文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス



 最近、高級車ばかりが話題に上るイタリア車だが、待望のファミリーカーが登場。それがFIAT 「ドブロ」。5人乗りの標準ボディと7人乗りロングボディ「マキシ」の2タイプを揃えるミニバンだ。何かに似ていると、感じたあなたは鋭い。ドブロは、8つのブランドを持つステランティスの強みを活かしたシトロエン ベルランゴとプジョー リフターの兄弟車なのだ。


質実剛健のなかに洒脱さを感じさせるデザイン




 そのデザインは、FIAT実用車らしい質実剛健さに溢れるもの。まさにイタリアンギアである。ただ日本人がイメージするお洒落なイタリア車とは異なるため、正直、地味。しかし、この素材の味を楽しむようなプレーンさが、本来のイタリアンベーシックなのだ。



 もちろん、洒落っ気を完全無視というわけでもない。エクステリアでは、ブラックバンパーに合わせてブラックのアルミホイールをコーディネート。グリルレスのフロントマスクには、ヘッドライトに合わせてデザインされたシグネチャーラインも加わる。このフロントマスクデザインは、完全なオリジナルで、兄弟との差別化を図るポイントでもある。このように、さり気ないドレスアップを忘れないのは、イタリア人気質かもしれない。


5人乗りの標準ボディ、3列7人乗りのロングボディを用意



ドブロ(5シート)

 ボディサイズは、兄弟車とほぼ同じ。標準ボディが、全長4405mm×全幅1850mm×全高1800mmで、ロングボディ「マキシ」が、全長4770mm×全幅1850mm×全高1870mmとなる。



 ボディの長さの違いは、ホイールベースにあり、標準車が2785mmに対して、マキシが+190mmの2975mmとなっている。このボディの差は、乗車定員と積載能力に活かされており、前席と2列目シートの空間には変化はない。積載能力は、標準ボディの場合、約597L~最大で約2126Lを確保。これに対して、マキシは、約209L~最大で約2693Lまで拡大できる。因みに3列目は、スライド機構付きでラゲッジスペースの調整が可能なほか、取り外すことで、5名乗員と広大なラゲッジスペースを確保することができる。


シンプルだけど温かみのあるデザイン、後席シートも座り心地よし



ドブロ(5シート)

 インテリアに目を移そう。グレーを基調としたシックな空間となっている。



 もちろん、ダッシュボードデザインは、兄弟車と共有で、特徴的なダイヤル式のATシフトを受け継ぎつつ、メーターパネルはベルランゴと同じデザインのアナログ2眼式に。シートは、形状こそ兄弟車と同じだが、グレー基調とし、綺麗なステッチで彩られ、サイド部などの一部表皮を変更するなど、シックだがデザインが単調とならぬように配慮されている。



 欧州ミニバンらしく、後席もしっかりとした座り心地。国産ミニバンのようなゆったりとした後席ではないが、長く乗っても疲れにくそうな作りの良さは、欧州ミニバンの美徳といえよう。小物入れは、ダッシュボードまわりの小物入れと前席頭上のトレイ、ドアポケットなどとなり、兄弟車のような頭上空間を活かした収納は用意されない。さらにサンルーフも非設定となる。ただ機能面では、兄弟車と劣る面はない。スマートフォン連携のインフォメーションシステムや先進の安全運転支援機能もしっかりと備えており、不足を感じることはなさそうだ。




見切りのいいデザインのため街中でも車両感覚は掴みやすい



ドブロ(5シーター)

 パワートレインも他モデル共通の1.5L直4クリーンディーゼルターボを搭載し、8速ATを組み合わせる。スペックも共通で、最高出力130ps/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発揮する。前輪駆動車のみとなり、タイヤは205/60R16が標準だ。



 じつは、ドブロは兄弟の中で、シトロエン ベルランゴに近い仕様となっており、足まわりもベルランゴと共有だという。それでは乗り味も、そのまま受け継ぐのか。そんな想像をしながら、ふらりと都心のドライブに連れ出した。



 内装構造は3兄弟で共通するが、それぞれのモデルに合わせて内装色やシート地が変更されているため、特にベルランゴやリフターを意識することはない。兄弟の中では地味路線のドブロだが、しっかりとしたシートや本革ステアリングなど常に触れる部分の質感には、力を入れているので、チープさは感じない。



 走りの肝となる1.5Lディーゼルターボは、低いエンジン音を奏でるが、決してノイジーではない。発進の良さや必要なシーンしっかりと加速力を提供してくれるドライバーの心強い味方なのだ。



 1850mmの車幅は、街中で大きく感じるが、鼻先が短く、見切りの良いスクエアなデザインなため、車幅感覚は掴みやすく、運転はし易い。8インチインフォメーションシステムは、ダッシュボード上部の見やすい位置にあり、Apple CarPlayとandroid Autoに対応。車載ナビこそないが、スマホを繋げば、直ぐにナビアプリを利用できて便利だ。



 注目の乗り味だが、欧州ミニバンらしいしっかりとしたもので、キビキビした走りを見せる。だから、右左折車を避けるための、急な車線変更でも車両の安定感は高い。ただ全高1800mmある四角いワゴンなので、コーナー姿勢では、ロールが大きい傾向はある。さて注目の乗り味だが、街中での乗り心地は比較的良いが、ベルランゴと比べると、少し硬めの印象だ。ベルランゴと味が共通で、タイヤもミシュラン製プライマシー4が奢られている。おそらく、その差はシート生地の仕様かもしれない。



 余談だが、最新シトロエンの乗り心地の良さは、肉厚なシートの活躍にもあるからだ。とはいえ、欧州車らしいしっかりとした乗り味であることは、この手のワゴンを求めるユーザーの期待を裏切らないだろう。


まとめ


 ドブロの最大の切り札といえるのが、価格。ベルランゴやリフターが上位グレードに集約されたこともあり、3兄弟で最も安価なのだ。それでも標準車で399万円。マキシで429万円となる。一部装備の違いはあるものの、ほぼ使い勝手は同じだから、お得ともいえる。



 ただドブロを一押しできないのは、シンプルなデザイン以外にプッシュすべき魅力が無いから。3兄弟で選ぶならば、30万円前後の価格差なら、好みを優先すべきだからだ。その一方で、ギア感に溢れるスタイルは、カスタムベースには最も適しており、アウトドア趣味を持つ人には注目されそうだ。



 もう一声、安ければ、FIATファン拡大の呼び水となりそうだが、身近なFIATとは言いにくいのが残念。イタ車の選択肢が増えたことは歓迎するが、FIATも全般的に価格が上昇中。今はユーロ高が落ち着くのを願うしかない。