「お伺いさせていただきます」という言葉は、ビジネスシーンなどでもよく見聞きする言葉です。しかし本当に正しい敬語なのかと、違和感を覚える方もいるでしょう。

本記事では、「お伺いさせていただきます」を分解して、意味や正しい表現なのかを解説します。敬語の基本的なルールやその他の誤用、言い換え表現と使い方・例文、英語表現もまとめました。

「お伺いさせていただきます」は正しい敬語表現?

  • 「お伺いさせていただきます」は間違い?

    「お伺いさせていただきます」は正しい表現なのかや、分解して細かい意味を解説していきます

結論から言うと、「お伺いさせていただきます」という言い方は間違いです。それは一体、どのような理由からなのでしょうか。

2つのポイントから解説します。

そもそも「伺う」には、主に2つの意味がある

「お伺いさせていただきます」に含まれる動詞「伺う」は、主に以下の2つの意味で使われる言葉です。

  • 「行く」「訪ねる」の謙譲語
  • 「聞く」「尋ねる」の謙譲語

いずれの使い方においても、謙譲語だという点で共通しています。つまり「伺う」という言葉は、相手に対してへりくだる意を込めるときに使われる表現です。

目上の人に「行く」と伝えるときや、「質問する」と言いたいときの敬意を込めた言い回しとして「伺う」という表現があるのです。

「お伺いさせていただきます」は二重敬語なので間違い

「行く」「訪ねる」の意味で用いる場合も、「聞く」「尋ねる」の意味で用いる場合も、「伺う」が既に謙譲語であることを踏まえると、「お伺いさせていただきます」という言葉の違和感に気が付くでしょう。

「伺う」が謙譲語なのと同じように、「させていただく」という表現も同じく謙譲語です。

つまり「お伺いさせていただきます」という言葉は、一つの語について、謙譲語が重複して含まれています。同じ種類の敬語を重ねて使うことを「二重敬語」と言い、これは基本的に誤りとされています。

そのため、「お伺いさせていただきます」は誤用だと覚えておきましょう。

「行く」「訪ねる」の意味のときも、「聞く」「尋ねる」の意味のときも、敬語を正しく使用して表現するには、「伺います」がよく使われます。

「伺わせていただきます」なども誤用

さて「お伺いさせていただきます」と似た表現に、「伺わせていただきます」があります。

この「伺わせていただきます」もやはり、「伺う」「させていただく」で謙譲語が重複しており、二重敬語にあたるため、正しい使い方ではありません。

その他、「お伺いする」「お伺いします」「お伺いいたします」といった言い方も、同じ理屈から、本来は間違った表現だということを覚えておくといいでしょう。

ただし「お伺いする」「お伺いします」「お伺いいたします」は、習慣として広く定着しているため、現在は間違いとも言い切れない状態にあります。

敬語の基本的なルールのおさらい

  • 敬語の種類のおさらい

「お伺いさせていただきます」がなぜ誤った表現なのかの理解を深めるために、ここで敬語の種類やルールについておさらいしておきましょう。

敬語には大きく、以下の3種類の表現があります。

  • 尊敬語…相手の言動に対して用い、相手を敬う
  • 謙譲語…自分の言動に対して用い、自分がへりくだる
  • 丁寧語…丁寧な言い方にする

それぞれの敬語表現について、どのようなときに使われるかを解説します。

尊敬語

尊敬語は、会話の相手や第三者など、目上の人の言動を敬い、立てる役割の言葉です。

目上の相手であるAさんの言動に尊敬語を使いたいときは、例えば下記のような表現ができます。

  • Aさんはこう言った → Aさんはこうおっしゃった(言われた)
  • Aさんはおまんじゅうを食べた → Aさんはおまんじゅうを召し上がった
  • Aさんはボードに概要を書いた → Aさんはボードに概要をお書きになった

なお、自分の言動に対して尊敬語を使うのは、自分が偉いという意味になり、間違いです。

謙譲語

謙譲語は、自分の言動や、家族や親戚といった身内の言動に用います。相手の動作を持ち上げるのではなく、自分や身内の言動をへりくだらせることで、間接的に相手への敬意を表現します。

自分の言動について謙譲語を使いたいときは、例えば下記のような表現ができます。

  • 私はこう言った → 私はこう申し上げた
  • 私はおまんじゅうを食べた → 私はおまんじゅうを頂いた(頂戴した)
  • 私はボードに概要を書いた → 私はボードに概要をお書きした

丁寧語

丁寧語は、主語が相手や第三者の場合にも、自分の場合にも使える敬語表現です。言葉を丁寧にすることで、聞き手への敬意を表します。

ただし尊敬語や謙譲語に比べて、敬意の度合いは低めです。

丁寧語を使いたいときは、例えば下記のような表現ができます。

  • Aさん(私)はこう言った → Aさん(私)はこう言いました
  • Aさん(私)はおまんじゅうを食べた → Aさん(私)はおまんじゅうを食べました
  • Aさん(私)はボードに概要を書いた → Aさん(私)はボードに概要を書きました

「伺います」の使い方と例文

  • 「伺います」の使い方と例文

前述のように、「お伺いさせていただきます」や「伺わせていただきます」は二重敬語として扱われるため、「伺う」を丁寧に表す正しい表現は「伺います」です。

「伺います」の正しい使い方について、例文を参考にイメージを捉えましょう。

「行く」「訪ねる」の意味の「伺います」の使い方と例文

まず「行く」「訪ねる」という意味の「伺います」の例文を見ていきましょう。

  • これから担当者と共に伺います。
  • それでは月曜日の14時にそちらに伺います。
  • 急いで御社に伺いますので、少々お待ちいただけますでしょうか。
  • 午後3時に伺いますのでよろしくお願いいたします。

