日産自動車の新型「セレナ」には、ほかと比べると頭抜けて高価な新しいグレード「ルキシオン」が追加となっている。売れ筋グレード「ハイウェイスターV」に110万円を上乗せしてまでルキシオンを選ぶ理由はあるのか。2台を乗り比べて最上級グレードならではの価値を探った。

  • 日産「セレナ」

    日産「セレナ」の最上級グレード「ルキシオン」を選ぶべき理由とは? 試乗で考える

競合ミニバンと比べると…

日産のミニバン「セレナ」が6代目にフルモデルチェンジした。グレードは「X」「XV」「ハイウェイスターV」「ルキシオン」の4種類。XとXVは5ナンバーサイズ、それ以外は3ナンバーとなる。競合はトヨタ自動車の「ノア/ヴォクシー」やホンダ「ステップワゴン」などだ。

セレナの売れ筋グレードはハイウェイスターVで、今回も受注の8割近くを占める。そのうえで、今回は新たに最上級車種として「ルキシオン」が登場した。車両価格はハイウェイスターVに比べ約110万円も高い479万円強になる。

競合車であるノア/ヴォクシーの最上級車はヴォクシーの「HYBRID S-Z E-Four」で396万円。ステップワゴンの最高価格は「スパーダ プレミアムライン」の391万円強だ。これらと比べても新型セレナのルキシオンがいかに高価格であるかがわかる。

  • トヨタ「ヴォクシー」
  • ホンダ「ステップワゴン」
  • 左がトヨタ「ヴォクシー」、右がホンダ「ステップワゴン」の「スパーダ プレミアムライン」

「ルキシオン」(LUXION)とは質の高さを表す「ラグジュアリー」(luxury」と「神の国」(ZION)を合わせた造語であるという。質の高い車種であるのはもちろん、神がかった技術が融合した最上級車種であることを表しているとのことだ。

静粛性は高級車レベル?

試乗したのは日産が「e-POWER」と呼ぶシリーズハイブリッド車である。ルキシオンはハイブリッド車でしか選べないグレードだ。

「シリーズハイブリッド」とはガソリンエンジンで発電し、その電気を使ってモーターで走るハイブリッド方式を指す。ハイブリッド車(HV)にはほかに「パラレルハイブリッド」という方式もあり、こちらはエンジンとモーターの両方を走りに使う。日産がシリーズハイブリッドを採用し、これをe-POWERと名付けて力を注ぐ理由は、電気自動車(EV)を基にした方式であるからだ。特徴は、HVでありながらEVのような走りや乗車感覚を得られるところにある。ここがパラレルハイブリッドとの違いだ。

e-POWERを最初に採用した先代「ノート」や先代セレナは、まだ発電用エンジンの存在感が残り、EVのような走行感覚というには静粛性の面でやや距離があった。そこから改良が進み、現行ノートから採用が始まった第2世代のe-POWERからは、EVであるかのような走行感覚をより味わえるようになった。静粛性が高まり、発電用エンジンが始動してもそれほど気にならなくなったのだ。

新型セレナも第2世代のe-POWERを採用している。進化の様子は、ハイウェイスターVを運転し始めてすぐに実感することができた。まるでEVのミニバンを運転しているような感覚だ。

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    こちらは新型「セレナ e-POWER」の「ハイウェイスターV」(ボディカラーは利休-リキュウ-/スーパーブラックの2トーン)

ルキシオンではさらに、遮音ガラスをフロントウィンドウに加え前席左右のドアガラスにも採用している。これにより、車外の騒音や走行中の風切り音などが抑えられ、耳に届きにくくなるので高級さが増す。ハイウェイスターVと乗り比べると、ルキシオンの車内の上質さには格上の感触があった。

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  • 新型「セレナ」の内装(写真は「ハイウェイスターV」)

新型セレナのe-POWERは発電用エンジンを作動させるタイミングにも気を配っている。道路状態を読みながら、ロードノイズにエンジン音がまぎれる荒れた路面で発電するような制御が入っているのは現行型ノートと同じだが、世界初のエネルギーマネジメント技術として、カーナビゲーションと連動し、目的地までのルートを踏まえた充放電を行う制御を取り入れているのだ。この新技術により、セレナは目的地付近になると自動的にEV走行をしてくれるようになっている。夜間に自宅へ帰る際など、目的地付近でなるべく静かに走りたいシーンで役に立つ機能だ。

ルキシオンは座席が合成皮革の表皮になる。ハイウェイスターVの座席が織物であるのに対し見栄えがより上質で、着座した際の体への密着具合も快い。ルキシオン専用の座り心地といえそうだ。あわせてドアトリムなどにも合成皮革を使っていて、高級車の雰囲気を高めている。

