是枝裕和監督が19日、都内で行われた映画『怪物』(公開中)の大ヒット御礼舞台挨拶に登壇。同作の音楽を担当し、今年3月28日に亡くなった坂本龍一さんへの思いを明かした。

  • 映画『怪物』の大ヒット御礼舞台挨拶に出席した是枝裕和監督

同作は是枝監督と脚本家・坂元裕二氏によるオリジナル作で、第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞、クィア・パルム賞を受賞した。大きな湖のある郊外の町に存在する、息子を愛するシングルマザー(安藤サクラ)、生徒思いの学校教師(永山瑛太)、そして無邪気な子供たち(黒川想矢、柊木陽太)。そこで起こったのはよくある子供同士のケンカに見えたが、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した。

この日のイベントには是枝監督のほか、主演を務めた安藤サクラと永山瑛太が参加。観客動員数100万人を目前に控えている同作だが、その反響について是枝監督は、「周りに若い監督たちが仲間として同じ空間にいるんですが……」と切り出す。続けて、「彼らから、“いつもよりも演出に迷いがない”“編集のキレがいい”“もう自分で脚本書かない方がいいんじゃないか”という温かいメッセージを頂いております」と周囲の正直な感想を明かし、笑いを誘った。

これに安藤が「それを聞くとどんな気持ちになるんですか?」と反応すると、是枝監督は「悔しい気持ちもなくはない」と吐露。その一方で、「『坂元さんと一緒にやったことを自分で吸収して、次は無駄のない脚本を書こう』という気持ちになってます」と前向きにも捉え、次回作への糧としても受けとめている。

また、印象的なシーンについてトークが展開すると、安藤と永山が互いの身体表現を賞賛し合う。是枝監督も「役者さんは究極的に言うと、運動神経だと思います」と持論を明かし、「それはスポーツができるとかではなくて、体をコントロールしていく能力が高い役者さんが優れた役者だと思うと、この2人はとてもそれが優れているから、演出をしていて楽です」と、安藤と永山の秀でた部分を解説した。

念願叶ってタッグを組んだ坂本さんについて聞かれると、是枝監督は「う~ん、これがいちばん言葉にしづらい」と言いよどむ。「全部の音楽をお願いできたわけではないですが、一緒に同じスタッフロールの中に名前があるというのは本当に嬉しく思っています」と感慨深げな表情を浮かべた。

脚本を書きながら使用する音楽を想像することで知られる是枝監督。ロケハンのときから音楽は坂本さんにお願いすると決めていたそうで、「脚本をもらって、コンテを書いているときには坂本さんの音楽をかけていましたし、自分の中で一体化してしまったもんですから、そこから離れるのは難しかった」と強いこだわりで坂本さんへオファーをしたことを振り返る。そして、「本当に断られなくてよかった。ちょっと無理をさせたんじゃないか……という気持ちはありますが、引き受けていただいて感謝しています」と坂本さんへの思いを語っていた。