最近、TVerをはじめとする各動画配信サービスブランドで、平成に放送された連続ドラマをよく見かける。『東京ラブストーリー』(Amazon Prime Video)など、夢中で見ていた作品を見れば、当時の自分にタイムスリップ。特に女性は好んで見ていたであろう、ラブストーリー。なかなか物語が進展しないもどかしさを楽しんでいたことを思い出す。

そう。昔のドラマはすれ違いが非常に多かった。答えは単純で、通信機器が令和ほど進化していなかったから。誰かと連絡を取ろうとしたら、ポケベルに発信をして、公衆電話からの連絡を固定電話機で待つ。そう言ったら、Z世代にはC言語に聞こえてしまうだろうか。

『ベスト・オブ・平成ドラマ! TVドラマをもっと楽しく観る方法』
発売中 1,650円 青春出版社刊

いや、ここでおばさんは全力否定をする。あのすれ違う、待ちぼうける、会えないという三段論法のような現象は最高だった。恋心における消えそうな灯火を、燃え上がらせた。そこで、だ。実は私、新刊として『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)を上梓させてもらった、作家であり、中学生回くらいから、連続ドラマをずっと視聴し続けているドラマオタク。そんな私から提示したいのは「平成ドラマに見えた、恋愛とガジェットの関係性」についてである。

1990年代、電話は動かざること山の如し

1990年代から2000年代に突入するまで、人同士がつながることを支えていたツールが3つあった。

まずはもう一般家庭からも企業からも消えつつある「固定電話」。話したいと思ったら、市外局番からダイヤルを回す。プッシュ方式でもなく、今となってはヴィンテージインテリアになっているダイヤル式の電話も登場していた。『愛はどうだ』(TBS系 1992年)で、矢沢誠(風山雅治)が交際中の、三崎かなえ(つみきみほ)に電話をすると、父親の修一(緒形拳)が出る。そしてなんやかんやと娘には繋いでもらえず、すれ違う。究極、この当時、本気で一緒にいようとするのなら結婚しか手立てがなかったような気がする。同棲は今でこそ「結婚リハーサル」の類になっているけれど、1990年代はとても親に申告できるものではなかった。

『29歳のクリスマス』(フジテレビ系 1994年)でも、矢吹典子(山口智子)と今井彩(松下由樹)は固定電話でよく会話をしていた。友人とメールもせずに、30分~2時間と長話をしていたのだから、贅沢な時代だったのかもしれない。この時間はタイパに換算できるのか……

続いてのツールは「公衆電話」と「ポケベル」。覚えているだろうか、『東京ラブストーリー』(フジテレビ系 1991年)のオープニング映像でも使われていた「公衆電話」。ドラマでも営業マンの永尾完治(織田裕二)が会社から鳴らされた、ポケベルを見て、公衆電話を探してコールバックを頻繁にしていた。「この人と連絡を取りたい」と思ったら、約1時間のもどかしさがついてくるというわけだ。ついにはドラマ『ポケベルが鳴らなくて』(日本テレビ系 1993年)も放送。不倫カップルの会えない辛さを、ポケベルに投影していた。

ラストは使用した時期を忘れてしまうほどになってしまった「FAX」。ただ1990年代には、画期的であり最新鋭の通信機器。会話ではなく、書いたものが瞬時に相手へ伝わるなんて、新手のマジックと言われても不思議はないほどの斬新さだった。FAXを使った代表的なドラマといえば『愛していると言ってくれ』(TBS系 1995年)。水野紘子(常盤貴子)が、聴覚障害者の恋人・榊晃次(豊川悦司)と連絡を取るために、高級家電であったFAXを買っていた。しかも彼氏に内緒でアルバイトをしているというのが、また泣かせた。

総括すると、1990年代の恋愛ドラマはとにかく簡略化して、最短で愛する人と連絡を取るために必死だったのである。

2000年代、携帯電話の普及で減りつつある、すれ違い

2000年代へ突入すると、携帯電話の登場により、恋愛模様もドラマも激変。人の相違率が格段に減った。1990年代も携帯電話がなかったわけではないけれど、車に設置されているようなバカデカサイズが主流。今の若者が持つバッグよりも格段に大きく、重かった。

ドラマに携帯電話が登場することと、一般への普及率は少しタイムラグがあったと記憶している。そんな最中でも1990年代後半から『神様、もう少しだけ』(フジテレビ系 1998年)では、女子高生がストラップをじゃら付けして持つように。でもまだ通話料金の高さから、会話は公衆電話で。恋愛ドラマとは離れるけれどシリーズ化した『踊る大捜査線』(1997年)でも、湾岸署員にも携帯電話が支給されて、徐々に犯人の検挙率を上げていったような。

そして「これが携帯電話を使った恋愛か」と納得させられたのが、ガラケーのメール。『オレンジデイズ』(TBS系 2004年)で、主人公のカップルが何度も何度もメールを繰り返して、題名の欄に「Re:」が何度も繰り返されているシーン、よく覚えている。女性側の萩尾沙絵(柴咲コウ)が聴覚障害者であったことも、メールの多さと比例しているけれど、もうカップルがすれ違うことが不自然になってきたほどだった。

その後、ドラマにおけるスマホの機種変もすんなりと進み、LINEが演出に使われるようになっていく。『東京タラレバ娘』(日本テレビ系 2017年)あたりでは、グループLINEで楽しそうに会話をする鎌田倫子(吉高由里子)、山川香(榮倉奈々)、鳥居小雪(大島優子)を見て、ドラマが次の時代へ突入したことをしみじみ。

結論。1990年代に恋心を盛り上げた必須アイテムのようなすれ違いは、ドラマでは不自然になってしまった。「彼に会えなくて」と自宅の前で待っていたら、令和では職質を受ける。好きな相手の機微は、文字だけではなくスタンプや絵文字も伝えてくれる。遠距離恋愛をしていても、ビデオ通話ですぐに顔が見られる。

携帯電話を無くした、持っていないというシチュエーションを意図的に用意しないと、迷うことなく男女は出会って、恋に落ちていくのだ。ただこれだけは言えるけれど、不倫の恋に見られるように背徳感や、障害のある恋は心の燃焼率も高い。制作スタッフの趣向を凝らした、新・恋愛ドラマの盛り上げ手法が楽しみである。