インフラ設備の運用に危険はつきものだ。それだけに安全性確保はインフラ業者の至上命題と言える。ICT技術を用いて安全性向上に取り組むNTT東日本は、埼玉県さいたま市大宮区で「関信越 安全スタジアム」を開催。インフラ設備運用の安全への取り組みを公開した。
日々危険にさらされるインフラ設備運用の作業員
我々の毎日の生活や産業を支えてくれている、電気やガス、水道、交通網や通信網といった社会インフラ。だが、このインフラを整備する事業者は、常に危険と隣り合わせと言える。高所での作業が多い上、災害時には真っ先に復旧作業を求められるからだ。また昨今は少子高齢化の影響から人材不足も進行しており、作業者の負担は増大している。
日本の通信を支えるNTT東日本もまた、重要な役割を担うインフラ事業者のひとつだ。同社は、危険が伴う業務に従事する作業員の安全性を高めるべく、設備保全業務の安全性向上と業務効率化への取り組みを行っている。
そんなNTT東日本が、2022年12月13日に埼玉県さいたま市大宮区で開催された「関信越 安全スタジアム」で、日ごろの設備運用・保全業務で培った知見と、AI・ICT・VR等の技術を活用した設備運用を公開した。
さまざまな事故を体感できる体験型展示
「関信越 安全スタジアム」の大きな目玉は、実機やデモンストレーションを中心とした体験型の展示だ。実際に起こった事故の追体験は、来場者の心に安全性向上の必要性を強く訴えかけるものだった。
危険作業の疑似体験では、仮想現実(VR)を使って路上で作業を行う際の危険を学べる。停止させたバケット車の安全を確保するために車止めを付けたり、カラーコーンを設置したりするのだが、安全に作業をしているつもりでも思わぬ所から危険が訪れる。突然のアクシデントに「うわっ!」と声が出てしまうこともあった。
宙吊り体験は、胴ベルト型のハーネスとフルハーネスの人体に与える影響を学べるデモ。胴ベルト型は確かに落下は防止してくれるが、一点でぶら下がることになるため、体に与える衝撃が非常に大きい。その衝撃で腰に大けがを負うこともあったという。また長時間宙吊り状態になることで、呼吸困難、内臓圧迫という事態に陥ることもあり、およそ20分ほどで意識を失ってしまうという。そこで現在は、労働安全衛生法によりフルハーネスが義務づけられている。
実際に体験してみると、落下の衝撃がなくとも胴ベルト型は非常に息苦しい。これでは宙吊りになったとしても、電話をかけることすら困難だ。それに対しフルハーネスは負荷を分散して支え、首の後ろを支点に吊られるため、体を比較的自由に動かせる。呼吸や会話も容易だ。
落下体験は、高所で自分を支えている命綱(ランヤード)が外れたらどうなるかを体感できる。ランヤード自体は非常に太く、切れることはまずない。しかし、ランヤードのフックをカラビナなどの不適切な箇所にかけると、荷重に耐えられずカラビナが破断する危険性がある。基本的にランヤードを信頼して作業を行うため、落下時は危険な体勢になりがちだ。体験コーナーのように低地で、意図的にランヤードが外されて転落することが分かっていても、その恐怖は大きい。
落下物体験は、高所での作業中に工具などを落下させた際、下にいる人がどのような被害に遭うのかを学べる。その衝撃はヘルメットを被っていても相当なもので、もし一般歩行者に当たってしまったら……と考えるとゾッとする。同時に、ヘルメットの大事さを体感できた。
梯子滑り体験は、その名の通り梯子の足が滑って倒れた際の危険を学ぶもの。デモでは途中で止まってくれるが、それでも滑った際の「ヒュッ!」とする体験は心臓に悪い。本当に下まで倒れた場合は顔面を強打し、鼻の骨や前歯が折れたりするという。
検電体験は、検電器を使った電圧のチェックを体感するデモ。通常、NTT東日本の設備に100ボルトといった電圧は掛かっていないが、地震や台風などの災害後は、なんらかのトラブルで作業員に高電圧が掛かる危険性があるため、入念な確認が行われているという。
ICT技術で安全性向上を目指すNTT東日本
通信インフラ設備を安全に運用するため、NTT東日本はICT技術を駆使したさまざまな取り組みを行っている。
たとえば、VRを用いた運転教習もそのひとつ。近年は自動車の運転経験が浅い人やペーパードライバーが増えており、社用車で事故が起きやすくなっている。とくにバケット車やトラックのような大型車両では一般車両以上に運転技術が求められる。そこで、VRを使って運転に関する知識やスキル、危険予知をトレーニングしている。
工事作業中の事故を減らすための警告灯もさまざまな製品が比較・検討されていた。自動車が作業エリアに入ってきた際に光と音で警告を発してくれるセンサーもあり、技術の進歩が感じられる。
AIを活用して、現場作業の安全性を向上させる取り組みも進んでいる。通信ケーブルは一部の地下配線を除くと電柱に敷設されているため、作業員は道路上に高所作業車を駐車しての工事を余儀なくされる。
このような環境下において、ネットワークカメラで高所作業車周辺の映像を撮影し、AIがリアルタイムで危険性を分析するのが「危険作業検知システム」だ。高所作業車や作業員、バケット部、梯子やカラーコーンなどの位置関係からAIが危険を検知し、現場事務所に通知を行う。
危険予知活動の一環としては、音声を自動でテキスト変換する取り組みが行われている。これまでも作業者の安全確保のためにボイスレコーダーが利用されていたが、音声データの書き起こしに手間と時間が掛かり、フィードバックが遅れていた。
そこで開発されたのが「ボイスKYシステム」。作業者の声のみならず、天候や場所などの環境情報や現場写真撮影も同時に行えるため、より危険予知活動による作業者の危機感受性が向上することが期待されている。
効率化を促す例として、ICタグによる作業前の工具等の使用前点検事例も展示。紙管理からICタグによる管理に変更することで点検時間を削減できるだけでなく、クラウド化によって上長が遠隔地にいたり、テレワークをしていたりしてもPCで確認することができる。
女性作業員目線での改善も進行中だ。たとえば、作業ワイシャツに速乾性生地を導入することで汗ジミが目立たなようにしたり、頭の小さな方やロングヘアーの方でも被りやすい作業ヘルメットを開発したりしている。こういった工夫は、女性のみならず男性の労働環境改善にも繋がるだろう。
地域住民の課題解決への貢献を目指すNTT東日本
ここまで「関信越 安全スタジアム」での展示内容を紹介してきたが、この他にも計測者を走らせて測量・点検・調査を高速で行うMMS(Mobile Mapping System)や、気象情報・設備・写真・地図をレイヤーで重ねて表示し、必要な情報を検索、抽出するトリプルIPなど、さまざまな取り組みが取り上げられていた。
デジタルトランスフォーメーション(DX)といえば業務の効率化に目が向きがちだが、NTT東日本はその技術を用いて、日々安全性向上の歩みを進めている。これらの知見はインフラ事業者のみならず、現場作業を行う多くの企業や地域住民の課題解決の助けになりそうだ。これからもNTT東日本の取り組みに注目していきたい。