アサヒ飲料は、今年4月4日に緑茶飲料「アサヒ 颯(そう)」の発売を開始した。同社として12年ぶりの新しい緑茶ブランドは、発売初月の販売数量としてはアサヒ飲料の過去最高値をマークしているという。

好調の秘密はどこにあるのだろうか? 5月23日に都内で開催されたセミナーで、「アサヒ 颯」のおいしさのポイントを教えてもらった。

  • 左:アサヒ飲料 マーケティング二部 お茶・水グループリーダー 星野浩孝氏、右:放香堂 茶師十段・酢田恭行氏

香りが特徴の「颯」購入層は?

同セミナーには、アサヒ飲料 マーケティング二部 お茶・水グループリーダー 星野浩孝氏と、「颯」を監修した宇治茶の老舗である放香堂の茶師十段・酢田恭行氏が登壇。「颯」開発の背景や、茶葉のこだわりについて紹介した。

  • 発売好調だというアサヒ飲料「颯」

アサヒ飲料の緑茶ブランド「颯」は、調査・開発に約2年、約12,000名の意見をもとに開発された商品だ。無糖茶の嗜好調査を行う中で、「無糖茶によい香りを求める」という声に着目したという。また星野氏は、「お茶をリフレッシュのために飲む方も多く、爽快なニーズを満たす需要がある、と気づいたことも開発のスタートです」と語る。

「颯」の特徴は、ジャスミン茶を思わせる華やかで爽やかな香りだ。畑で収穫した後に茶葉を萎れさせて休ませ、ほんの少し発酵させた「萎凋茶葉(いちょうちゃば)」を採用したことで、この独特の香りを実現している。

4月の発売から4月末までで、150万箱(約3,400万本)を達成。これはアサヒ飲料の発売初月の数字としては、過去最高値だという(※記録が残る過去10年間のうち)。発売初週のSNSの発話量はリツイートも含めて47万件と、同社の23年発売新商品の平均発話量の約9倍を記録。またバスケットボール選手の八村塁さんやダンサー・アーティストのRIEHATAさんを起用したTVCMを放映するなど消費者とのコミュニケーションにも力を入れている。

発売から1ヵ月半経ち、実際の購入層も見えてきた。緑茶のコアユーザーは40~50代男性がメインだが、「颯」のメイン購入層は20~30代の女性だという。星野氏は「若い方が手に取ると上の年代の層にも波及していくので、伝播して行ってほしい」と期待を寄せる。

おいしさの秘密は「萎凋緑茶」

「颯」の華やかで爽やかな香りのカギとなっている「萎凋茶葉」とはどのような緑茶なのだろうか。同商品を監修した宇治茶の老舗 京都・放香堂の 茶師十段・酢田恭行氏による萎凋茶葉の紹介も行われた。

  • 放香堂 茶師十段・酢田恭行氏

酢田氏が保有する「茶師十段」は、年に一度開催される「全国茶審査技術競技大会」で優秀な成績を収めた者に付与される、お茶の鑑定士の最高位だ。業界の中においては権威のある資格で、なかでも十段取得者は全国で20名程度しかいないという。

  • お茶とひと口に言っても、様々な種類がある

そもそも「おいしいお茶」とはどのようなものなのだろうか。元々お茶は薬として使われていたが、安土桃山時代には抹茶(濃茶)を嗜む茶の湯が流行し、江戸時代には急須で煎茶飲まれようになる。そして近年はスイーツに抹茶を使ったり、ペットボトルの緑茶を飲んだりと、「おいしいお茶」は時代によって変遷しているという。

また最近のお茶のトレンドについて「味や渋みもあるけれど『香りが良いお茶』が人気です」と酢田氏。

お茶の評価を行う「全国茶品評会」で良いと評価される「お茶の香り」は「ミル芽香」、いわゆるフレッシュな若葉(ミル芽)の香りのみだそう。しかしミル芽のフレッシュな香りは、料理によっては合わなかったり、焙煎による香り(火香)がマッチすることも。今回「颯」の監修にあたり、食生活や嗜好が変化し多様化する中で「ミル芽香」以外のおいしい香りがないだろうか…と考え、「萎凋の香り」に至ったという。

この「萎凋の香り」は、お茶を摘んでから製造までの保管する間に、茶葉がしおれることで発生するジャスミン茶のようなフローラルな香り(花香・はなか)だ。製茶設備が整わない昭和初期までは多くの工場で製茶されていたが、お茶の品評会で評価されない香りであり、さらに絶妙な発酵度合いの調整が難しいこともあり、現在では国内の煎茶のうち0.02%しか生産されていない希少な茶葉だという。「颯」の開発に当たっては、この萎凋茶葉の調達にも苦労したそうだ。

  • 左・「颯」同様に萎凋緑茶を使った緑茶、右・一般的な緑茶

セミナーでは実際に、「萎凋茶葉」のお茶と一般的な緑茶との飲み比べも行われた。「颯」でも使われている萎凋茶葉のお茶は、色からして全く異なる。鮮やかな緑色の一般的な緑茶は、フレッシュな茶葉の香りに、渋みとうま味を感じる深い味わいだ。一方、淡い黄色の萎凋茶葉のお茶は、飲む前にふわっと華やかな香りが広がる。さらに口に含むと爽やかな香りも楽しめ、さっぱりと飲める。後味もすっきりしており、好みは人によって分かれるだろうが慣れ親しんだ緑茶との違いがおもしろい。

  • 萎凋緑茶は淡い黄金色の水色と、花のような香りが特徴だ

「『颯』の監修にあたり、アサヒ飲料さんに色々な種類のお茶を飲んでもらう際、「萎凋茶葉」のお茶を飲んだみなさんの顔が良かったんです。また今この香りを復活させたら、現在の緑茶飲料が持つ『焙煎の香り』『フレッシュな香り』とは異なる『新しい第3の軸』になるのではないか、選ぶ側として楽しいのではないかと考えました。おもしろいお茶ができましたね」と酢田氏は笑顔を見せる。


従来の緑茶飲料とは異なる特徴を持つ「颯」。暑くなる時期に向けて、この爽やかな独特の香りのお茶はさらに注目を集めそうだ。