西武鉄道は、同社創業110周年と鉄道開業150周年を記念し、「西武・電車フェスタ 2022 in 武蔵丘車両検修場」を6月4日に開催した。完全事前申込制で最大入場者数を約3,000名に制限するなど、新型コロナウイルス感染症対策を徹底しての開催となった。

  • 「西武・電車フェスタ2022」開催。6000系が記念ヘッドマークを掲げて入線

当日の開場時間は12時30分から15時(最終入場は14時)まで。途中、6000系6001編成を使用したツアー列車が、参加者たちを乗せたまま武蔵丘車両検修場へ入線する場面も見られた。

「西武・電車フェスタ」は、西武鉄道の利用者や沿線住民らに向けて、電車に親しみ、事業への理解を深めてもらうことを目的に開催されている。埼玉県日高市にある武蔵丘車両検修場は、同社最大の車両検修施設であり、最も大がかりで詳細な検査を行う。今回のイベントでは、一般利用者が普段見ることのできない検査風景の実演や機器類の展示、物販など実施した。

検査の実演として、まずはトラバーサーでの車両入替作業を見学。シャッターの中から10000系「ニューレッドアロー」の中間車両が現れ、牽引車によってトラバーサーに載せられた。その後、クラクション(警笛)を合図にトラバーサーがゆっくり動き始める。周囲に多くの参加者たちが集まり、迫力あるシーンに圧倒されつつ、トラバーサーが横に移動して10000系中間車両が運ばれる様子を見守った。所定の位置まで移動すると、10000系中間車両が牽引車に引っ張られ、トラバーサーから離れていく。このようにして、最初の線路から所定の位置までの移動を1往復実演した。

車両入替実演の時間外にトラバーサー乗車体験も行われた。一度に多くの参加者がトラバーサーに乗り、スタッフの解説に合わせてトラバーサーが移動する。安全のため手すりにつかまりつつ、水平方向に通路が近づいたり離れたりする様子に集中するこどもたちの姿も見られた。

  • 10000系「ニューレッドアロー」の中間車両がトラバーサーに

  • 参加者たちが見守る中、ゆっくりと横に移動していく

  • 車両入替実演の時間外にトラバーサーの乗車体験を実施。こちらも人気だった

続いて車輪に台車を被せる作業を見学。20000系で使用されるボルスタレス台車を例に、作業の実演が行われた。クレーンで台車枠を吊り上げ、車輪のもとまで移動させ、慎重に位置を調節しながら台車と車輪(輪軸)を組み合わせる。解説を担当するスタッフが「ぴったりと収まったようです」とアナウンスすると、参加者たちから拍手が起こった。

その後、歯車箱吊りボルト(輪軸に取り付けられている、歯車の入っている箱を支える部品)を仮留め。それぞれの部品は非常に重いため、2人1組で作業を行う。取付けが終わると、台車昇降装置を使って台車の位置を1m上げ、床面を下げて作業スペースを確保し、軸受支えやブレーキ装置、牽引装置を取り付けた。それぞれ取付け用のボルトを用意し、所定の強さまで固く締め込む。

最後に台車の高さを戻し、仮留めした歯車箱吊りボルトを固く締める。床下の作業員がスパナでナットを抑え、台車横の作業員がボルトを固定。かなり大きめの音が響く作業だったが、ボルトを固定する作業員とナットを抑える作業員の連携により、台車が完成。実演の全工程が終わると、改めて参加者たちから拍手が起きた。

  • 台車枠を慎重に下げ、輪軸に組み合わせる

  • 台車を高く、床面を低くし、部品を取り付けていく

  • 台車横の作業員と台車下の作業員で連携を取り、ボルトを固定する

車両の展示も行われ、10000系「ニューレッドアロー」と20000系が2両ずつ展示された。いずれも2両中1両にイベント向けの装飾を行い、スカートにカバーを被せて色を変更していた。10000系は「西武 旅するレストラン 52席の至福」で配色されるシャンパンゴールド、20000系はピンク色のカバーでスカートの色を変更。家族連れが多く集まる中、展示車両の近くにいたスタッフが記念撮影に対応する場面も見られた。

  • 10000系「ニューレッドアロー」。ヘッドマークは「小さな旅」と表示

  • 「NRA」の装飾が印象的な車体側面

  • 20000系。20103号はスカートの色がカバーで変更された

  • 40000系の模型と、40000系・5000系「レッドアロー」のモックアップ

  • 車輪の回転試験や、コンプレッサーの稼働実演も行われた

その他にも、車輪の回転試験をはじめ、701系や5000系「レッドアロー」で使用されたというコンプレッサー「AK-3」の稼働実演など行われた。いずれも普段の鉄道利用では見ることのできないもので、解説とともに詳しく紹介された。とくに「AK-3」コンプレッサーの実演は、現代の車両で聴くことができない特徴的な音に思わず足を止め、じっくり観察する参加者も多かった。

