世界中で多くの人に愛され続けるアンデルセン童話・人魚姫。日本でもなじみのあるお話ですが、具体的にどのようなストーリーなのか、どんな結末なのかを知らないという人も少なくないでしょう。

本記事では人魚姫のあらすじを、簡単版と詳細版に分け紹介します。結末や登場人物、教訓や、作者アンデルセンについて解説。本当は怖い話なのかや、映画『リトル・マーメイド』の情報もまとめました。

  • 人魚姫のあらすじとは

    アンデルセン童話・人魚姫のあらすじや教訓、話題のディズニー映画についても紹介します

人魚姫のあらすじを短く紹介

まずは、人魚姫のあらすじを簡単にご紹介します。

人魚姫は6人姉妹の末っ子です。海の底に家族と暮らしており、15歳になるまで海の上の世界を見られないことから、先に海の上を見てきた姉たちの話を聞いては、憧れを募らせていました。

ようやく15歳になった人魚姫は海の上に出て、王子様に出会い一目ぼれをします。そして、人魚姫は海の魔女に頼んで魔法の薬をもらい、人間の姿になるのです。

しかし、人魚姫は魔女との取引で声を失ってしまいます。そのため彼女は人間の姿になったものの、王子様に自分の思いや、かつて自分が溺れた彼を助けたことを伝えられないでいました。その結果、王子様は隣国の王女様との結婚が決まってしまいます。

王子様が自分以外の人と結ばれてしまうと、その翌朝に人魚姫は海の泡になってしまいます。

彼女が海の泡になることを阻止するため、人魚姫の姉たちは「王子をこれで刺すように」とナイフを渡します。しかし人魚姫は王子様を刺すことができず、自ら海に飛び込んだのでした。

人魚姫の登場人物

  • 人魚姫の登場人物

人魚姫の主な登場人物と、概要は以下の通りです。

  • 人魚姫
    主人公。6人姉妹の末っ子の、物静かで考え深い女の子。
    嵐で海に投げ出された王子様を助け、恋心を抱く。

  • 人魚姫の5人の姉たち
    人魚姫の姉たち。15歳になる前の人魚姫に、海の上の世界のすばらしさを教える。
    泡になってしまうとわかった人魚姫を助けようと奔走する。

  • 魔女
    海に住む魔法使いの老婆。
    人魚姫が人間になれる魔法の薬を渡すが、対価としてその声を要求する。

  • 人間の王子
    嵐に遭って沈んだ船から、人魚姫に助けてもらう。

  • 隣国の王女
    王子様の両親が、王子様に勧めた縁談相手。
    海辺に倒れていた王子様を修道院へと運んだ。

人魚姫のあらすじと結末を詳しく解説

  • 人魚姫の詳細なあらすじと結末

ここまで、人魚姫の簡単なあらすじと登場人物を紹介しました。ここからは、人魚姫のあらすじと結末を、より詳しくお伝えします。

人魚姫と王子の出会い

深い海の底に、妻を亡くした人魚の王様とその母、そして6人の娘たちが住んでいました。

王様の母、つまりおばあさんは、6人の孫娘たちに、15歳になったら海の上の世界を見てきてもいいと伝えます。6人姉妹の末っ子である人魚姫は、先に海の上を見てきた姉たちから聞くその世界に、憧れを募らせていきました。そして、ようやく15歳になった人魚姫は、ついに海の上に向かいます。

海面に上がった人魚姫は、船上で誕生日パーティーを楽しむ、若く美しい王子様を見ます。

しかしその船は嵐で大破してしまいます。人魚姫は、海に沈んでいく意識の無い王子様を命がけで助け、修道院の前の入り江に運びました。

そして、修道院の中から出てきた女性が王子様を建物の中に運ぶのを、岩の蔭から見届けた人魚姫は、海へと帰りました。

人魚姫は、美しい声と引き換えに人間に変身する

人魚姫は王子様に恋をしてしまいました。するとおばあさんが、人魚と人間の違いを話します。それは「人魚は300年生きられるけれど、死ぬと海の泡になること」「人間の一生は短いけれど、死ぬことのない魂を持っていて天国に行くこと」「人魚でも、人間に愛され、結婚の誓いをすると魂を分け与えられること」でした。