過去に行ったことを表すときには、以下のように使用します。

  • 昨日、Aさんのご自宅に伺いました。

どちらの場合も、「お」や「させていただく」など、他の謙譲語を重ねると二重敬語になってしまうので注意しましょう。

「聞く」「尋ねる」の意味の「伺います」の使い方と例文

「聞く」「尋ねる」という意味の「伺います」の例文を見ていきましょう。

  • この点については、明日、私からA課長に伺います。

また、過去に聞いたことを伝える際には以下のように使用します。

  • 先日の講演会では、素晴らしいお話を伺いました。
  • 改めて、折り返しの電話が欲しいとお客さまから伺いました。

「聞く」「尋ねる」の意味で使用する場合も、「行く」「訪ねる」の意味のときと同様に、他の謙譲語を重ねると二重敬語になってしまいます。

「お伺いさせていただきます」の正しい言い換え表現

  • 「お伺いさせていただきます」の正しい言い換え表現

「お伺いさせていただきます」という表現は誤りで、「伺います」がよく使われる正しい表現だとご説明してきました。この章では、「伺います」以外にも使える正しい表現を紹介します。

【「行く」「訪ねる」の意味】

参ります

「参る」は「行く」の謙譲語にあたる表現です。そのため「参ります」は、「行く」「訪ねる」の意味で使う「伺います」の言い換え表現として使えます。

ただし「伺います」と「参ります」では、用法に違いがあります。

具体的には、以下の点で異なります。

  • 「伺います」は「伺う」という行動・話題の対象への敬意を表す
  • 「参ります」は話している相手に対する敬意を表す

例えば目上の人であるAさんと電話で話しているときに、行き先にいるAさんに敬意を表して「明日、Aさんのオフィスに伺います」と言うことができます。

また話している相手であるAさんに敬意を表し「明日、Aさんのオフィスに参ります」と言うこともできます。

行き先に話している人がいる場合は、「伺います」「参ります」のどちらを使っても大丈夫です。

しかし「明日から東京に行く」という場合は、大阪にいるAさんに対して「明日から東京に伺います」と言うことはできません。

この場合は、「明日から東京に参ります」と表現します。

訪問いたします

「訪問いたします」は、「行く」「訪ねる」の意味で使う「伺います」の言い換え表現です。

「行く」の類義語である「訪問する」という動詞と、謙譲の意を表す「いたします」を組み合わせたものです。

【「聞く」「尋ねる」の意味】

聞きます、お聞きします

「聞きます」は、「聞く」「尋ねる」の意味で用いる「伺います」の言い換えとして使える表現です。

これは動詞の「聞く」に、丁寧語である「ます」が組み合わさった言葉です。

「聞く」を最もシンプルな方法で敬語に変えたものですが、謙譲語や尊敬語と違って相手への敬意の意味はなく丁寧語であるため、敬語としてはややカジュアルな表現といえます。先輩や年上の友人、付き合いの深い上司など、ある程度親密な関係性においてのみ使われることがほとんどです。

「お聞きします」の形にすると謙譲語となりますので、「聞きます」より敬語としての度合いが高まります。

尋ねます、お尋ねします

同様に、「尋ねます」「お尋ねします」も、「尋ねる」の意味で用いる「伺います」の言い換えとして使える表現です。

「尋ねます」は丁寧語、「お尋ねします」は謙譲語です。

拝聴します

「拝聴します」は、「聞く」の意味で用いられる「伺います」の言い換えに使える表現です。

分解すると、「聞く」の謙譲語である「拝聴する」と、丁寧語「ます」の組み合わせであることが分かります。

つまり、「聞きます」よりも、さらにへりくだった言い方だといえます。そのため、改まった場面で使われる言葉です。

また、「拝聴する」は謙譲語のため、主語が自分や身内のときにのみ使えるものであることを押さえておきましょう。

【「行く」「訪ねる」/「聞く」「尋ねる」の意味】

伺いたく存じます

「伺いたく存じます」を分解すると、「伺う」(「行く」「尋ねる」の謙譲語)+希望を表す「たい」+「存ずる」(「思う」の謙譲語)+丁寧語の「ます」です。

なおこの場合、一つの語について謙譲の意味を表す語が重複しているわけではなく、二つの語について、それぞれ謙譲語が存在しているという状況です。そのため、二重敬語にはあたりません。

「伺います」よりも、よりへりくだった印象を与えたいときに用いられます。

「伺います」の英語表現

  • 「伺います」の英語表現

ここでは、「伺います」の英語表現について見ていきましょう。

「行く」「訪ねる」の意味で使う「伺う」「伺います」については、以下の言葉で表すことができます。

  • visit
  • I'll be there

英語には細かい敬語表現がないため、「行く」「訪ねる」の意味を持つ言葉をそのまま使うだけで問題ありません。

「聞く」「尋ねる」の意味で使うときの「伺う」「伺います」については、以下の言葉で表現できます。

  • hear
  • ask
  • inquire

同じく、「聞く」「尋ねる」の意を表す言葉をそのまま使えます。

「お伺いさせていただきます」ではなく「伺います」が正しい敬語表現

「お伺いさせていただきます」や「伺わせていただきます」は、二重敬語です。誤用であるため、正しい表現である「伺います」に言い換えましょう。

敬語を使うときには、丁寧な伝え方を意識するあまり不自然な日本語になっていないか、いま一度見直してみることがおすすめです。

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