数々のヒット作を手がけている宮藤官九郎が企画・監督・脚本を務め、1970年に黒澤明監督が『どですかでん』のタイトルで映画化したことでも知られる、山本周五郎の小説『季節のない街』を映像化(ディズニープラス「スター」で8月9日より全10話一挙独占配信)。宮藤にとって紛れもなく一番やりたかった作品で、長年温めてきた企画だという。「シナリオを書いているときは、どれだけ人に褒められても孤独なんです」と吐露した宮藤は、本作の発表時に「自分の第二章が始まる」と発言。本作に込めた思い、原作小説と映画『どですかでん』からの影響について明かした。
原作は、誰もがその日暮らしに追われる、裕福とはいえない“街”を舞台に、個性豊かな住人たちの悲喜を紡いだ傑作小説。本作では、舞台を12年前に起きた“ナニ”の災害を経て建てられた仮設住宅のある“街”へ置き換え、現代の物語として再構築。希望を失いこの“街”にやってきた主人公の半助(池松壮亮)が、住人たちの姿に希望をみつけ、人生を再生していく姿を描く。
黒澤作品の中でも、「『どですかでん』が一番好き」だと熱を込める宮藤。同作を初めて観たのは、「20歳くらいのこと」と振り返る。「上京してすぐくらいに、そういえば黒澤監督の作品って『影武者』くらいしか観たことがないなと思って。気になるものから片っ端に観ていったんです。そうすると『どですかでん』だけ明らかに変(笑)。ずっと忘れられない作品だった」と切り出し、「大学に通うために東京に来たのに、自分の好きなことをやれている気もしない。いろいろなお芝居を見始めた頃でもあったんですが、『みんな楽しそうにやっているのに、なぜ俺だけどうしたらいいかわからないんだろう』と悶々としている時期だったんですね。そういうときに観たからこそ、思い入れが強いのかもしれない」と述懐。「その後、原作小説を読んで、その昂りのまま本格的に大人計画へ参加しました」と彼の背中を押した作品だという。
宮藤は「黒澤作品の中では興行成績も評価もそこまで高くないのに、なぜか同業者、役者や監督に『どですかでん』が好きだという人が多いんです」と続け、「黒澤監督が映画を撮ることができない時期に、長年企画を温めていて、久しぶりに映画を撮るとなったら、錚々たる役者さんたちが集まって、それぞれがすごい演技をされた。その勢いや熱やエネルギーが、僕らのようなエンタメに関わる人を惹きつけるんじゃないかと思うんです」と思いを巡らせる。
宮藤が、「季節のない街」を映像化するために欠かせないと思ったのは、その勢い。同時に「どうしたら、今やる意味があるものになるのか」と考え続けたという。「正直、難しいなと思いました。原作や『どですかでん』では、戦後バラックが並ぶ街が舞台なんです。今、バラックといわれても身近なものにはならないと思いました。とは言え架空の都市とか、突飛な設定でファンタジーにしてしまったら、今映像化する意味がないし…と考え続けて、本作では仮設住宅のある街を舞台にしました」と現代の設定として再構築するために、試行錯誤したと語る。
本作は“ナニ”から12年後の世界を描くが、“ナニ”には東日本大震災だけでなく日本各地で起きたさまざまな災害への思いが込められている。
「災害にあわれた当事者の人たちのことを考えたら、僕は普通に生活ができてしまっている。震災の話でさえ、どんな顔をして聞けばいいのかもわからなくて。でもそういう感覚って、口に出してはなかなか言えなくて。今回のドラマの中で、池松くん演じる半助にその想いを託しました。半助と、ベンガルさん演じる街を見守るたんばさんとのやり取りを書きながら、「自分はこう思っていたんだな。こういう形で現代の設定に変えて表現できてよかった」と話し、主人公の半助は、自身の分身のような存在だと明かす。