西武鉄道は、「西武・電車フェスタ 2023 in 武蔵丘車両検修場」を6月3日に開催した。昨年に続いて「西武線アプリ」等による完全事前申込制(入場無料)での開催となったが、2年ぶりとなる保守用車両の展示や、3年ぶりに復活したステージイベントなど、充実の内容だった。
■ツアー列車を運行、2000系2069編成は満席
「西武・電車フェスタ」の開催に合わせ、電車に乗車したままイベントに入場できる2種類のツアーが行われた。開場して間もない11時10分頃、「2069Fで行く! 西武・電車フェスタ直通ツアー」として運行された2000系2069編成「西武鉄道創立110周年記念トレイン」が武蔵丘車両検修場に入場。このツアーは年齢問わず最大188名を募集し、新所沢駅から出発。普段は池袋線を走る2069編成が、新所沢駅から所沢駅まで新宿線を走行する珍しい行程となった。
もうひとつのツアーは「特急レッドアローで行く! 親子で西武・電車フェスタ直通ツアー」。新宿線の特急「小江戸」で活躍する10000系「ニューレッドアロー」が池袋線を走行するほか、普段あまり特急車両が入線しない豊島園駅を出発地としており、こちらも珍しい経路だった。親子限定で最大96組・387名を募集し、一般入場開始前に武蔵丘車両検修場へ入場。いち早くイベントを体験できる内容となっていた。
どちらのツアーもイベント終了前に武蔵丘車両検修場を出発するため、各体験コーナーで優先的に案内を受けることもできた。西武鉄道によれば、2069編成のツアーは満席、10000系「ニューレッドアロー」のツアーは61組166名が参加したとのことだった。
■検修・保線作業の一部を実演、マルタイや塗装ブース展示も
「西武・電車フェスタ」では、今年も同社最大の車両検修施設ならではの作業実演が行われた。まずは軌陸車の動作実演。軌陸車は通常のトラックに軌道走行用の鉄輪を装備し、保線員による架線の点検および交換時に使用される。実演開始時はタイヤで接地していたが、車体をジャッキアップさせて鉄輪を降ろし、鉄道用の線路に載った。
軌陸車はそのまま屋内の展示スペースへバックした後、保線員が乗る台を持ち上げ、旋回させる様子のデモンストレーションが行われた。実際の作業時は足場付きの軌陸車を後ろに、クレーン付きの軌陸車を前に連結させ、新品の電車線(トロリー線)を巻いたドラムをクレーンで持ち上げつつ、架線の作業を行うという。ちなみに、クレーン付きの軌陸車は新型になったとのことだった。
続いて走行装置検修作業の実演のリレーが行われた。最初に古い車輪から車軸を抜き取る作業を実演。輪軸着脱装置を使用し、車輪と車軸を分離させる。クレーンで運ばれてきた車輪が固定されると、油を出すホースが取り付けられる。水準器とジャッキを使い、車軸を水平にした上で、ホースで車輪の内側から油圧を加えると、車軸が徐々にずれていった。最後にクレーンで車輪を持ち上げ、車軸を抜き取る作業が完了した。
実際の作業時は、車両の次回入場時、既定の厚み以下となった車輪を軸から抜き取り、交換を行う。整備を終えた車軸と新品車輪を取り付ける作業もここで行われる。既定の厚みを維持していた車輪は、旋盤装置で削り、整えているという。
車輪に台車を被せる作業の実演も。30000系で使用されるボルスタレス台車を例に行われた。完成した台車枠を昇降装置に載った車輪までクレーンで運び、注意深く位置を調整しながら結合して、各部品をボルトで固定。その後は昇降装置を上げ下げしつつ、部品の取付けやボルトの締付けも行った。大型のボルトを固定する際に大きな音が発生したが、そうした中でも聞こえるように、どの作業員も大きく声をかけ合って作業を進めていた。
作業の行われた台車が隣の回転機エリアに手押しで運ばれ、最後にモーター(主電動機)取付け作業の実演。台車1つにつき2つのモーターが取り付けられるので、1つずつ順番にクレーンで運び、車輪の間という限られた位置に取り付ける。正常にモーターが収まったら、その上下をボルトで固定。ハンマーで取り付け部を叩き、ボルトの締め付けを確認するとともに、折り曲げ座金をボルトに密着させ、走行時のボルトの緩みを防止する。
作業の都合上、イベント向けに実演されたのはここまでだが、このあとモーターと輪軸をつなぐ作業(WNカップリングの取付け)や各部点検を行い、問題がなければ車体と結合し、検査業務を経て営業線に復帰するという。
車両・機器類の展示も行われ、マルチプルタイタンパーをはじめ、仮台車に交換された状態の6000系と30000系、5000系「レッドアロー」のモックアップなどが展示された。701系や5000系「レッドアロー」で使用されていたコンプレッサー「AK-3」の稼働実演も。各車両の前に記念撮影用のスペースが設けられ、スタッフが撮影に応じていた。
