今年のGWは久しぶりに旅行に行こうと計画している方も多いのではないでしょうか。旅行に欠かせないのは乗り物移動。電車、バス、車、飛行機など、行先により乗るものはさまざまかと思いますが、乗り物酔いをしてしまう人にとって、この移動が大きなプレッシャーですよね……。

そこで今回は、医師の甲斐沼孟先生に乗り物酔いに関するお話しをお聞きしました。乗り物酔いをしてしまう原因や予防策などをまとめていますので、参考にしてみてください。

■そもそも「乗り物酔い」とはなんですか?

乗り物酔いは、船やバス、電車、飛行機などに乗っている時に、乗り物が揺れ続けることによって自律神経系の病的反応を起こした状態のことを指しています。病的反応の例としては、顔面蒼白、吐き気や冷や汗が出る、脱力感や無力感、無気力、思考力の低下、ひどい時には嘔吐など、様々な症状が出現します。

大人ではバスや車、電車や船、飛行機などの乗り物、子どもではジェットコースターやメリーゴーランドなどの遊具でも乗り物酔いが起こることがあります。乗り物酔いは、揺れを原因として起こるため、「動揺病(どうようびょう)」と呼ばれることもあります。

■乗り物酔いを起こす原因は?

人の体には元々「平衡感覚機能」が備わっています。平衡感覚を正常に保つためには、内耳に存在する「前庭」や「三半規管」と呼ばれる器官のはたらきが重要となっています。これらの器官が正常にはたらくことで、前後左右の動きや回転運動などの動作を検知し、感知した情報に基づいて、全身の筋肉は微妙な調整を行い、姿勢を保っているのです。

平衡感覚の情報が過剰になると、自律神経が異常をきたして乗り物酔いを発症することにつながります。したがって、車やバス、飛行機や船、遊園地の遊具などに揺られて、「視覚から得られる情報」と、「本来予測される身体の動き(平衡感覚)」が合致しない状況が継続することで脳が混乱を起こし、乗り物酔いを発症すると予測されます。

一般的に、視覚情報からどのように身体が動くか予測しやすいポジションにある「車の運転手」は乗り物酔いをしにくく、「バスの後方座席に座る人」は視覚情報が入りにくいために乗り物酔いをしやすくなる傾向があります。以上のことから、視覚情報と平衡感覚の不一致は、乗り物酔いの予防策を考える上でも重要な観点と言えます。

これらの原因以外にも、嗅覚からの不快感やストレス、日々の不安感などの精神的因子も乗り物酔いに関与していると言われていますし、小中学生に起こる場合には一度乗り物酔いを経験すると、そのときの記憶と関連して、再度乗り物酔いの症状を感じやすくなることも指摘されています。

■病院を受診する場合、何科を受診したらよいのでしょうか?

乗り物酔いを繰り返す場合は、耳鼻咽喉科めまい専門外来を受診しましょう。

乗り物酔いには内耳と脳が深くかかわっていて、内耳の機能障害や脳に異常があるとめまいやふらつきが起こり、乗り物酔いにつながります。心配であれば耳鼻科やめまい外来に相談しましょう。

■乗り物酔いに効く薬を教えてください

乗り物酔いに対して効果的に酔い止め薬を活用することは重要なポイントです。酔い止め薬を服用することで、乗り物の揺れやスピードによって引き起こされる平衡感覚や自律神経の乱れを調整し、乗り物酔いの症状を改善させる効果があります。

【薬の種類】

[1]市販薬
市販の酔い止め薬にはさまざまな種類があり、含まれる成分によって作用は異なります。市販薬の多くは抗ヒスタミン薬(第1世代)と呼ばれるもので、脳の興奮を抑える成分が主成分です。通常であれば乗り物に乗る30分程度前に服用するのが効果的とされていますが、酔ってから服用しても効果を発現するタイプの薬もあります。

また、脳の神経に働きかける作用を持つ成分だけでなく、胃に直接作用する成分の入った市販薬を選択することで、乗り物酔いの中でも特につらい症状である吐き気や嘔吐症状を軽快させる効果を発揮します。

代表的な市販薬として、酔う前からの予防はもちろん、酔ってからでも効く薬で、子どもから大人まで簡便に使用できる「トラベルミン」という酔い止め薬があります。

また、アネロン「ニスキャップ」は、乗り物酔いに効果的な5種類の有効成分を配合しているので、乗り物酔いによるつらい吐き気・めまい・頭痛に、優れた効果を発揮します。

乗り物酔い止め薬ブランドである「センパア Pro」は、はきけ・めまいを長くブロックするd-クロルフェニラミンマレイン酸塩と、胃に直接働いて嘔気症状に効くアミノ安息香酸エチルなど5種類の有効成分を配合し、乗り物酔いによるはきけ・めまいに効果を発揮することが期待されています。

