神奈川県横須賀市にあるICT教育施設「スカピア」でこのほど、eスポーツを活用したシニア向けの教育プログラムが開催された。リズムゲーム「太鼓の達人」を用い、心身機能の維持と活性化を目指す取り組みだ。eスポーツは高齢者にどのような影響を与えるのだろうか。

  • リズムゲーム「太鼓の達人」を楽しむ高齢者のみなさん

スカピアで開催されたシニア向け教育コンテンツ

神奈川県横須賀市は、地域活性の軸のひとつとしてeスポーツやアーバンスポーツに力を入れている。この実現に向け、2020年10月にNTT東日本、NTTe-Sportsとともに三者連携協定を締結。eスポーツ文化の創造と発信、インフラ整備による観光周遊の促進、生活利便性の向上および経済の活性化を三本柱とし、さまざまな取り組みを行っている。

そんなeスポーツ文化の発信基地のひとつとなるのが、ICT教育施設「スカピア」だ。2月17日、このスカピアで「健康促進・デジタルデバイド解消に資するシニア向け教育コンテンツ」のテストプログラムが開催された。

高齢化社会における課題は多岐にわたるが、医療費高騰、デジタルディバイドは喫緊の問題と言える。その一助としてNTT東日本グループが提案するのが、eスポーツを用いたプログラム。バンダイナムコエンターテインメントの「太鼓の達人」を用い、ゲームを楽しみながら上達や交流を図るのが目的だ。同時に、スマートウォッチによる脈拍測定、大学連携認知テストによる認知力測定、AIカメラによる表情分析を実施。シニア向けの健康促進効果についての検証も行われた。

  • 「太鼓の達人」は専用コントローラを用意

  • スマートウォッチを利用した脈拍測定も同時に行われた

当日は8名の高齢者がプログラムに参加。参加したきっかけは、「認知症予防のため」「ICT関連の新しいことにチャレンジしてみたい」「過去に病気を患ったためリハビリ目的として」「孫がプログラミングを始めたので自分も覚えて一緒に会話したい」などさまざまだ。準備運動をして体をほぐすと、さっそくチーム分けが行われた。

  • ゲームを始める前にまずは準備体操で体をほぐす

  • 折り紙のくじ引きでチーム分け

ピンクチーム、ブルーチーム各4人ずつに分かれると、まずは各チームがそれぞれ別の歌を同時に歌うというレクリエーションを行い、チームの一体感を醸成。そしてついにプログラムがスタートした。これまでも何度かプレイしてきた高齢者の皆さんは、チームメイトの声援を受けながらゲームに邁進。かけ声に合わせてリズミカルに太鼓を叩いていた。

  • ピンク・ブルーチームが同時に別々の歌を歌うというレクリエーション

  • 真剣な表情で太鼓を叩くプレイヤーと、応援するチームのみなさん

  • リズムよく叩けているときは自然に笑顔になっていた

こうして、盛況のうちにゲームは終了。最後に整理体操を行い、目のマッサージをしてプログラムを終えた。

  • ゲームに疲れた目をクールダウンさせプログラム終了

プログラム中に最高得点を達成した女性は、高得点のコツを聞かれると「今日は機嫌が良かった。気分が良いとタイミング良く叩ける」とコメントする。クールダウンの対応を終えたみなさんからは「ぜひ継続したい」「脳の活性化に役立つと思う」「大変良いリハビリになる」「思ったよりうまくいかないところが楽しかった」などの感想を伺うことができた。

高齢者向けeスポーツに力を入れるNTT東日本グループと横須賀市

今回の取り組みについて、スカピアのICTに関する企画を行うNTT東日本、スカピアを運営するテルウェル東日本、プログラムを企画するNTTe-Sports、そして現地での運営を担うBCCにその意図を伺ってみたい。

「これまでも介護福祉分野にゲームを取り入れたいというご要望は非常に多かったのですが、大きな課題は操作性でした。そこで、高齢者でも操作が分かりやすい『太鼓の達人』を用いたプログラムを作りました。音楽を通して自然にゲームに入り込めますし、チーム戦にすることでコミュケーションが発生し、一体感を得ることもできます」(NTTe-Sports 担当課長 甲賀晶子氏)。