年代・車両別の主電動機・主制御器や、山口線8500系の台車など、普段の乗車では見る機会の少ない機器類の展示も多数実施。一般営業では公開されることのない機器類の内部をはじめ、その中に設置された部品の外観や名称なども細かく分けて紹介されていた。どの車両に搭載された機器かについても解説しており、車両の外観・内装だけでなく、一般利用者からは気づきにくい部分も時代とともに進化していることがわかる。

  • 案内軌条で運転される山口線8500系の台車・案内輪

  • 10000系「ニューレッドアロー」の台車も展示

  • 主制御器などの内部も詳細に展示された

イベント当日、1992(平成4)年のデビューから30年を迎えた6000系による2種類のツアー列車も運行された。「西武新宿発! 6058編成で行く親子で西武・電車フェスタ一番乗りツアー」は、小学生以下の子とその保護者(最大66組・264名)を募り、普段は池袋線で活躍する6058編成が新宿線を走行し、武蔵丘車両検修場に先行入場するツアー。一般開場より前の10時30分頃、武蔵丘車両検修場に到着し、12時頃に6058編成は会場を後にした。

「池袋発! 6001編成で行く西武・電車フェスタ直通ツアー」は、最大208名を募集し、普段は池袋線を走行しない6001編成が池袋駅から走った。参加者たちは列車に乗車したまま、武蔵丘車両検修場へ入場する。

14時34分頃、6000系6001編成のツアー列車が武蔵丘車両検修場に入線。ゆっくりと姿を現し、検修庫前で一時停止した後、徐行しながら入庫した。14時37分頃に列車が停車し、ツアー参加者たちが降りてきた。入線の30分ほど前から、撮影スペースに多くの一般参加者たちが集まり、6001編成の入線時は非常に多くの人でにぎわっていた。

6001編成の車内から手を振る人も見られ、そのたびにスタッフらも手を振り返して歓迎した。なお、6001編成の前面に、6000系のデビュー30周年を記念したヘッドマークを掲出。ツアー終了後も、6001編成に記念ヘッドマークが当面掲出される予定となっている。

今回のイベントでは、一般参加者の入場時間は15時までだったが、6001編成のツアー参加者のみ、15時以降も会場に滞在できた。ツアー列車は15時53分頃、池袋方面に向けて発車し、検修場を後に。西武鉄道によれば、6001編成のツアーは満席だったという。6058編成のツアーは満席にならなかったものの、多くの参加者が集まったとのことだった。

  • 30周年記念ヘッドマークを掲出した6000系6001編成のツアー列車が武蔵丘車両検修場に入線。一般来場者とスタッフらの両方にあたたかく迎えられた

「西武・電車フェスタ」では、他にもこども向けの企画として、制服撮影会とミニ電車運転が行われた。制服撮影会では、運転士・車掌・駅係員の制服をこどもたちに貸し出して記念撮影。ミニ電車運転では、新2000系のミニ電車を先頭に、人がまたがって乗ることのできる車両を2両連結。屋外に設けられたブース内を1周した。

物販には西武鉄道をはじめ、近江鉄道、伊豆箱根鉄道、西武バス、関東各地の鉄道事業者など計15社が出展。西武鉄道は会場限定デザインの記念乗車券を含む6000系デビュー30周年記念グッズを販売したほか、鉄道部品販売(事前申込者限定)も実施した。物販とは別に、「西武鉄道創立110周年」「鉄道開業150周年」の記念企画として、来場した参加者全員に記念ステッカーのプレゼントも。「西武線アプリ」のアンケートも会場内で行われ、回答した人に特急券券売機のペーパークラフトがプレゼントされた。

イベント参加者を対象に、「SEIBU Smile Point」10,000ポイント山分けキャンペーンも実施。会場内のバーコードリーダーで「SEIBU PRINCE CLUB カード」の番号を読み込むことで、1人40ポイントを上限に、10,000ポイントを山分けした「SEIBU Smile Point」が進呈される。イベント終了後1週間以内に加算されるという。

  • 新2000系のミニ電車でブース内を1周

  • 制服・制帽を着用し、40000系を背景に記念撮影

  • イベント時間に合わせ、101系が飯能~高麗間の臨時列車に

当日はイベント参加者の利便性向上と混雑緩和のため、飯能~高麗間で101系を使用した臨時列車を運行。飯能駅南口からも、武蔵丘車両検修場に向かう無料送迎バスが15分間隔で運行された。筆者は取材の帰り、高麗駅を15時40分に発車する101系(近江鉄道100形「湖風号」カラー)の臨時列車に乗車。飯能駅まで9分という短い時間ではあったが、武蔵丘車両検修場から帰る人たちが多数乗車していた。家族での乗車も多く、イベント終了後も車内はこどもたちの声でにぎやかだった。