その話を聞いた人魚姫は、王子様や、不死の魂に思いをはせ、海の魔女の家を訪れます。

海の魔女は、人魚姫の願いをかなえるために、人魚姫の声と引き換えに、人魚の尻尾を人間の足に変える魔法の薬を渡します。しかし魔法の薬には「一度人間になると人魚には戻れない」「王子が他の人と結婚したら、人魚姫は翌朝に海の泡になる」というルールがあります。

そうして、人魚姫は魔女からもらった薬を飲み、人間になりました。

人魚姫と王子

人間になった人魚姫は王子様に見つけられ、共に暮らすようになります。

王子様は人魚姫をとてもかわいがりましたが、それは恋愛感情というよりは、子供をかわいがるような気持ちでした。

さらに王子様は、自分を助けてくれたのが人魚姫であることは知らず、修道院にいた女性が恩人だと思い込み、恋い焦がれていました。

しかし人魚姫は声を失っていたため、自分が王子様を助けたということを伝えることができませんでした。

王子の縁談

王子様は隣国へ、両親が勧める縁談相手と会うために向かいます。そうして出会った隣国の王女様は、かつて王子様が海辺で倒れていたときに、修道院へと運び治療をしてくれた女性でした。彼女は修道院で、立派な王女になるための教育を受けていたのです。

王子様は、かなわないと思っていた恋が、このような偶然で実ったことに大喜びしました。そうして、二人は結婚します。

死を覚悟した人魚姫のもとに、姉たちがやって来ました。王子様の縁談の話を知った姉たちは、自分の髪と引き換えに海の魔女からナイフを受け取って、人魚姫に届けに来たのです。日が昇る前に、そのナイフで王子様の心臓を刺して返り血を浴びれば、人魚に戻れるということでした。

人魚姫の最期

人魚姫は、姉たちから受け取ったナイフを持って、眠っている王子様のところに行きます。しかし、どうしても刺すことはできませんでした。

人魚姫はナイフを海に投げ捨て、自らも海へと飛び込みます。

すると朝日が昇り、人魚姫の体は泡になり、そして空気の精になりました。空気の精の仲間たちによると、人魚姫は真心を尽くして努力していたので、空気の精になったのだと言うことです。

人魚には死ぬことのない魂が無く、天国へと行くことはできません。しかし空気の精として善い行いを続けることで、神様から魂を授かり、天国へ行けるのです。

人魚姫は王子様と花嫁を祝福し、空気の精の仲間と共に、人々に幸せを届ける旅に出ました。

人魚姫から読み取れる教訓

  • 人魚姫から読み取れる教訓

一人の男性を思い、声を捨てて激痛に耐えてまで人魚から人間になった人魚姫。最後まで王子様の愛を貫き通し、自らの命を投げ出しました。

切なくはかないこのストーリーからは、以下のような教訓が得られるでしょう。

何も犠牲にせずに、何かを手に入れることはできない

人魚姫は、人魚であることや自分の声を犠牲にして、人間の姿になりました。

それは、今まで生きてきた環境や、家族との暮らし、楽しみや自信の一部をも捨てるということです。

犠牲や恐怖を乗り越えてこそ、何かを得たり、新しいことにチャレンジしたりすることができるという学びがあります。

献身の心

人魚姫は王子様のもとへ行くために人間になったものの、最終的には王子様の幸せのために身を引き、自らの命を投げ出します。

そうして空気の精となった人魚姫は、王子様の妻となった王女様の額にそっとキスをして、心から祝福しています。

また人魚姫の姉たちも、妹のために、自らの大切な髪の毛を根元から切って魔女に差し出しました。

人魚姫のストーリーからは、相手を思いわが身を犠牲にする、献身性を感じられることでしょう。

原作の人魚姫の基本情報(作者アンデルセンや、国・時代設定)

