NTT東日本 神奈川事業部は「かながわ森林再生50年構想」に賛同の意を示し、2022年7月より「森林再生パートナー制度」に参画している。ネーミングライツ森林である「つなぐ、ささえる NTT東日本 神奈川の森」の命名経緯や森林活動内容とともに、森林の恵みについて伺ってみたい。

  • 神奈川県とNTT東日本 神奈川事業部の取り組み

神奈川県が森林再生を進める理由とは?

神奈川県は約9万5,000ヘクタールの森林を抱えており、森林率はおよそ39%。これは全国的に見ても少なく、47都道府県の中でも42番目にあたる。県民一人当たりに換算すると103平方メートルで、こちらもやはり全国平均の1,996平方メートルと比較すると約19分の1だ。

神奈川の森林、特に水源地域の森林は、以前は木材生産などの林業活動を通じて守り育てられてきた。しかし、家庭燃料が薪から石油やガスに、家づくりも木材中心から新建材に変わるなど生活様式の変化や、安価な外国産木材の輸入などのため、木材が売れず林業活動が難しくなり、手入れの行き届かない森林が増えた。これにより森林の荒廃が懸念される状態になってしまった。

この森林を整備し、森林の持つ公益的機能を高めるために神奈川県が1997年に始めたのが、「水源の森林づくり事業」となる。良質な水を安定的に確保するために、水源地域の私有林に対し、公的管理や支援を推進し、県民と行政が一体となって、水源かん養など公益的機能の高い森林づくりを目指している。

「森林は、私たちの生活に欠かせない存在です。一番重要なのは土壌保全機能、木の根が土砂を支え山崩れを防いでくれる機能ですが、そのほかにもさまざまな機能を備えています。わかりやすいところでは、雨水を蓄える機能や、二酸化炭素を吸収し酸素を放出する機能があります」(神奈川県 環境農政局緑政部 水源環境保全課 水源事業グループ グループリーダー 武田潤氏)

  • 神奈川県 環境農政局緑政部 水源環境保全課 水源事業グループ グループリーダー 武田潤氏

「また森林は豊かな自然環境を作り、生物の多様性を保全するとともに、人々に安らぎや交流の機会を与えます。さらに、木材の供給や雨水を濾過し栄養分を海へ供給する、海からの強風を防ぎ砂の巻き上げを防ぐといった機能も備えています」(武田氏)

  • 森林の働きによって日々の豊かな生活が成り立っている(神奈川県提供)

  • 森林は土壌保全を基本として、さまざまな機能を備えている(神奈川県提供)

2006年からは「かながわ森林再生50年構想」のもと、森林を奥山・山地・里山の3エリアにわけ、豊かな恵みを次世代に引き継ぐため、森林の保全・再生に取り組んでいる。近年は、花粉症に悩む人の増加を踏まえ、花粉発生源対策として無花粉スギ・ヒノキの植樹を行っているという。

「SDGsへの取り組みという社会的な流れを受け、ここ最近は森林再生パートナー制度への問い合わせが非常に増えていて、非常にありがたく感じています。個別の企業様に直接働きかけを行っているわけではないのですが、毎月2社くらいからお声がけいただいている状況です。とくに今年度はこれまでで一番パートナーが増加した年になりました」(神奈川県 環境農政局緑政部 水源環境保全課 水源事業グループ 主事 岡田篤朋氏)

  • 神奈川県 環境農政局緑政部 水源環境保全課 水源事業グループ 主事 岡田篤朋氏

NTT東日本 神奈川支店の「ネーミングライツ森林」

「神奈川森林再生50年構想」の一環として、神奈川県が2009年3月から行っている活動が「森林再生パートナー制度」だ。その前身は1999年に始まった「水源林パートナー制度」であり、2023年4月1日現在、43の企業・団体がパートナーとして参加協力を行っている。

