絵本や童謡でおなじみの浦島太郎。最後は玉手箱を開いて…それから? 原作とされる「御伽草子」には、浦島太郎と乙姫のその後が記されています。また浦島太郎とよく似た話は、世界中に伝わっていました。森鷗外をはじめとした文豪も、浦島太郎を題材にしています。

知っているようで知らない浦島太郎を、あらすじとともに紹介します。

  • おなじみの昔話である浦島太郎のあらすじを紹介します

    おなじみの昔話である浦島太郎のあらすじを紹介します

浦島太郎の短い簡単なあらすじ

多くの人が聞いたことのある浦島太郎ですが、改めてその内容を確認していきましょう。まずは、短くコンパクトにまとめたあらすじです。

地域などによって細かい違いはありますが、ここでは一般的なあらすじをまとめました。

浦島太郎はいじめられている亀を助けたところ、お礼に竜宮城に連れて行かれます。竜宮城では美しい乙姫にもてなされ、豪華なごちそうや音楽とともに楽しい日々を過ごします。

しばらくたって母親のことが心配になった浦島太郎が家に帰ろうとすると、乙姫から「決して開けてはいけない」と玉手箱を渡されました。

浦島太郎が自分の村に戻ると、地上では長い長い年月が過ぎていたことを知ります。そして浦島太郎は玉手箱を開けてしまい、おじいさんになってしまいました。

日本昔話・浦島太郎の登場人物・キャラクター

主な登場人物、キャラクターは以下の通りです。

浦島太郎

貧しけれど心優しい、漁師の青年です。浜辺で子どもたちにいじめられている亀を助けてあげたことから、竜宮城へ招待されます。

竜宮城に住んでいる亀です。浜辺に上がったところを子どもたちにつかまってしまいましたが、浦島太郎に助けられました。そのお礼に、浦島太郎を背中に乗せて竜宮城まで案内します。

乙姫

竜宮城のお姫様です。浦島太郎を歓迎し、しばらくともに暮らします。そして浦島太郎が地上へ戻るときには、玉手箱を渡します。

浦島太郎の詳細なあらすじ

次に、詳細のあらすじを見ていきましょう。

昔、海の近くに浦島太郎という若い漁師が住んでいました。浦島太郎は貧乏でしたが心の優しい青年で、年老いた母親と暮らしています。

ある日、いつものように浦島太郎が漁をするために浜辺へ向かうと、子どもたちが集まっています。近寄ってよく見ると、子どもたちは亀をいじめているのでした。

かわいそうに思った浦島太郎は、子どもたちを𠮟って亀を逃がしてやりました。

それからしばらくして、漁をしていた浦島太郎のもとに亀が戻ってきました。亀は、助けてくれたお礼がしたいと言います。言われるままに亀の背中にまたがった浦島太郎は、そのまま海中を進んでいきました。

不思議なことに、海の中でも息ができます。亀と浦島太郎は、どんどん海の底へ潜っていきます。そこには、浦島太郎が今まで見たこともないほど立派なお城がありました。

そのお城、竜宮城では、美しい乙姫が浦島太郎を出迎えてくれました。魚たちの音楽や舞、数々のごちそうでもてなされた浦島太郎は、竜宮城で楽しい日々を過ごします。

そうしてしばらくたったころ、浦島太郎はふと、陸に残して来た母親が心配になりました。家へ帰る決意をした浦島太郎を引き留める乙姫。しかし気持ちが変わらないのを見て、「決して開けてはいけない」と言ってお土産に玉手箱を手渡します。

こうして再び亀に乗って陸へと戻った浦島太郎は、そこではとてつもなく長い年月が流れていたことを知るのです。自分の家も無くなっていました。絶望し寂しく思った浦島太郎は、玉手箱を開けてしまいます。

すると玉手箱からは煙が立ち上ります。その煙を浴びた浦島太郎は見る見るうちに老いて、白髪のおじいさんになってしまったのでした。

原作といわれる「御伽草子」における浦島太郎

  • 「御伽草子」における浦島太郎にはまた違った魅力があります

    「御伽草子」における浦島太郎にはまた違った魅力があります

浦島太郎の物語について、古くは『日本書紀』や『万葉集』、『丹後国風土記』にも「浦島子(うらしまのこ)」にまつわる話がありました。それが変化して現在の話により近くなり、原作ともいわれているのが「御伽草子(おとぎぞうし)」です。「御伽草子」とは、室町時代から江戸時代にかけて作られた短編物語の総称です。その中の一遍に、浦島太郎の逸話があります。

しかし「御伽草子」に記された浦島太郎は、現代に伝わる話とは特に結末が大きく異なります。浦島太郎の原作はどんな物語なのか、その結末を中心に見ていきましょう。

「御伽草子」に描かれる、浦島太郎の「その後」

もらった箱を開いて中の煙を浴びた浦島太郎は、「御伽草子」では鶴に変身することになっています。鶴になった浦島太郎は蓬莱山へ飛び立ち、そこで亀の姿になった女性と再会して幸せに暮らすのです。