  • 原作の人魚姫の基本情報・背景

人魚姫の作者は、1805年、デンマークの貧しい靴職人の子として生まれたハンス・クリスチャン・アンデルセン。人魚姫の発表は1837年です。

アンデルセンは30歳くらいから約40年間にわたって、150以上の童話や物語を発表しており、これらはアンデルセン童話として親しまれています。

人魚姫もアンデルセン童話の一つで、その他にも、みにくいアヒルの子、マッチ売りの少女、裸の王様などが有名です。

アンデルセン童話には、民話や史実などを基とした作品の他、アンデルセン自身の経験がヒントとなっている作品も多いです。

人魚という生き物が存在するという伝説は世界中にありますが、人魚姫のストーリーについては、アンデルセンの度重なる失恋が影響を与えているとされています。

このアンデルセン童話・人魚姫は、後ほど紹介するように数々の作品の原作となります。

しかし原作において、登場人物の名前や、王子・王子の縁談相手の暮らす国の名前は記載されておらず、時代設定も明らかにはなっていません。かろうじて、王子の暮らす国は海の近くにあったということが、ストーリーから想像できます。

謎が多い人魚姫ではありますが、国や時代の設定があいまいであるからこそ、世界中の人たちが、自分の身近で起きたことのように捉えて感情移入することができ、人気を博しているのかもしれません。

人魚姫は絵本化や舞台化され、映画『リトル・マーメイド』も公開

  • アンデルセン童話・人魚姫を原作とした舞台や映画も

アンデルセンによる発表から180年以上が経過した今でも、世界中の人に愛され続けている人魚姫。

そしてこの人魚姫を原作として、新たに数々の作品が生まれました。

さまざまな出版社から絵本として発売されたり、歌のモチーフになったりしています。

1989年には、ディズニーの長編アニメーション映画『リトル・マーメイド』が制作されました。

また舞台としては、ディズニーミュージカル『リトルマーメイド』が、2013年4月、劇団四季により日本で初演を迎えました。

さらに、2023年6月9日には、ディズニーによる実写映画『リトル・マーメイド』が公開。

この実写映画は、全米では5月26日から公開され、公開2週目での興行収入は約1億8,600万ドル(日本円で約260億円)を記録し、名作『アラジン』を超えるスタートを切っています。

このように、人魚姫は原作の発表以降もさまざまな形で語り継がれており、多くの人々がそのストーリーに心を打たれています。

人魚姫は実は怖い話?

  • 本当は怖い人魚姫

王子様を愛する気持ちから、人魚であることや声を失ってまでも人間になり、最後まで王子様への愛を貫き通した人魚姫。切なくはかないストーリーの人魚姫ですが、実は人魚姫は「怖い話」とも言われています。

例えば王子様に一目ぼれをした人魚姫は、王子様の住んでいるお城の場所がわかると、何度も何度もお城まで行っては、王子様を眺めます。王子様への強い思い故とも感じられますが、見方によってはストーカーと思えてしまうような行動です。

また絵本などでは省略されることが多いですが、原作において、人魚姫は魔女からもらった薬を飲んで声を失う際に、魔女に舌を切られているのです。

舌を切り取るという描写の残酷性に加えて、会話もしたことのない、よく知らない人のために体の一部を差し出す人魚姫に対して、怖いと感じる人がいるのも分かります。

また、人間の足を得た人魚姫ですが、歩く度にナイフの上を踏んでいるような激痛が走るという描写があります。ナイフというキーワードの恐ろしさに加え、激痛に耐え、自分を捨ててまで王子様への愛を貫き通す人魚姫は、執着的だと捉えてしまう人もいるようです。

このように、はかなく美しいストーリーで知られる人魚姫ですが、捉え方によっては怖いと感じる人もいるでしょう。

アンデルセン童話・人魚姫は、悲しい純愛の物語

人魚姫は、原作の発表から長い年月が経過した現在でも、世界中の人に愛され続ける名作です。

一途な気持ちを貫いた、切なく悲しい純愛の物語は、これからも多くの人々の心に残り、語り継がれていくことでしょう。そしてそのストーリーには、さまざまな学びが込められています。

原作を読んだことがある方も、読んだことがない方も、これを機に改めて人魚姫を読んでみてはいかがでしょうか。