新たに導入したばかりでまだ使用開始していない塗装・乾燥ブースも、一般来場者に初公開された。このブースは7月から使用開始予定。塗料の成分にもよるが、使用開始後は一般向けに公開することが難しくなるため、見学できるのは今回限りとのことだった。
検修場内の各所に体験コーナーも用意され、こどもたちを中心ににぎわった。好評を博しているトラバーサー乗車体験は今年も実施。手すりにつかまりながら、トラバーサー上からの光景を眺め、動画を撮影する来場者が多く見られた。今回はステージイベントが復活したことで、トラバーサーの移動範囲が狭まったものの、それでも長蛇の待機列が形成されるほどの盛況だった。
その他、車輪転がし体験、パンタグラフ操作体験、こども向け制服撮影コーナーなども設けられた。取材した家族に感想を聞いたところ、車輪転がし体験は「意外と軽く感じた」、パンタグラフ操作体験は「面白かった」との答えが返ってきた。会場まで「ラビュー」に乗って来たという家族もいて、鉄道系イベントでは初めて体験する制服撮影を楽しんでいた様子だった。
101系の主制御器操作体験や、非常通報装置操作体験なども実施。検修場の屋外でミニ電車の2000系が走行し、こどもたちを中心に約600名が乗車したという。鉄道各社の物販や事前申込み限定の鉄道部品販売をはじめ、久しぶりにキッチンカーも出店していた。
■トラバーサー上でステージイベント、アナウンス生披露や鉄道ものまねも
今回、とくに大きく話題になったと思われるイベントが、トラバーサー1台をステージにした、ステージイベントの3年ぶりの復活。「女子鉄アナウンサー」久野知美さんと杉浦哲郎さん(スギテツ)によるトークライブや、タレントの立川真司さんによるものまねライブが行われた。
久野知美さんは、西武鉄道の「ラビュー」と「52席の至福」で車内アナウンスを担当している。杉浦さんはピアノとヴァイオリンによる音楽デュオ「スギテツ」のピアノ担当で、西武沿線ともゆかりがある。「スギテツ」はJR東海の特急車両HC85系で使用される車内メロディ「アルプスの牧場」の演奏・アレンジを手がけた。
トークライブでは、杉浦さんによる鉄道メロディのピアノ演奏に合わせ、久野さんがアナウンスを生披露。「ラビュー」と「52席の至福」のアナウンスを披露した際、両列車のアナウンスの細かな違いや、技術面に関する解説を行う場面もあった。「スタジオツアー東京」の開業に合わせ、英国風にリニューアルされた池袋駅と豊島園駅にも触れつつ、豊島園駅付近に住んだことのある杉浦さんが当時を振り返った。
杉浦さんからは、2月に高山本線で運行された「スギテツスペシャルコンサート in 特急スギテツ♪ひだ号・高山」(主催 : JR東海ツアーズ)に関する話もあった。HC85系はバリアフリースペースに加え、電源コンセントも設置しているため、「コンサートをやりやすい」と杉浦さん。「ラビューでもできるんじゃないか」と期待を寄せ、久野さんも「じゃあ生でアナウンスやりましょう」と話を弾ませた。
トークライブの締めくくりに、杉浦さんが西武池袋線・西武秩父線のご当地駅メロディのメドレーを演奏。同時進行で久野さんがご当地駅メロディの解説を行った。演奏を終えると、客席から「ブラボー!」(「スギテツ」が自身のコンサートで広めているかけ声)の歓声が響いた。
続いて立川真司さんのものまねライブ。立川さんは『電車でGO!』シリーズで車掌アナウンスを担当した実績があり、現在も鉄道を中心としたものまねパフォーマンスを行っている。西武狭山線や東海道新幹線、貨物列車通過をはじめ、各種放送、指差喚呼、車掌アナウンス、列車の走行音や警笛など、多彩な音をものまねで再現。鉄道だけでなく、道路交通情報や航空機・プロペラ機のものまねも披露した。
立川さんのものまねはパワフルで、ジョイント音や新幹線・蒸気機関車の音はとくに迫力がある。接近放送から駅員アナウンス、警笛を鳴らして列車の入線(または通過)と、たたみかけるようにさまざまな音を表現しつつ、合間にトークも挟み、笑いと拍手を誘う。
「ラビュー」のものまねの途中、なんと現役の「ラビュー」運転士がゲストで登場。立川さんによる「ラビュー」走行音ものまねに合わせ、運転士が指差喚呼を披露し、加えて警笛の音も運転士がものまねするという珍しい場面が見られた。現役運転士の喚呼と、リアルかつ笑いも詰まったものまねのコラボに、会場から大きな拍手が起こった。
「西武・電車フェスタ」の開催当日に限り、飯能~高麗間で臨時列車が運行され、飯能駅南口から無料送迎バスも運行。帰りの列車内でも、興奮冷めやらぬこどもたちのにぎやかな声が聞こえた。前夜の大雨から天気が回復し、午後から完全に晴れた中で開催された今年の「西武・電車フェスタ」。ステージイベントが復活したこともあってか、昨年以上に盛り上がっていたように感じられた。