森林再生パートナー制度の大きな特徴は、10ヘクタールほどの森林に対し、5年間名前を付けることができる「ネーミングライツ森林」。神奈川県が発行する地図にも森の名前が表示されるようになる。また、間伐や枝打ちといった森林作り活動や自然観察活動に従事する機会や、寄付金額に応じて森林整備によるCO2吸収量算定書の発行を受けることも可能。企業や組織はSDGsに向けた大きなPR機会を得られるだろう。

2022年7月、NTT東日本 神奈川事業部がこの森林再生パートナー制度への協力を表明した。ネーミングライツの権利を得たのは、神奈川県宮ケ瀬ダム近隣にある森林。「つなぐ、ささえる NTT東日本 神奈川の森」と命名された。

  • 「つなぐ、ささえる NTT東日本 神奈川の森」は神奈川県愛甲郡清川村宮ケ瀬釜田川および下山にある

「NTT東日本は、長年にわたり環境保全の取り組みを進めてきました。サステナブルな社会においてもこれを継続させるべく、当社内で昨年作られたのが総務部内のSDGsグループです。さまざまな施策が考えられましたが、そういったもののひとつとして森林再生パートナー制度が上がってきました。個人意識の醸成と企業ブランドの向上、このふたつがちょうどマッチングした取り組みだったと思います」(NTT東日本-南関東 神奈川事業部 総務部 総務労務担当 担当課長 半田 敦氏)

  • NTT東日本-南関東 神奈川事業部 総務部 総務労務担当 担当課長 半田 敦氏

「つなぐ、ささえる NTT東日本 神奈川の森」という名称は社員公募から選出されたという。95件もの応募があり、他には「未来を支える NTT東日本 神奈川の森」や「NTT東日本神奈川事業部 明日へつなぐ森」といった候補もあり、悩んだ末に現在の名称に決定したそうだ。

2022年11月5日には神奈川県南足柄市内山エリアにある「県立21世紀の森」で、NTT東日本 神奈川支店の社員ボランティアによる枝打ち作業も実施。参加した人数は42名。インストラクター7名とともに、全6グループに分かれて作業が行われた。

  • 「県立21世紀の森」で行われたNTT東日本社員ボランティアによる枝打ち作業

  • 枝打ちによって森林がどう変わるのか、レクチャーを受けながら作業を進めるみなさん

「近年は新型コロナウイルス流行の影響を受け、なかなかサステナビリティに関する活動ができませんでした。ようやく再開できるという時期にご協力できたのはタイミングがよかったと思います。森林のサイクルを教えてもらいながら丁寧に枝打ち作業を行い、社員からは『もっとやりたかった』という声が多数ありました。多くの人に参加していただくために、さらに広く伝えていきたいですね」(NTT東日本-南関東 神奈川事業部 総務部 総務労務担当 小林麻美氏)

  • NTT東日本-南関東 神奈川事業部 総務部 総務労務担当 小林麻美氏

カーボンニュートラルへの取り組みを加速するNTT東日本

多くの企業・団体の協力を得ている森林再生パートナー制度。神奈川県もまた引き続き水源事業を続け、県民協働による森林作りをさらに活性化していきたいという。

「みなさまのご要望も踏まえ、活動内容もちょっとプラスしていきたいと考えております。昨今は『植樹を行いたい』という要望が多いので、無花粉スギを植える活動などを検討しております」(武田氏)

「昔からご協力いただいている企業さん、NTT東日本さんのように新しく見つけて入っていただける企業さん、どちらも大事なパートナーです。一応5年という区切りはありますが、継続してもらえるよう良い関係を築いていければと思います」(岡田氏)

NTT東日本はカーボンニュートラルの取り組みを加速させており、2030年までに80%の削減、2040年にゼロを目指している。2月27日には南足柄市と「カーボンニュートラル・パートナーシップ協定」を締結するなど、自治体との繋がりも強化。地域への貢献を主眼として取り組みを進めている。

「森林再生パートナーとしての活動はまだ始まったばかりです。まずは5年間の継続した取り組みをしっかりと進めていきたいと思います。大事なのは、続けることです。いろいろな人たちが参加できる仕組みを考え、カーボンニュートラルに向けた社内の意識改革を進めていきたいと思います」(半田氏)