今年は35地点で5月の観測史上最高気温を記録されるなど、早めの熱中症対策が必要となっています。

5月はまだ汗をかくことに慣れていないため、急に気温が高くなると発汗がスムーズにいかず、熱中症のリスクが高まる可能性も。今回は医師の甲斐沼孟先生に、熱中症にならないための対策について聞いてみました。

■暑さに慣れていない時期に気を付けること

――熱中症というと、7月8月の真夏になることが多いように思えますが、実際はいつから熱中症は多く発生するのでしょうか。

熱中症を引き起こす契機となる要因としてさまざまな種類が挙げられます。

たとえば、気温が高く湿度も高い、あるいは風が弱く日差しが強いなどの気象条件によっても熱中症の発症率は左右され、実際には梅雨の晴れ間や梅雨明けなど、暑さに身体が慣れていない時期から発症することが知られています。真夏の暑いシーズンだけでなく、急激な温度上昇が起こる時期では体温調整がうまく働かずに熱中症を引き起こしやすくなると考えられます。

熱中症の予防は簡単に言うと大きく「短期的な対策」と「長期的な対策」に分けられます。

急性的な対処法としては脱水状態をいかに軽減させることができるか、そして長期的な対策としてはいかに効率的に暑熱馴化できるかが重要なポイントとなります。日本スポーツ協会が推奨している補給すべき飲料水としては、0.1~0.2%の食塩水と糖質をバランス良く含まれたものが効果的と言われています。

熱中症は、日中の10時から16時の間に多く発生しているのみならず、梅雨明けなど急に季節的に暑くなり、体が十分にその暑さについていけない時により頻繁に発生すると言われていますので、身体が暑さに慣れないうちは徐々に身体を慣らしていけるように意識しましょう。

――暑さに慣れていない体だと、どのようなリスクや症状などが起こるのでしょうか?

熱中症は、めまいやふらつき、顔のほてりなど初期症状から、ひどくなれば倦怠感、嘔気、頭痛、体温異常といった症状に進展して、さらに病状が悪化すると意識障害など重篤な症状を引き起こします。

熱中症はその症状の重症度によって、大きくI度(軽度)、II度(中等度)、III度(重症)に分類されています。

たとえば軽度な熱中症の場合には、めまいや立ち眩み、筋肉のこむら返りや気分不良などの症状がみられますし、中等度になると、頭痛がひどく、吐き気や嘔吐症状が前面に表れて、体がだるくなり手足の力が十分に入らないようになってしまいます。また、さらに重症化すれば、非常に高体温を呈して、簡単な呼びかけにも反応せずに意識障害をきたし、全身性けいれんが認められる場合もあります。

現実的にはこれらの症状を基にして、実際に自分が熱中症に陥っているかどうかを冷静に判断することが重要になります。病院受診の目安としては、I度の症状が徐々に改善している場合は現場での応急処置と見守りでよいとされていますが、そうでなければより重症と考えられるために病院受診が推奨されます。

――熱中症になりやすいのはどういった人が多いのでしょうか?

高温多湿に置かれた環境のもとで、生体内の水分や塩分などのバランスが崩れるのみならず身体のあらゆる調整機能が破壊されるなどの障害を引き起こすことを意味します。一般的に長時間の炎天下での激しい運動などで発症しやすいことがよく知られています。

ところが、高齢者や子供が真夏にエアコンを使用せずに室内で生活している時にも熱中症に関連する症状を自覚することがあります。65歳以上の生体予備能が少ないとされる高齢者、あるいは15歳未満で身体の調整機構が未熟とみられる子供や若年者でも熱中症は通常よりも発症しやすいと言われています。

通常では、体温が上昇した場合には人体は生理的に適度な体温を維持する方向へ調整するうえで、より多く発汗して皮膚温度を上昇させることによって出来る限り熱を体外へと放出しますが、高齢者や子供などこれらの本来あるべき機能が低下、あるいは未熟であるため熱中症が生じやすいと考えられています。

また、肥満傾向の方は実は熱中症を発症するなかで多くの割合を占めていることが判明していますし、風邪気味である、あるいは下痢などで脱水状態になっている際などの体調不良時には熱中症になりやすいので要注意です。

■「のどが乾く前に飲む」が熱中症対策の大事なポイント!

