北海道新幹線(新函館北斗~札幌間)建設工事のうち、札幌車両基地工事の準備が整ったことを受け、7月29日に札幌市内で起工式(主催 : 鉄道・運輸機構、北海道新幹線建設局)が行われた。これにより、北海道新幹線は全区間で着工した。

  • 札幌車両基地の建設予定地。すぐ横を在来線の列車が走る(筆者撮影)

北海道新幹線は2030年度末の札幌延伸開業に向け、道内各所で工事が進んでいる。札幌車両基地は札幌駅から苗穂駅付近まで、全長約1.3kmにわたって設置される予定。整備新幹線の車両基地では初めて、全体を上屋で覆い、冬季の積雪など北海道の厳しい自然環境に備えた車両基地となる。

■猛暑の中、来賓や関係者ら多数出席 - 注目の集まる工事に

起工式は札幌市中央区の車両基地建設予定地で行われた。開会に先立ち、「札幌福井ばやし保存会」が演奏を披露。北海道開拓時代、福井地区からやって来た人々が北の大地で舞った「明神ばやし」(福井県の無形文化財)を起源とする「福井ばやし」を保存、伝承している。太鼓を叩いていなくてもバチを動かすなど、躍動感のある演奏で、式典開始前の会場は大いに盛り上がった。福井県は北海道と同じく新幹線の延伸開業を控えている縁があり、トンネル掘削等で発生する土の運搬で連携しているという。

  • 「札幌福井ばやし保存会」による演奏(筆者撮影)

  • 式典会場に設置されたパネル。トンネル工事は確実に進んでいる(筆者撮影)

式典会場に入り、北海道新幹線札幌延伸の工事を紹介したパネル類に目を通す。延伸区間の約8割を占めるトンネルは、全17本のうち6本が貫通し、およそ66%の掘削が完了したという。筆者は今年5月、倶知安駅周辺の高架橋起工式を取材したが、このときの掘削率は64%だった。2カ月の間に、工事が着実に進んでいることを実感する。

11時すぎ、起工式および安全祈願が始まった。鉄道・運輸機構理事長の藤田耕三氏が登壇して挨拶した後、来賓として北海道知事の鈴木直道氏、JR北海道代表取締役社長の綿貫泰之氏らが祝辞を述べた。

  • 北海道知事の鈴木直道氏(筆者撮影)

  • JR北海道代表取締役社長の綿貫泰之氏(筆者撮影)

  • 鍬入れを行う関係者ら(筆者撮影)

実際に会場で取材すると、倶知安駅高架橋起工式と比べて来賓や報道関係者らの人数がかなり多いと感じる。札幌市の中心市街地付近に建設されることに加え、札幌車両基地の独特な構造なども関係しているのかもしれない。この工事が多くの人々の注目を集めているともいえる。

起工式から安全祈願に移行し、神職らが入場すると、会場は静粛に包まれた。儀式は滞りなく進行。鍬入れでは、国会議員をはじめとする関係者が、「北海道新幹線札幌車両基地、着工」という掛け声に合わせ、「えい、えい、えい」と鍬を振った。

鍬入れを終えると、玉串の奉納が行われ、神事は無事に終了。当日は札幌市内も最高気温34度という猛烈な暑さだったが、来賓および関係者らが多数出席する中、式典は厳かに進行した。北海道新幹線の札幌延伸に向けて、大きな一歩になったことだろう。

■まるでシェルター!? 札幌車両基地は特徴的な外観に

7月29日に着工した札幌車両基地は、発表時から注目を集めてきた。大きな特徴は2つ。基地すべてが上家で覆われることと、全長約1.3kmにおよぶ細長い形状である。

  • 札幌車両基地のイメージ図(JRTT鉄道・運輸機構提供)
    ※デザインは検討中であり、あくまでもイメージ図です。

札幌市は道内全体で見れば比較的温暖だが、それでも冬場はマイナス10度くらいまで気温が下がる日もある。したがって積雪や低温によるポイント故障など、設備や車両がトラブルに見舞われるリスクが高い。厳しい自然環境を考えれば、北海道新幹線の路線総延長の約8割がトンネルであることも頷ける。

札幌車両基地は線路を上屋で囲い、雪や風から車両を守る。整備新幹線としては初めての事例であり、イメージ図を見ても、その特徴的な外観が目を引く。塗装や外観デザインは今後検討するとしており、あくまでイメージではあるものの、札幌市営地下鉄南北線の高架部に設置されたシェルターをほうふつとさせるものだった。上屋を含めた札幌車両基地の高さは約22m、延床面積は約2.5万平方メートルになるという。

  • 現在の札幌車両基地建設予定地の様子。奥に見える横に延びる通路はJR苗穂駅の連絡通路(筆者撮影)

  • 俯瞰した札幌車両基地(JRTT鉄道・運輸機構提供)
    ※デザインは検討中であり、あくまでもイメージ図です。

  • 工事現場はJR函館本線の線路と近接。駐車場部分には車両基地の事務所ができる予定とのこと(筆者撮影)

札幌車両基地の建設予定地は在来線の線路に近接し、複々線区間を函館本線・千歳線の列車が頻繁に行き交う。札幌市の中心市街地に近く、狭い場所でもあるため、形状の決定や工事計画の策定には時間を要した。今回の工事では、新たな入札制度として「ECI(Early Contractor Involvement)方式」を導入。入札段階から各事業者の意見を反映し、円滑な施工を実現したとのこと。

実際に会場で取材する中でも、函館本線・千歳線の列車のジョイント音がひっきりなしに聞こえてきた。そのような環境であっても、在来線の営業や一般の通行を阻害せず、かつ安全に工事を進めなければならない。施工業者にとって、非常に高いレベルの仕事が求められていると感じた。

全長約1.3km、細長い形状となる車両基地は、大きく分けて「着発収容庫」「仕業検査庫」「保守基地」という3つの機能を持つ。札幌駅に到着した新幹線を入庫させ、折返しに備えて清掃や座席転換などを行うほか、パンタグラフの点検、融雪作業といった日常的な検査も行える施設となる。保守基地はおおむね50kmごとに設ける必要があり、各駅のそばに設置されることが多い。

北海道新幹線の車両は相対式ホーム2面2線の札幌駅から引き込み線に入り、車両基地へ。北5条東3丁目付近から線路が3本になり、着発収容庫へと入っていく。基地の終点は苗穂駅の連絡通路付近にまで達する。一方で、大規模な検査を行えるような設備は持たず、それらの検査機能は引き続き函館新幹線総合車両所が担うとのことだった。

■北海道新幹線の全区間で着工「ようやくここまでたどり着いた」

札幌車両基地の起工式をもって、北海道新幹線は全区間で工事が着工した。来賓からは、「ようやくここまでたどり着いた」といった前向きな発言が相次いだが、発生土の問題をはじめ、苦難も多かったからこそのスピーチ内容だったと思われる。

  • 会場には多くの来賓が駆けつけた(筆者撮影)

今後、トンネル掘削や高架橋設置の工事が本格化し、安全な施工を最優先に進めることになる。車両基地の完成後、発展が期待される札幌市創成川東地区の変化にも注目すべきだろう。引き続き、北海道新幹線札幌延伸の推移を見守っていきたい。