■俳優業でも活かされたKing Gnuとして積み重ねた経験値
――今作では、初主演ということに加えて、原作を手掛けた伊藤ちひろ監督が映画化にあたって、井口さんにススメを当て書きして脚本を作られました。King Gnuとして大きな舞台も経験している井口さんですが、普段の活動と違ったプレッシャーはありましたか?
井口:全然違いますね……。ライブは生ものですけど、映画も撮影のその場においては生ものではあるんですけど、作品として残って永続的に観ることができるという怖さはあります。
馬場:音楽もライブ映像とかで残るじゃないですか。
井口:音楽は自分として歌ってそれが残るけど、例えば今回でいうと失敗した状態のススメが作品として残ってしまったら沢山のものを台無しにしてしまう。伊藤監督が10年かけて書いた小説だし、自分だけの作品ではないので、そこを汚してしまわないようにというプレッシャーはありました。
まぁでも、ステージに立つときもよく思っているんですが、仮に失敗しても全力だったら仕方ないと。今回も全身全霊で臨んで、それでも失敗してしまったら他の人も許してくれるだろうという気持ちで臨みました。
――ある意味、King Gnuとしてステージに立っているときのメンタルが活かされたと。伊藤監督のお話も出てきましたが、お2人から見て監督はどんな方でしたか?
馬場:お話ししていると、頭の中に明確に見えているビジョン・画があるんだろうなと感じます。役のたたずまいから細かくイメージを持っているので、「ちょっとだけ口を開けていて欲しい」とかあまり他の監督さんからは聞かない指示をもらいましたね。
井口:撮影中のディレクションも表現は抽象的だけど、監督の中にあるイメージは具体的だった。
馬場:「とりあえずやってみます! 合っているかは見てください」みたいなことが多かったかも。
井口:確かに。あと、監督はもともと小説家を志望されていて、映画の小道具としてこの業界に入って脚本を書き始めて最終的に小説も書いて、それを映画化しているんです。いろんな世界にいた人だから、視点も独特なんじゃないかなぁ。多面的に見えるんだと思います。やっぱり小道具は気になるみたいでしたし。
馬場:宮子の部屋に敷いてある布がシーンごとに違うんですけど、毎回自分で敷いてたよね。
■馬場ふみかを形成した10代の経験「今思えば……」
――井口さんが演じたススメは不器用な青年だと思いますが、アーティストと俳優、モデルと女優など違ったジャンルでお仕事されているお2人は、ご自身のことを不器用だと感じますか?
井口:不器用ですね……。僕もまだ自分をコントロールできていないことがあります。たまにライブ映像を見返していると、「このときのライブ、めちゃくちゃ目が泳いでる!」と思うことがあります(笑)。表に出る仕事をしている人って、見られている自分をコントロールする意識があると思うんですけど、まだそれができていなくて……致命的だなと(笑)。でもそれが今回のススメにはいいように作用したのかなと思いますね。
馬場:私はどっちもあると思うな。仕事でみると不器用だけど多少の器用さもある。でも私生活は不器用ですね(笑)。コミュニケーションって難しいなと年々感じる場面が増えてきたような気がしていて。言ってもいいことと言っちゃダメなことの2択じゃなくて、言いたいけど言わない方がいいことみたいな選択肢もあって、考え過ぎて何も伝わらないことも少なくないかも。子供とかって無鉄砲に何でも言えてしまうから、それがうらやましいなと思います。
井口:俺なんてコミュニケーションで失敗したことだらけですよ。ラジオをやっていたりすると、なんとか場を盛り上げなきゃみたいな意識が働いていて。いわゆる“死んだ笑い”と周りからは呼ばれているんですが、場を何とかするためだったら、身を切り売りしちゃうんですよね。そんなことだらけです……。
馬場:“死んだ笑い”(笑)。私はコミュニケーションで記憶にあるのは学生時代のことですね。姉がとてつもない反抗期を迎えて、それを近くで見て育ったので、お母さんに反抗的な態度をとるのは良くないと思って、なんでも言うこと聞いていたんです。でも、今思えばぶちまけることも大事だったのかなと……。
井口:そこで人格形成されていくもんね。
馬場:そう。大人になってから飲み込みがちだなと感じることも多くて。でも飲み込んだところで消化しきれるわけもないので、違うところで爆発してます(笑)。
井口:じゃあどちらかというとススメよりだったということで……。
■井口理が感じた音楽と芝居の共通点
――意外な共通点ですね(笑)。では最後に、「今回の作品で役者としてのスタートを切れた」とお話しされていた井口さんですが、今後やってみたい役柄や作品のイメージはありますか?
井口:めちゃくちゃな役とか、コメディとか好きなのでやってみたいですけどね……。でも正直、「スタートを切れた」というのは前向きすぎる言葉な気がして。今まで自分が音楽をやってきた中では、お客さんの前でライブをすることで幸福感を得ていたんですが、今回馬場さんや河合さんと一緒に芝居をしていく中で、ライブで感じるような“生もの”の感覚を感じたんです。なので、それを感じたことで役者として1歩だけ前に進めたのかなと。
馬場:井口さんがこれから役者さんとしてどんな作品に出るのか、私も楽しみです!
■井口理
1993年10月5日生まれ、長野県出身。唯一無二の世界観を築きあげているバンド“King Gnu”でボーカルとキーボードを担当。近年は俳優としても活動し、映画『劇場』(20)、『佐々木、イン、マイ マイン』(20)、ドラマ『MIU404』(20)などに出演。YouTubeドラマ『GOSSIP BOX』(21)では主演もつとめた。10日公開の 映画『ひとりぼっち じゃない』では初主演が決定している。 2019年4月から約1年間、ニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』の木曜日パーソナリティを担当。ナレーション業なども含め、活動の幅を広げている。
■馬場ふみか
1995年6月21日生まれ。新潟県出身。2014年に女優デビューし、同年『仮面ライダードライブ』にメディック役で出演し、話題を集める。その後も映画『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(18年)や『恋は光』(22年)、『てぃだ いつか太陽の下を歩きたい』(22年)に出演。また、女性ファッション誌『non-no』(集英社)の専属モデルを務めるなどモデルとしても活躍している。