  • NTTe-Sports 担当課長 甲賀晶子氏

また、レクリエーション介護士の丸本氏は「スポーツであることが重要」とその意義を強調する。高齢になると、どうしても外出の機会は減ってしまう。しかし室内でスポーツに取り組むことができ、室内でコミュニケーションが取れることが重要な観点だという。

「近年はお店の予約、レストランの注文もタッチパネルが当たり前で、今後はさらに増えていくでしょう。ですが高齢者の方がこれらの機器を操作できないことは少なくありません。そういったデジタル機器になれるという意味でも、身近なゲームに触れていくのは大事だと感じました」(レクリエーション介護士 丸本 幸氏)。

  • レクリエーション介護士 丸本 幸氏

横須賀市において、デジタルデバイド解消という役割を担う施設がスカピアだ。テルウェル東日本 サービスマネジメント部 アセットプランニング担当・ビジネスサポート担当 専任課長 田中 均氏は、「私もむしろプログラムに参加する歳ですけど、非常に入りやすいと感じます。『太鼓の達人』で曲を選んだりするだけでもコミュニケーションがあるし、リズムを取るというのはそれだけで健康促進効果があると思います」とベテランならではの意見を述べた。

  • テルウェル東日本 サービスマネジメント部 アセットプランニング担当・ビジネスサポート担当 専任課長 田中 均氏

さらにNTTe-Sportsの甲賀氏、BCCの狭間氏は、次のように続ける。

「今回の取り組みは、5回続けて実施するという継続性があるんです。続ける中では、やはりコミュニケーションが重要になってきます。それによって来るのが楽しみになったり、よりゲームに習熟し、上達の楽しみを覚えられます。それと、やっぱりゲームの良さは多世代で楽しめることです。スカピアは午後になると小学生の子たちでいっぱいになります。今後は高齢者のみなさんと子どもたちの対抗戦だったり、さらに親御さんを含めた交流などにも繋げていきたいと考えています」(NTTe-Sports 甲賀氏)。

「みなさん継続して通われてるので、ゲームに慣れてきていらっしゃるなと感じました。生活の一部として取り入れていただいていると思います。ゲームに触れることで、自分の特技や強みも出せると思うので、さまざまなゲームを楽しんでいただきたいですね」(BCC ヘルスケアビジネス事業部 上席マネージャー 狭間希代美氏)。

  • BCC ヘルスケアビジネス事業部 上席マネージャー 狭間希代美氏

“eスポーツの街”を目指している自治体は多いが、横須賀市もそのひとつだ。例えば部活動の設立を行政が後押しすることで、同市にある13の高校のうち8校がすでにeスポーツを導入しているという。しかし、若年層だけでは街の文化として浸透させるのは難しい。やはり多くの世代を巻き込み、その街のイメージとして定着させなければならない。

「とくにシニアの方にeスポーツを広めるのはなかなか難しいと思います。今回のような活動を通して、『一緒にやれるんだよ』『こんなに楽しいんだよ』と伝えることは、とても重要だと感じています。これからもシニア向けにいろいろ楽しんでいただけるコンテンツを増やしていきたいですし、お子さま、親御さん、高齢者まで、市民のみなさんに愛される施設を目指していきたいと思います」(NTT東日本 地域ICT化推進部 主査 加来良太郎氏)。

  • NTT東日本 地域ICT化推進部 主査 加来良太郎氏

スカピアでは親子向けのプログラムとして、ロボットを製作しプログラミングを行う「ロボット製作、プログラミング講座(embot)」、タブレットを使って脳トレ感覚でそろばん式暗算を学ぶ「デジタルそろばん講座(そろタッチ)」も開催している。これらのプログラムでは、子ども交流イベントとしてシニアとのコミュニケーションも用意されている。NTT東日本グループと横須賀市の取り組みが、これからますます加速していくことに期待したい。

  • 「ロボット製作、プログラミング講座(embot)」で行われた子ども交流イベント