文●石井昌道 写真●レクサス



 ステアリングとタイヤがシャフト等の機械的・物理的に繋がることなく、電気信号に置き換えるSBW(ステア・バイ・ワイヤ)は、2014年に日産がスカイラインにDAS(ダイレクト・アダプティブ・ステアリング)という名称で世界初採用し、いまのところは唯一の存在。



 DASは、万が一の故障のときのバックアップとして、従来同様のステアリングシャフトが残されているが、レクサス RZがオプションとして追加予定のSBWは、電気系の2系統で冗長性を担保し、ステアリングシャフトを持たず、超絶にクイックなステアリングギア比となる、より本格的といっていいシステムだ。




レクサス RZのSBWモデルが採用する異形ステアリング

 ステアリングを左右どちらかにいっぱいに切ってから反対側まで切ったときのロックtoロックは、一般的なステアリングシステムでは3~4回転程度で、ノーマル仕様のRZでは3回転となり角度で表すと1080度。それに対してRZのSBWは低速域では角度が左右150度ずつの計300度、たった5/6回転ということになる。ステアリング形状は一般的な円形ではなく、長楕円で操縦桿のようだが、1回転もしないので持ち替える必要がないからだ。これによってメーターがステアリングの上部から見通せることになり、視覚的なメリットもある。



 プロトタイプに試乗したところ、低速域ではやはり超絶にクイックで走り始めは違和感があった。90度の角を曲がるときに操舵しすぎてしまい、思っていたよりも内側に切れ込んで、内輪差で後輪がパイロンに接触してしまった。



 広場にパイロンを置いたコースだったのでクルマを傷つけずに済んだのが幸いだったが肝を冷やした。とはいえ、2つ3つと角をクリアしていくうちに早くも身体に馴染み始め、数分で普通に運転できるようにはなっていた。慣れてくると圧倒的に少ない操舵量が楽で恩恵を感じ始める。すぐにスタンダードなステアリングシステムのRZに乗り換えて、パイロンコースを走ると、ステアリングを持ち替えながら大きく切り込まなくてはいけないことに煩わしさを覚えた。とくに、車庫入れのシーンなどではSBWの操舵量の少なさは大きなメリットになる。




レクサスRZ

 SBWのもう一つのメリットがキックバックの少なさだ。路面の凹凸を乗り越えたときに、スタンダードではステアリングにガタガタとしたキックバックが伝わってくるが、SBWはほぼ皆無であり、快適に感じられる。



 低速域では超クイックだったSBWだが、中速域、高速域となっていくごとにギア比はスローになっていく。これまでも可変ステアリングギア比は存在していたが、SBWならばさらに差異を大きくとることができる。50~60km/hも出せば、操舵での違和感はほぼなくなり、さらにスピードを増したコーナリングでは意外にもしっとりとして良好なステアリングフィールとなっていった。タイヤが路面を掴んでいるインフォメーションもそれなりにあってスポーツドライビングを堪能できる。



 それでもまだ、左右に切り替えしたときなど思っていたよりも大げさに反応してグラグラとすることなどもあるが、ポテンシャルは高い。短い試乗時間のなかで、自分の感覚をクルマに合わせていくことが楽しくも思えるのだった。



 実際に市販化されたときにはもっと熟成が進んでいるだろうと期待されるが、好きになれないという意見も出てくることだろう。それでもレクサスが積極的に取り組んでいるのは、やはりメリットが大きいからだ。



 RZはDIRECT4と呼ばれるツインモーターによる4WDを採用し、前後駆動力配分を可変させることでコーナーでの姿勢づくりなどにも活用している。




レクサス RZのSBWシステム

 素早く緻密な制御が可能なのがモーター駆動のBEVのメリットであるが、SBWと組み合わせれば、さらに制御がやりやすくなる。さらに、BEVはバッテリーは床下に敷き詰め、その他のユニットはエンジン車よりも小さくレイアウトの自由度が高いので、デザインの自由度も圧倒的に高くなるというポテンシャルもある。



 一般的なステアリングシステムでは、シャフト等の物理的なユニットがデザインの自由度を阻害することになるが、SBWならばまさに自由自在。本格的なBEV時代の到来に合わせてSBWをモノにしておくことは競争力強化に繋がるわけだ。



 噂では欧州のサプライヤーもSBWを用意して、積極的に自動車メーカーに売り込んでいるとのことで、今後はSBWを装備したBEVが増えていくことになりそうだ。