  • 日産「セレナ」
  • 日産「セレナ」
  • 「ルキシオン」のシートは合成皮革。インテリアカラーは「プレミアム」。新型「セレナ」は8人乗りだがルキシオンは2列目が「キャプテンシート」(写真右)で7人乗りとなる

運転席と助手席の間にひじが乗せられるセンターコンソールボックスがあるのもルキシオンだけだ。これにより、ミニバンというよりもセダンなどの乗用車に乗っている気分になる。ミニバンなので目線は高いが、車内の雰囲気は別物の感覚だ。

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    アームレスト付きセンターコンソールボックスも「ルキシオン」の専用装備

そんなにいいの? プロパイロット2.0

運転に際しては、ルキシオンがミニバンで初めて採用した運転支援技術「プロパイロット2.0」により特別な走行感覚が味わえる。前車追従クルーズコントロール(ACC)のスイッチを入れて設定速度を定めると、間もなくメーター内の照明が青色になり、ハンドルから手を離せるようになる。

  • 日産「セレナ」
  • 日産「セレナ」
  • ミニバン初採用の「プロパイロット2.0」を使っているところ。起動時はメーター表示が緑色(写真左)だが、ハンズオフが可能な状態になる表示が青色(写真右)に変わるミニバン初採用の「プロパイロット2.0」を使っているところ。起動時はメーター表示が緑色(写真左)だが、ハンズオフが可能な状態になると表示が青色(写真右)に変わる

日産は現行型「スカイライン」からプロパイロット2.0の採用を始めた。その後はトヨタ、ホンダ、スバルなどもハンズオフ走行が可能な技術を市場に導入している。

競合他車の技術に比べプロパイロット2.0が優れていると感じるところは、ハンドルから手を離すことを躊躇させない信頼性の高さだ。もちろん、他メーカーの機能も安全に走行するための性能を満たしている。だが、心理的な安心感はプロパイロット2.0が格段に上といえる。

今回の試乗でも、手を離してなんら不安はなかった。前にクルマがいて設定速度から遅くなると、メーターには「追い越しをしますか」との問いかけが表示される。その際にハンドルの右スポーク部にある専用スイッチを押すと、自動で車線変更を行ってくれる。その際はハンドルに手を添えている必要があるが、それでも、車線変更する様子は自分で操作するときと同じ手際のよさで、安心感も高い。追い越しを完了すると「元の車線へ戻りますか」との案内が出て、追い越しのときと同じスイッチを押せば元の車線へ戻っていく。さらに、ナビで目的地を設定してルート案内に従って走行していると、インターチェンジを降りる際の車線変更も同じように提案してくれる。この機能を一度でも利用したら、手放せなくなるのではないか。それほど完成度の高い仕上がりだ。

世界的に、自動運転を見据えた運転支援機能の開発と市場導入、そして普及へ向けた車種展開が行われているが、高額な車種だけでなく、誰もが購入を検討できるミニバンでのプロパイロット2.0の採用は画期的な取り組みといえる。日産が、いかに自動運転の実現へ向け着実に前進しているかを多くの消費者が実感できる。

プロパイロット2.0では「メモリー機能付きプロパイロットパーキング」も使える。自宅の駐車場などをあらかじめ登録しておくと、駐車枠の白線がなくても、周辺の景色とGPS情報により自動駐車ができる。車庫入れが苦手な人はもちろん、苦にしない人であったとしても、同機能を体験すればあまりに楽で病みつきになるのではないか。さらに、リモートコントロール操作でクルマの出し入れができる「プロパイロットリモートパーキング」も新たに採用された。駐車が苦にならなければ、もっとクルマで出かけたくなる。そういうミニバンになるはずだ。

プロパイロット2.0、カーナビ、ヘッドアップディスプレイなどが標準装備となるルキシオンはハイウェイスターVより110万円高いが、機能の充実度などを考えると、得られる価値は余りあるほどといえるだろう。

  • 日産「セレナ」

    ヘッドアップディスプレイも標準装備

予算の都合はあるに違いない。だが、新型セレナの購入を検討するなら、ルキシオンに乗ってから資金の算段をしてみてはどうだろう。それほど魅力あふれるルキシオンであった。

  • 日産「セレナ」
  • 日産「セレナ」
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  • 「ルキシオン」の外観で特別なところとしては、ヘッドライト横のフェンダーフィニッシャーがダークサテン塗装になる(写真左、通常はブラック)。シャークフィンアンテナ(写真中央)もルキシオン専用だ。内装では木目調フィニッシャーがブラックになる