「ご贔屓(ごひいき)に」は、ビジネスシーン、接客業においてよく耳にする言葉です。しかし正しく使いこなせているか不安な方もいるのではないでしょうか。

本記事では「ご贔屓に」や「贔屓」の詳しい意味に使い方・例文を紹介します。使用時の注意点や語源、言い換え表現もまとめました。

  • ご贔屓にとは

    「ご贔屓に」の意味や使い方と例文、注意点に、より丁寧な言い方などを紹介します

「ご贔屓に」の意味とは

「ご贔屓に(ごひいきに)」は、自分の取引先や利用者、支援者などに対して、日頃の感謝の気持ちと、今後も引き続き取引をお願いしたい気持ちを伝える言葉です。

細かく見ていくと、まず「贔屓(ひいき)」とは、気に入った人や物の世話をしたり引き立てたりすること、店などを好んでよく利用することなどを意味します。

「あの子ばかり先生にえこひいきされている」などのように、自分の気に入った人だけの肩を持つことを「えこひいき(依怙贔屓)」と言いますが、この「ひいき」と同じです。

「えこひいき」というと「ずるい」というようなネガティブな意味で使われることが多いですが、「ご贔屓に」は基本的にポジティブな意味で使用されます。

「ご」は、相手への尊敬の意味を表しており、「御贔屓に」と全て漢字で書く場合もあります。

「ご贔屓に」の語源

「ご贔屓に」の語源について知るためには、「贔屓」という漢字に着目しましょう。

「贔」は「重い荷を背負うこと」を表しています。そして「屓」には「鼻息」という意味があります。

これら2つの漢字で構成された「贔屓」はもともと、「重い荷物を持つために、鼻息を荒くして力む」という意味であり、「ひき」と読みました。

それが転じて「大切なもののために力をこめる」「特別と思ったものを引き立てる」といった意味で使用されるようになったのです。読み方も慣用音であった「ひいき」が今では一般的になりました。

「ご贔屓に」「ご贔屓」の使い方・例文

  • 「ご贔屓に」を含むフレーズと使い方・例文

「ご贔屓に」の使い方を、よく見聞きするフレーズともに解説します。

今後ともご贔屓にお願いいたします

「今後ともご贔屓にお願いいたします」は、普段お世話になっているお客さまに対して、「今後も利用してもらえるようお願いします」という気持ちを伝える際によく使われます。

「ご贔屓に」が尊敬語で、「いたします」は補助動詞「する」の謙譲語・丁寧語なので、とても丁寧な気持ちが込められた敬語です。

下記の例文のような形で使用します。

  • いつも弊社をご利用いただき、ありがとうございます。
    今後ともご贔屓にお願いいたします。

今後ともご贔屓を賜りますようお願い申し上げます

さらに丁寧な表現として「今後ともご贔屓を賜りますようお願い申し上げます」があります。

「賜る(たまわる)」は「もらう」の謙譲語であり、目上の人から何かを頂戴する、と言う意味の言葉です。さらに「お願い申し上げます」は、お願いする行為の対象を敬う言葉なので、一層深い敬意を込められます。

大切な節目の挨拶などにおける使用がふさわしいでしょう。

  • この度、○○有限会社は、○○株式会社へ組織変更いたしました。
    今後ともご贔屓を賜りますようお願い申し上げます。

今後ともご贔屓に・これからもどうぞご贔屓に

単に「今後ともご贔屓に」というフレーズで使うこともあります。

こちらも普段からよくお世話になっているお客さまに対して用い、お客さまが帰るときに、定型的な挨拶として使用している店もあります。

「これからもずっとうちのお店や商品、会社を使ってください」というお願いの意味が込められています。

「今後とも」の部分を「これからも」としたり、「ご贔屓に」の前に「どうぞ」などを入れたりすることもあります。

  • (お客さまの帰り際に)今後ともご贔屓に!