[2]処方薬
処方薬としては「ポララミン錠」などがあり、主成分として抗ヒスタミン成分を含んでいます。抗ヒスタミン成分は、嘔吐中枢への刺激と内耳前庭での自律神経反射を抑制して、めまいや吐き気などの症状を改善する作用を発揮します。

【飲み方】

大人が酔い止め薬を服用する場合、酔ってしまってからの服用でも一定の効果はありますが、予防観点では乗り物に乗る30分~1時間前に服用するのが特に効果的と言われています。また、1日1回服用の酔い止め薬を選ぶことで、飲み忘れによる効果切れを起こさせず、長時間の効果を実感できます。

ただし、薬にはふらつきや眠気など副作用が出現することもあるため、自ら運転する場合には内服を避ける必要がありますので留意しておきましょう。

■薬「以外」で、乗り物酔いを防ぐ方法があれば教えてください

乗り物酔いをしないためには、事前の体調管理や乗り方の工夫、乗り物酔いにオススメの食べ物や飲み物、ツボ押しなどさまざまな予防法があります。移動中には、好きな音楽を聴いたり友達と会話をしたりして気分転換することも、乗り物酔いを予防するうえで有効的です。

【旅行前の対策】

体調が悪い状態で乗り物に乗ると乗り物酔いの症状が出現しやすいとされています。旅行の際に乗り物酔いを起こしやすい場合は、旅行前日は十分に睡眠を取って体調を整えることが大切です。

【座席位置の対策】

目からの情報と耳からの情報にずれが生じないようにすることが重要です。バスや船などでは乗る位置も工夫して選ぶなどの対応を心がけましょう。

バスの場合は、なるべく前方の席や視覚情報が入りやすい窓側に座り、加速度に影響されないずっと遠くの景色を眺めるように意識しましょう。 電車であれば後ろ向きではなく前向きの座席、船であれば揺れの少ない中央部などに位置するように工夫してみてください。

【姿勢の工夫】

下を向いて本やスマートフォンなどを操作していると酔いやすくなります。気分が悪くなりそうだと思ったら、読書や携帯の操作を中断して早めに背もたれを倒すか横になって頭を上に向けましょう。横になることで頭が固定されると、情報がずれにくくなるため、酔いにくくなります。

【食事の工夫】

梅干しや柑橘類など生唾が出る酸っぱいものは胃を刺激して酔いを促進してしまうので、特に乗り物酔いが起こった後は摂取しないように気を付けましょう。 また、食事や飲みのもの摂取は適度にとどめることも大切です。

■酔ってしまった際の対処法を教えてください

【氷を活用する】

それでも酔ってしまったときの応急対策としては、大人ではアイスキューブ(氷)を2~3個、子どもの場合は1個口に含むことで、痛いと感じるほどの冷たい刺激が、自律神経の乱れを抑えて乗り物酔いの症状が改善する可能性があります。 唐辛子や生姜でも同様の効果が期待できますので、乗車前に予防的に摂取するのも一手です。

【体の締め付けを緩めて休息をとる】

乗り物酔いを起こしてしまったときは、可能であれば乗り物から降りて、スペースに問題がなければ、横になって休息を取ります。同時に、ベルトやズボンでお腹が締め付けられると吐き気症状などが悪化することも考えられるため、これらを緩めて腹部の圧迫を軽減することも重要です。

■乗り物酔いは改善(症状を起こさないよう克服)することは可能なのでしょうか?

乗り物酔いの根本的な克服につながる最も効果的な方法は、「慣れる」ことです。

乗り物酔いは病気ではなく、体が適応しようとして起こる自然な反応と捉えられるため、度々酔ってしまうからといって乗り物を極端に避けるのではなく、酔い止めの薬を使ってでも症状を出来るだけ緩和し、乗り物に乗って慣れることが、症状を克服する近道になります。

また、子どものうちは乗り物酔いを経験しても、おしゃべりをしたり歌を歌ったりと楽しいことをしていたら酔わなかったという「成功体験」を積み重ねることによって、成長するにしたがって次第に酔わなくなる人も多く見受けられます。

一方で、子どもが酔ったときに叱ったり、過剰に心配して不安を煽ったりすると、なかなか乗り物酔いの症状を克服できないこともあります。緊張や不安から過度に乗り物を避けるよりも、薬を上手に使って不安を取り除き、リラックスして楽しく過ごしながら乗り物酔いを克服していきましょう。

監修ドクター: 甲斐沼 孟(かいぬま まさや)先生

TOTO関西支社健康管理室産業医。大阪大学(現:大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医/大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 /国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 /大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 / 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長


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