――では、熱中症にならないためにはどうすればよいのでしょうか?

水分補給は熱中症対策の基本であり、大事なポイントは「のどが乾く前に飲む」ことです。

のどが乾いたという自覚症状が出るころには、すでに脱水症状がはじまっていると考えられますので、事前に1時間ごとにコップ1杯程度を目安に、水分をこまめにとるように心がけましょう。ナトリウムやカリウムなどミネラルが入っている麦茶やポカリスエット、アクエリアスなどは、水分補給をしながら発汗で失われたミネラルも補給できるので、熱中症対策に最適と考えられます。

熱中症における基本的な治療方法は、熱がこもりにくい涼しい環境に避難し安静を保ったうえで、脱水を補正して電解質バランスを整えるために水分や糖分を有効的に摂取することです。

熱中症になっている本人が経口飲水できる時には、塩分と水分がバランスよく適切に配合された市販店にも置かれている経口補水液をこまめにゆっくりと摂取してもらいましょう。万が一、ぐったりして自力で飲水ができない場合には、一刻も早く病院を受診することが肝要であり、その際には点滴での水分補給や栄養補充が必要と考えられます。

熱中症の症状が軽微であれば、「全身に氷を当てる」「ぬるま湯を全身の皮膚表面に吹きかけてさらに扇風機で送風する」といった冷却方法があります。

暑い季節には、運動する前に吸湿性のある素材や通気性が優れたスポーツ服を選択し、炎天下の環境下ではできるだけ帽子をかぶって直射日光を避けましょう。運動やエクササイズなど実施する際には、なるべく涼しい時間帯を選んで水分補給を小まめにするように心がけましょう。

■室内での熱中症にも注意を

――熱中症は室内でも起こるのでしょうか?

真夏の炎天下の屋外だけでなく、熱気や湿気のこもる屋内でも発症する可能性があります。

屋外のようにそこまで著明に外気温が高くなくても室内の湿度が極めて高い場合に熱中症は発生しやすく、室内環境にいると口渇感(のどの渇き)を自覚的に感じにくいのも熱中症の発症リスクを高める因子になっています。

――5月は冷房を使わない人も多いと思います。冷房の使い方もふまえ、適切な熱中症対策があれば教えてください。

エアコンなどの空調設備が無い環境下で、激しい運動を長時間に渡って水分補給しないままに続行していると、熱中症を発症するリスクが通常より格段に高くなります。

日中だけでなく夜間でも熱中症になり得るので、熱帯夜が続く時期は特に室温の調整が大切であり、冷房エアコンと扇風機を上手に組み合わせましょう。

エネルギー不足を背景にして電気代などが値上がりしていますが、最近のエアコンは省電力ですし、電気代を気にしすぎて熱中症に罹患した際には、下手すれば治療費のほうが高くついてしまいます。

室内の温度をこまめに確認しながら、扇風機やエアコンを上手に使用して適度な温度設定に調整することを日常的に意識して、熱中症予防に入念に努めましょう。できるだけエネルギー節約を考えるなら、家族全員がひとつの部屋でなるべく過ごす、図書館などの公共施設に行くなど適宜効果的な対策を実施しましょう。

熱中症を予防するために日常生活で行える注意事項としては、たとえば夏期シーズンでの在宅時においては、適切にエアコンディショナーを使用しながら測定される室内の温度が概ね28度以下になるように心がけましょう。

監修ドクター: 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)先生

TOTO関西支社健康管理室産業医。大阪大学(現:大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医/大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 /国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 /大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 / 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長


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