いつもご贔屓くださりありがとうございます・ご贔屓いただきありがとうございます

今後の変わらぬ贔屓のお願い以外に、感謝を伝えるのにも「ご贔屓に」は使えます。

例えば「いつもご贔屓くださり(いただき)ありがとうございます」は、企業や飲食店、旅館などのサービス提供者が、個人あるいは団体に「高い頻度で利用していただいていること」に対して感謝する意味を表します。

なお「ご~くださる」は尊敬語、「ご~いただく」は謙譲語で、どちらも相手への敬意が含まれています。

  • 当店をいつもご贔屓くださりありがとうございます。
    みなさまのおかげで、10周年を迎えられました。

「ご贔屓に」を使うときの注意点

  • 「ご贔屓に」を使うときに気を付けること

「ご贔屓に」はビジネスシーン、接客業で使いやすい言葉ですが、使い方によっては不自然になったり失礼になったりすることがあります。

ここからは、「ご贔屓に」を使用する際の注意点を見ていきましょう。

目下の人が目上の人を贔屓する、とするのは不自然

前述のように、そもそも「贔屓」とは、気に入った人や物の世話をしたり引き立てたりすること、店などを好んでよく利用することなどを意味します。

つまり相手を自分の基準でジャッジして、さらに目をかける、助けてあげる、といった意味合いになるため、基本的には目上の人が目下の人に対してする行為です。

よって、「目下の人が目上の人を贔屓する」「選ばれる側が選ぶ側を贔屓する」という状況をイメージさせる使い方は不自然です。

例えば、発注会社Aの決裁者と、受注会社Bの営業がいたとします。発注会社と受注会社に上下関係はないとはいえ、数ある会社の中からB社を選んだA社の決裁者が、選ばれたB社の営業に対して「今後とも弊社をご贔屓にお願いいたします」と言うのは違和感があります。逆のパターンならば自然ですね。

主語が自分の場合は使わない

また、自分が目上の立場や選ぶ側であったとしても、主語が自分の場合は「ご贔屓」を使用しないように気を付けましょう。

「私がご贔屓にしている」と言うと、自分自身に敬意を払っていることになってしまいます。

もし自分がある人や物、店などを気に入っていることを表現したい場合は、「私がご贔屓にしている○○」ではなく、「ご」を取って「私が贔屓にしている○○」のような形に言い換えるのが適切です。

「ご贔屓に」「贔屓」の類語・言い換え表現

  • 「ご贔屓に」「贔屓」の類義語

ここでは「ご贔屓に」や「贔屓」の類語を確認しましょう。

ご愛顧

「ご愛顧(ごあいこ)」は「かわいがってよく面倒を見ること、引き立てること」という意味の「愛顧」の尊敬表現です。

下記のような形で、「ご贔屓」と同等の意味合いで使用できます。

  • いつもご愛顧いただきましてありがとうございます。

ただし「愛顧」は通常、引き立てられる側が使用する言葉のため、「私がご愛顧にしている○○」はもちろん、「私が愛顧にしている○○」のような形でも使用しません。「ご愛顧」「愛顧」ともに、自分が主語のときには使用を控えた方がいい言葉だと覚えておきましょう。

「ご贔屓」の場合は、「ご」を取って「贔屓」とすれば自分が主語のときに使用できたので、そこが違いです。

お引き立て

「お引き立て」もよく使われる言葉です。「引き立て」は「引き立てること」、つまり「目をかけてよく用いること、力添えをすること」を表します。

「お引き立て」は「ご贔屓」に比べて、漢字が持つ堅苦しさを軽減できます。相手にソフトなイメージを与えたいときに使うといいでしょう。

  • 日頃よりお引き立てくださり、感謝申し上げます。

厚遇

「厚遇(こうぐう)」は、「手厚くもてなす」「行き届いた、十分なもてなしをする」という意味があります。「贔屓」が「気に入って特別に世話をする」という意味であることに対して、「厚遇」は「丁寧にもてなす」というニュアンスを含みます。

「厚遇」は、「自分自身の行動と比べて、他者からより親切な扱いを受けた」という意味合いで使われることが主流です。

相手から親切なおもてなしを受けた場合は、「贔屓」より「厚遇」を用いる方がふさわしいでしょう。

  • 訪れた先で、期待を上回るほどの厚遇を受けた。

眷顧

「眷顧(けんこ)」は普段あまり耳にしない言葉かもしれませんが、「贔屓」と同じく「特に目をかける」という意味を持っています。

使い方としては「眷顧をこうむる」というフレーズで使用することが一般的です。

  • ◯◯様に眷顧をこうむりましたことに感謝いたします。

場面に応じて「ご贔屓に」を適切に活用しよう

今回の記事では「ご贔屓に」という言葉の意味や、使い方について紹介しました。

「贔屓」とは「気に入った人や物に目をかけること」です。「ご贔屓に」を用いると、取引先や利用者、支援者などに対し、感謝の気持ちと、今後も引き続き取引をお願いしたい気持ちを伝えられます。

ただし「ご贔屓に」には、使用する際の注意点もあります。意味や使い方をきちんと理解し、相手やそのときの場面に応じて上手に使いこなしましょう。