「寝たのに疲れがとれない」「よく眠れない」など、昨今多くの現代人が睡眠について悩みを抱えているのではないだろうか。このほど、自由国民社から出版された『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』(1,650円/菅原洋平著)では、そんな睡眠の悩みを「科学的」快眠習慣で解決していく方法を紹介。

  • 『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』(1,650円)

著者は、作業療法士でありユークロニア社代表の菅原洋平氏。国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、現在は、ベスリクリニックで薬に頼らない睡眠外来を担当する傍ら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行っている。

今回は同書の中から、「カフェイン」作用に関する解説部分を抜粋。社会人が眠気覚ましと思って摂取する「カフェイン」が、実は眠気の原因になっているワケなど、睡眠に役立つ情報をぜひチェックしてほしい。

■カフェインで昼間の眠気がひどくなる⁉

眠気覚ましにコーヒーなどのカフェイン飲料を飲むことがありますか? 普段、飲まれているカフェインは、眠気覚ましになっていますか? そのカフェインが、翌日の眠気の原因になっていたらどうでしょうか。

眠気覚ましにカフェインを摂取するという認識を持っている人は多いですが、実は、カフェインに眠気を覚ます作用はありません。眠気を吹き飛ばすような作用があるのではなく、脳が眠いまま眠れなくなるのがカフェインの作用です。

私たちが朝目覚めると、脳脊髄液の中に、睡眠物質プロスタグランディンD₂が溜まっていきます。目覚めた状態で時間が経過するほど溜まっていき、脳の外側を覆っている、くも膜のアデノシンの濃度を上昇させます。

アデノシンという名前は、アデノシン三リン酸(ATP)という名前で聞いたことがある人もいるかもしれません。ATPは、私たち生体のエネルギー源です。これが日中の活動でエネルギーが燃やされて形を変え、最終的にアデノシンになって睡眠物質として働きます。エネルギーが代謝された産物が睡眠物質として働くという、とても合理的な仕組みになっています。

アデノシンは、脳の中に多く存在し神経を抑制する役割をもつGABAの働きを促進します。GABAは、脳を目覚めさせているヒスタミン神経を抑制します。この働きによって、脳は眠るのです。

このうち、カフェインが作用するのが、アデノシンがGABAの働きを促進する部分です。カフェインはこれをブロックするので、GABAによる神経の抑制が働きにくくなり、ヒスタミン神経が抑制されません。その結果、脳に睡眠物質は溜まっているにも関わらず、眠くなくなるのです。

  • コーヒーの作用

ここで注意しなければならないのが、カフェインによる弊害です。カフェインは、眠気を阻害しますが、同様に夜間睡眠の質も低下させてしまいます。

カフェインの摂取により、睡眠中に歯ぎしりや食いしばりが増加することが明らかになっています。睡眠中に歯ぎしりが出現すると、マイクロアローザルと呼ばれる、自覚しない短時間の覚醒が生じて、睡眠がプツプツと途切れます。これによって熟眠感がなくなり、昼間に眠気を催して、その対策としてカフェインを摂取する、という悪循環にはまってしまうことがあります。

脳が眠くなるまでの段階がわかると、より有効な眠気対策、快眠方法がわかります。カフェイン摂取で無理やり眠気をブロックするよりも、眠気の根本の原因である睡眠物質を減らす方法、それが「計画仮眠」です。

■計画仮眠で脳の働きを管理する

計画仮眠を有効に活用するには、次の4つのポイントがあります。

①眠くなる前に目を閉じる

会議中に襲ってきた睡魔と闘いながら、どうにかして眠らないようにしようと頑張った挙句に、スッと意識を失う。ビクッと体が動いて目覚めたとき、ほんの少しでも眠れたにも関わらず、またこっくりこっくり船をこいでしまうことがありませんか?

眠気は、我慢すればするほど、結果的に眠かった時間が伸びてしまう、という性質があります。眠気をうまく管理するには、眠気には抗わないことが大切です。

睡眠―覚醒リズムでは、起床8時間後に眠くなりますが、その眠気のピークを過ぎると、生体リズムは徐々に覚醒に向かい、眠気は通り過ぎていきます。この波の眠気のピークのところで眠ってしまうと、睡眠の脳波が出現し、その脳波はしばらく続きます。一度出現した睡眠の脳波は、簡単に消失することができないので、次に覚醒に向かう波をつぶしてしまい、その結果、眠い時間帯が伸びてしまうのです。

一度睡眠が始まると目覚めた後もボーっと眠気が残る現象は、スピードを上げて走っている車がブレーキを踏んでも急に止まれない慣性の法則になぞらえて、睡眠慣性と呼ばれています。睡眠も始まってしまったら急には止まれないのです。

睡眠慣性による脳の働きの低下を防ぐには、睡眠―覚醒リズムの波でまだ眠くないうちに未来の眠気を取り去るべく仮眠をする必要があります。目安となるタイミングが、起床から6時間後です。

ちょうどお昼休み頃の時間帯に当たる人が多いと思います。お昼休みは、まだそれほど眠気がないと思いますが、このタイミングで目を閉じてみましょう。 ちなみに、慢性的に睡眠不足になっている人ほど、睡眠慣性が起こりやすく、またボーっとする時間も長引くことが知られています。不用意に居眠りしてしまい、午後の時間帯はほとんど作業ができなかった…なんてことがあったら、累積睡眠量を増やすことも必要です。

②仮眠時間は1から30分まで

  • 仮眠のタイミング

2つ目のポイントは、仮眠時間の長さです。仮眠時間は、「最短で1分、最長で30分」と覚えてください。「1分なんて、そんな短い時間では眠れない」と思うかもしれませんが、実際に眠る必要はなく、目を閉じるだけで大丈夫です。計画仮眠の目的は、眠るというより「脳波を変える」と考えてみましょう。 目を閉じると、脳波に8~13㎐のアルファ波が出現します。よく、リラックスしているときに出現する脳波として知られています。アルファ波は、目を閉じるだけで出現し、1分程度でも、主観的にスッキリしたという感覚をつくることができます。

仮眠の長さの目安は次の通りです。

・ 1分~5分: 主観的にスッキリしたという感覚をつくることができます。ただ、脳脊髄液に溜まった睡眠物質が分解されるには至りません。

・ 6~15分: 睡眠物質が分解されて、仮眠前に比べて、仮眠後には課題成績が向上することが明らかになっています。最適な仮眠の長さです。

・16~30分: 若年者や慢性的に睡眠不足の状態では、目を閉じて深い睡眠に入るまでのスピードが速いため、目覚めた後にボーっとする睡眠慣性が生じてしまうことがあります。

・31分以上: 夜間の睡眠で出現するはずの深い睡眠の脳波が出現してしまい、夜間の睡眠の質の低下を招いてしまいます

この目安を基に、時間がないときは1分でも、時間があれば10分程度、休日などでたっぷり時間があっても30分は超えないようにして実行してみましょう。

分単位でタイマーをかけると、何分の仮眠が自分にとって最適なのかがわかるようになっていきます。オフィスで実行してもらうと、「7分が一番スッキリ」「10分だといいけど12分だと起きたときにぼんやりする」など感想を教えていただきます。人それぞれなので、時間の長さはあくまでも目安として、自分に最適な仮眠時間を見つけてみましょう。


書籍『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』(1,650 円/自由国民社刊)

  • 『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』((1,650 円/自由国民社刊)

本書では、計画睡眠を有効に活用する3つ目以降のポイントをはじめ、睡眠改善の方法を多数紹介。睡眠に悩む人、生活を改善したい人に役立つ一冊となっている。