールを送りつけて、質問攻めにしながら作っていったんです。
――複雑な心情も仕草や表情ににじませながら、お芝居をされていたのが印象的でした。裁判員裁判のシーンも、まるで自分も裁判員として参加しているかのような臨場感でした。
法廷には、いろんな立場の人がいるじゃないですか。ただ単に傍聴している人もいれば、裁判員制度の裁判員で来られている人もいて。裁判官も、弁護側も、検察の人もいれば、その事件に関わった証人とか、傍聴席で見守る親族とかね。そもそも法廷劇というものは、複数の人たちの視線で作られていますから、弁護士や、被告人側からの視線だけじゃない。そういったところが、今回の作品の一番の見どころと言える部分になっている気がします。
――注目する人によっては、また違ったドラマが見えてくる、と。
しかも、どの立場の人にもそれぞれ共感できる要素があるというか、感情移入できる作りになってもいますからね。「もしもこの人と同じような状況に置かれたら、自分も同じ選択をしたかもしれないな」と思ってしまうような、非常に巧妙な演出が施されていて。共演者の皆さんも、名前を挙げるときりがないですが、出演時間が短くともそれぞれしっかりと感情を作り込んでお芝居されていているので、演じる上で、とても助けられました。
――そういった作品だと、やはりいつも以上に演じ甲斐があるものですか?
それはそうですね。複雑な要素がある役柄の方が、演じる方としても当然面白いですし、主役だけじゃなく、そういう人が何人も集まっている作品であれば、尚更面白い。もっと言うと、脚本自体がそういった複雑性を擁していれば、より面白くなりますよね。もちろん、ただ単に複雑であればいいわけではなくて、エンターテインメント作品の作り手として、最終的に視聴者に何を訴えたいのか。それがはっきりしている作品というのが、本当に優れた作品なんじゃないかと思いますね。
――本作には、「自分の話なんて誰も信じない」と投げやりになる人物が複数出てきましたが、椎名さんにも世の中に対して心を閉ざしていた時期もあったりしたのでしょうか?
「誰も俺のことなんてわかってくれない」というのは、「どうせ俺がやったと思われる」という被害妄想もあるとは思うけど、むしろ逆に、道を踏み外した自覚のある人が、周りの人に後ろ指をさされたり、ネガティブな視線を向けられたりするなかで、「俺にだって言い分はある」という感情から出てくる言葉なんじゃないかと思うんです。あるいは、「愛して欲しい」という気持ちの表れでもあるのかもしれない。いわゆる「承認欲求」というのかな。僕自身の若い頃は、道を踏み外しそうになったときも、自分の意志で「踏み外さない」という決断をしてきたから、「分かってくれない」と思うことはなかったけど、世の中、清く正しく美しく生きられる人ばかりではないし、やってしまったことは仕方がない。もし道を踏み外してしまったとしても、ドラマで描かれるように「裁判」という"事件"を経て、更生するなら更生する、できないならできないなりに、生きていくしかないんです。
――菊地弁護士が被告人である上田宏にかける「人間は間違えるものだから」という言葉が、作品全体を貫いている気がしました。あの言葉は、菊地役を演じる上での大きな軸の一つになりましたか?
あの言葉は大きかったですね。きっとあれは、自分自身に言い聞かせている部分もあるんでしょう。 「人間は間違えるものだから」という言葉はあまりにも当たり前すぎて、誰かを慰める言葉としてはあまり使わないような気もしますけど、裁判のような人の命を扱う重大な局面では、しっかり口に出して心を込めてメッセージを伝えることで、演じる自分も腑に落ちたところもあるんです。
――「関わる人間で、人の未来は簡単に変わるからな」という菊地の最大の理解者である高橋(高嶋政宏)の言葉も印象的でしたが、椎名さんはこの言葉についてどう感じていらっしゃいますか?
人生の節目節目に、人との出逢いはありますよね。「もうダメかな」と思っていたような時代に抜てきしてくれた人もいますし、巡り合わなければ生まれなかった作品もある一方で、もしもその時別の誰かと出会っていれば、今よりもっといい人生だった可能性もあるわけで(笑)。すべてのことは、予め決まっているんじゃないかとすら思ったりもしますよね。
――とはいえ、椎名さんには「自分の意志でこの道を選んできた」という思いもある、と。
そうです。だから僕は、年に1度おみくじは引きますが、それ以外、占いの類は一切やらないんです。決して神様を軽く見ているわけではないんだけど、あまり先々のことを予測するのは得意じゃないというか。もし本当に未来を予言出来るような人がいたとしても、僕は知りたくない。「一寸先は闇」じゃないですが(笑)、たとえ現実はどうでも「自分の人生は、自分で変えられる」と思っていたいから。裁判の過程で、菊地が「たとえどんな判決が下っても、その罪を償ってそちら側(社会)へ戻った時には、どうか再び迎え入れていただきたい」と傍聴席に向けて言葉を投げかける場面もありますが、あの言葉というのは、実は被告人の宏くんに向けて言っているんだと思うんですよ。「宏くん、皆さんはこうやって僕が言った言葉を受け止めてくれているよね。だから、安心して刑を終えて戻ってこい」と。そういう見方もありますよね。
――では最後に、改めてメッセージを!
このドラマは、たとえ裁かれる立場の人が観ても、裁く側の人が観ても、傍聴席に座っている人が観ても、必ずや、評価していただける作品になっているに違いない。そう、自信をもってオススメしますので、ぜひとも放送を楽しみにしていただけたらと思います。