そう、「御伽草子」では乙姫は亀の化身として描かれます。彼女は、浦島太郎が助けた亀が人間の女性に姿を変えたものなのです。

竜宮城も海の中ではなく、異国の城として表現されています。「御伽草子」と現代に伝わる浦島太郎には、ほかにも細部に違いがあります。

「御伽草子」と現代に伝わる浦島太郎の、結末以外の違い

現代に伝わる浦島太郎の物語は、浦島太郎が子どもたちから亀を助けるところから始まります。しかし「御伽草子」には、亀をいじめる子どもたちは出てきません。亀は、浦島太郎が釣り上げてしまうのです。

亀は長生きする生き物であることから、命を奪うのをかわいそうに思った浦島太郎は、その亀を海に帰してやります。すると翌日、美しい女性が小舟に乗って流されているところに遭遇します。浦島太郎は彼女の願いを聞き入れ、故郷の竜宮城まで送っていきます。

そこで2人は夫婦になり、しばらく楽しく暮らすのです。しかし親のことが気になった浦島太郎は、女性から形見の箱を渡され、自分の家へ戻ります。

人間の世界で現実を知った浦島太郎が鶴になって女性と再会するくだりは、ようやく本当に結ばれることができた二人の愛の物語としても読むことができそうです。

浦島太郎から得られる教訓を解説

現代の浦島太郎でも「御伽草子」でも、禁じられたにも関わらず浦島太郎が玉手箱を開いてしまうところなど、共通の部分があります。そこにはどんな意味が込められているのでしょうか。

浦島太郎から読み取れる教訓について、考えてみましょう。

約束を守ることの大切さ

浦島太郎は竜宮城で楽しく過ごし、乙姫とも良好な関係を築いていました。しかし浦島太郎は、「決して開けない」と乙姫と約束した玉手箱を開いてしまいます。

このことは、約束を破ると罰を受けるというメッセージとも読み取れます。浦島太郎がおじいさんや鶴などに変わってしまうのは、竜宮城で仲むつまじく暮らしていた乙姫との約束を破って玉手箱を開けた「罰」とも考えられるのかもしれません。

目先の快楽におぼれてはいけない

竜宮城で浦島太郎が過ごした日々は、幸せだけれども堕落した時間でした。働きもせずに遊んで暮らした浦島太郎は、母親のことを思い出すのにもずいぶん時間がかかっています。

ようやく陸に戻ってきた浦島太郎は、自分の知っている人はもう誰もいないのだという現実を突きつけられます。そして玉手箱を開くことで、贅沢三昧(ぜいたくざんまい)だった日々の報いを受けたともいえるでしょう。

情け、思いやりの心を持ち、善い行いをすること

浦島太郎は亀を助け、助けられた亀は浦島太郎に恩返しをします。これは、「情けは人の為ならず」という言葉があるように、他者に親切にすれば、その善行はきっと報われるということを表しているのではないでしょうか。

そして、前述のように「御伽草子」の中の浦島太郎と女性は、蓬莱山で再開を果たします。これも、情けの心を持つ二人だからこその結果だったのかもしれません。

1つ目と2つ目の教訓では、玉手箱は罰を与えるアイテムとして扱われます。「御伽草子」にはあった、「玉手箱を開けることで亀(乙姫)と再び幸せになる」という後日談が現代ではなくなっていることを考えると、現代の浦島太郎はより「罰」の物語として側面が強調されているのかもしれません。

浦島太郎の類話

原作といわれる「御伽草子」のほかにも、浦島太郎には類話とされる物語が世界中にあります。例えばアイルランドに伝わるオシーン伝説では、騎士であるオシーンが不思議な女性と夫婦になりますが、ある日故郷に戻ると膨大な時間が過ぎていました。そしてオシーンも女性との約束を守れなかったため、おじいさんになってしまうのです。

また中国の『水経注』には、ある男が子どもの琴の音と歌を聴いている間に、『述異記』には碁を打つのを見ている間に、斧(おの)が腐るほどの時間がたっていたという物語がそれぞれあります。なおこれは「囲碁の別称」「時を忘れ遊びに夢中になること」という意味の「爛柯(らんか)」という熟語の語源ともいわれています。

なお、浦島太郎を題材にした文学作品も数多く残されました。江戸時代には近松門左衛門の『浦島年代記』、明治時代には島崎藤村の『浦島』、森鷗外の『玉篋両浦嶼(たまくしげふたりうらしま)』や坪内逍遥『新曲うら島』などが発表されています。また昭和には太宰治が『お伽草子』の中で「浦島さん」を発表しています。

知れば知るほど奥が深い、浦島太郎の世界

子どものころに読み聞かせしてもらった浦島太郎。この原作といわれる「御伽草子」でのお話は、大人も楽しめる愛の物語でした。現代に伝わる浦島太郎からは、誤った行いをすると罰を受けるという教訓も読み取れます。そして文豪たちをも魅了してきた浦島太郎によく似た伝承が世界中に存在することも、非常に興味深いですね。

浦島太郎は、知れば知るほど楽しめる、奥の深い物語なのです。