専門部署を立ち上げたことで本格的に動き出した日テレの宇宙ビジネス。「我々が何か宇宙の領域での技術を持っているわけではないので、JAXAさんや、民間で宇宙事業に乗り出している有望な企業さんたちと手を組んで、できることをやっていきたいと思っています」と意欲を示す。
具体的には、番組制作で培ってきたコンテンツ制作やIP(知的財産)の開発がその1つ。「当然、テレビ番組の中で宇宙に関わるものと連携していくこともありますが、宇宙というのは教育的な面でも重要な役割があるので、映像コンテンツや体験コンテンツで何かできるのではないかと考えています」といい、直近では8月5~6日に東京・汐留エリアで開催する小学生向けの“学び”イベント「汐留サマースクール」で、宇宙をテーマにしたブースや、宇宙飛行士をゲストに迎えてのステージ展開などを予定する。
また、ロケットや宇宙船を打ち上げ、将来的には宇宙旅行の拠点としても期待される「宇宙港(スペースポート)」の候補地に名乗りを上げる日本各地の地域とタッグを組み、IP開発や教育コンテンツの提供などを想定している。
持続可能な未来への貢献を目指す企業に投資を行う日テレの「サステナブル投資」においては、宇宙ベンチャー企業も検討対象になると考える。「宇宙産業には、宇宙空間で何かをするということだけでなく、地球上の資源や環境課題、生活の質向上などの課題解決に取り組む企業さんがたくさんあるので、我々とシナジーが生まれる会社さんへの投資を検討したり、一緒に事業を作っていくこともやっていきたいと思います」と構想を述べた。
■宇宙業界との“橋渡し役”に
こうした事業を進めるため、宇宙に関連する様々なコンソーシアムに加盟。宇宙港の開設を目的とする一般社団法人「Space Port Japan(スペースポートジャパン)」、北海道大樹町で整備を目指す宇宙港・北海道スペースポートを応援する「HOSPOサポーター」、そして東京・日本橋を舞台に宇宙産業のオープンイノベーションを推進する一般社団法人「クロス・ユー」に参加し、様々な企業・団体とコンタクトすることで、共創活動を行っていく。
日テレが株主であるスカパーJSATも、通信衛星を中心に宇宙事業を手がけ、様々な技術開発を行っており、「かなり画期的な研究をされているので、連携の可能性もあると思います」とした。
コンソーシアムに加盟するいわゆる“宇宙業界”は、一般の人との接点が課題とも言え、その“橋渡し役”を担うのが、日テレとしての大きな役割になる。
「すごく高度なことをやられているので、一般の方に向けて我々がうまく“翻訳”をして、分かりやすく伝えたり、より良い体験をしてもらうというところが、日本テレビグループのできることではないかと思います。打ち上げ中継のオンライン配信やSNSでのPRもそうですし、これまで培ってきた“難しいことも面白くわかりやすく伝える力”を生かしながら、一般の方にアプローチできるソリューションを、宇宙業界の方に提供するというのが、まず我々が直近で頑張れるところだと思っています」
すでに、「Space Port Japan」のオフィシャルムービーをグループ会社が手がけており、コンソーシアムの活動の中で、「宇宙業界の方に、日本テレビが宇宙の領域に関心を持っているという認知が、ちょっとずつ広がっていると思います。こうして部署を立ち上げて名刺交換をすると、やはりすごく驚かれますし、『一緒にやっていきたい』というお声がけもたくさん頂けているので、それを1つ1つ形にしていきたいですね」と手応えを語る。
■月面生中継やロケも「10年以内にはかなり可能になってくる」
今後の展開については、「個別の番組で宇宙について取り上げたいというニーズがあるので、そこで我々が宇宙業界との“ハブ”になっていくというのもあると思いますが、やはりいつか宇宙をテーマにした新しい番組ができればいいなとは思っています。賛同していただける企業さんを集めたり、いろいろハードルはあると思いますが、ぜひ考えていきたいですね」と意欲。
さらに、将来的には「宇宙からの映像の伝え方とかコミュニケーションの仕方というのは、技術的な課題がいっぱいあるのですが、そこの解決に我々も入って、“感動体験のイノベーション”を起こしていきたいですね。月面からの生中継とか、ロケとか、10年以内にはかなり可能になってくるのではないかと思います」と、35年前のチョモランマでの成功からの進化にも意気込みを示す。
その実現に向けて、「この宇宙の領域は本当に時間をかけないと結果が出ないビジネス領域だと思うので、特に若手社員を中心に粘り強くチャレンジしていきたいと思います。私の世代が日本テレビを卒業してさらに10年くらい経ったタイミングで、宇宙事業ですごく大きな新しいコンテンツ領域が育っていて、それが日本の宇宙産業にきちんと貢献できている状況が生まれているというのが理想ですね」と思いを馳せた。
●加藤友規
1975年生まれ、愛知県出身。東京大学大学院工学系研究科卒業後、00年に日本テレビ放送網入社。技術開発部門、ネット事業部門などを経て、14年にテクノロジー×エンターテインメントの未来を探求する「SENSORS」を立ち上げた。現職は、日本テレビホールディングス経営戦略局R&Dラボ担当副部長兼日本テレビ放送網社長室サステナビリティ推進事務局兼宇宙ビジネス事務局。